2011 Fiscal Year Research-status Report
低酸素脳症者の実態、生活支援、社会支援についての多施設協同研究
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23530748
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Research Institution | Tokyo University of Social Welfare |
Principal Investigator |
先崎 章 東京福祉大学, 社会福祉学部, 教授 (20555057)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浦上 裕子 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所)・病院, 第一診療部(研究所併任), 精神科医長 (00465048)
花村 誠一 東京福祉大学, 社会福祉学部, 教授 (40107256)
大賀 優 茨城県立医療大学付属病院, 診療部第一診療科, 准教授 (10251159)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 低酸素脳症 / ICF / 高次脳機能障害 / 記憶障害 / 発動性低下 / アパシー |
Research Abstract |
「低酸素脳症の日常生活記憶の経過研究」 (1)低酸素脳症による日常生活上の記憶障害の回復は、意欲の改善によるところもあり、発症3ヵ月以降でも向上がみられた。一方、(2)回復期の時期を過ぎて、当初の綿密な介入や指導がなくなると12例中5例(42%)で記憶検査値は低下した。(3)回復期を過ぎた後の継続した生活支援、社会支援が重要であることが示唆された。「低酸素脳症のICFを利用した研究」 低酸素脳症10例にて、(1)記憶障害や発動性(自発性)低下が、ADL低下や社会参加の少なさに関連していること、(2)CASややる気スコアや流暢性で把握できる自発性の低下は、FAMによるADLの一部、ICFによる活動と参加の項目の一部と相関すること、(3)ICFにより低酸素脳症者の生活障害が把握できること、が示された。「生活支援、社会支援についての研究(ケーススタディ)」 埼玉県の高次脳機能障害拠点機関における1年間の全相談226件中12件が低酸素脳症であった。記憶障害が非常に重度な例もあり、今後の生活支援にあたって、コーディネーターと精神科医の連携が必要であった。(ケース1)行動記憶検査値は10年間、中等度低下のままであったが、社会参加状況は支援(集団体育活動、支援施設、地域デイケア)によって広がりをみせた。(ケース2)出産時出血性ショックによる重度記憶障害者では、育児や家事にあたってメモをとり見直すというスキルの定着と心理的サポートが不可欠であった。(ケース3)視覚探索に困難がありメモが不可能な者では、聴覚刺激による援助が有用であった。「日本語版家族・支援者チエック用ICFコアセット(脳外傷者用簡易版)」 生活や社会参加の経時的な変化を、家族や支援者として把握したいとの要望に答えるべく日本語版ICF脳外傷コアセット(イラスト入り)を試作した。信頼性と妥当性を検討してから、公開予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「対象者数が少ない点」 当初、当事者の会の協力を得て、多数例を集める予定であった。しかし直接に診療や神経心理学的検査を行っていない例を取り込んで、後日、医療機関に来院させ神経心理学的検査や精神症状評価を行うことは、当事者の協力が得られず、また実施できる検査の限界もあり困難であった。関係医療機関(埼玉県総合リハビリテーションセンター、国立障害者リハビリテーションセンター)に受診している例を主たる対象として研究を行ったため、対象数が少なくなった。「対象者が身体障害の目立たない例というバイアスがかかっている点」 当初、麻痺や失調といった身体障害が重い者も調査対象として想定していた。しかし、身体症状が重篤な例では、記憶力や注意力を把握する定型だった検査にのせることが難しく、処遇のみの調査に留まってしまうことが判明した。また、埼玉県総合リハビリテーションセンターで対応する者が、当該施設の方針として身体障害の目立たない高次脳機能障害を主体とすることに変更になったため、対象者にバイアスが生じ、身体的には麻痺や失調などの大きな問題がない例での検討に留まった。「発動性に関する調査の難しさ」 日本語版の発動性スケール(CAS日常生活行動観察、やる気スコア)は、信頼性や妥当性が担保されているとはいいながら、低酸素脳症者の微妙な発動性の低下を確実に評価するには難があった。また社会的な活動をみるCIQも日本の文化に合っていないという限界があった。「ICF研究の問題点」 低酸素脳症者の生活状況をICFにて評価する作業が難解であった。日本で公開されているICFでは、各項目の日本語訳が実用レベルにはなされていない現状がある。また各項目について5段階での評価基準が、現状のままでは曖昧で評価がしにくいことがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終的には3年間の研究の成果を「現在の日本の医療・福祉システムの中で、低酸素脳症者に対する定型だった生活支援、社会支援のあり方を提言する」という意図で冊子にまとめ、関係機関に配布することを目標におく。そのための全体の研究方向は、(1)神経心理学的検査(RBMT、TMT、流暢性)やアパシースケール、HAM-D、FAM、CIQを用いて、認知機能やADL、社会参加状況を継時的((1)発症3~6か月時、および(2)発症6か月~1年時)に定量化することで、発症からの回復過程を明らかにすること、(2)在宅生活や社会参加に向けた支援において必要な因子をICFの、主に「活動と参加」「環境因子」から抽出することを、引き続き行う。びまん性軸索損傷者を比較対照とする。 研究進行が遅延となっている要因について、以下の通り進行を試みる。すなわち、「対象者数が少ない点」については、今後、東京医科大学茨城医療センター、神奈川リハビリテーション病院、筑波記念病院、表参道こころのクリニックなどの多施設の協力を得て、対象者を広げて例数を確保していく。「対象者にバイアスがかかっている点」については、上記対象者を広げることで解決していく。ただし、高次脳機能障害や発動性の低下という目に見えない障害をどのような方法で把握し、どのように社会支援を進めるべきかは、本研究の重要な課題である。したがって、身体的に大きな障害がない層の検討であることにも意義を見出せる。 「ICF研究」については、脳外傷者ICF日本語版コアセットの利用・改良などの作業を通して副産物として、リハビリテーションや福祉の現場で、家族も使用できる脳外傷者(脳損者)用ICF日本語版コアセットの作成を目指す。 なお、広く低酸素脳症者一般に有用な生活支援、社会支援のあり方を、個々事例から探るケーススタディや各施設内での検討は、引き続き各研究者、研究協力者が行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「全体での研究」 東京医科大学茨城医療センター、神奈川リハビリテーション病院、筑波記念病院での低酸素脳症のケース(身体障害も高次脳機能障害も合併していて比較的重症なケースも含めて)の実態と援助も含めて検討する。研究費の一部を当事者の研究協力に対する謝金、およびデータ整理や入力を行う事務補助者、関係者への謝金に当てる。国立障害者リハビリテーションセンター、埼玉県総合リハビリテーションセンターについても同様とする。また、各施設での論文作成のための諸経費に当てる。平成24年度研究報告会、社会精神医学会、高次脳機能障害学会等の発表出張費用に当てる。「ケーススタディ」 埼玉県総合リハビリテーションセンターが関与した、低酸素脳症者の中でも特殊なCO中毒のケース、雪山遭難による心停止のケース、について経過を後方視的に検討し、症状の経過と援助、社会支援について論文とする。千葉リハビリテーションセンターで実施した低酸素脳損傷例の検討について論文とする。研究費の一部を、これら論文作成にあたっての費用(データ解析、英文校正)に当てる。他の各施設でのケーススタディについても同様とし、論文作成のための諸経費に当てる。「ICFに関する研究」ICF一般の日本での使用状況、各種コアセットの利用について文献的に調査し発表する。調査費用、参考図書購入にあてる。脳外傷者用ICFコアセット(日本語版)を埼玉県総合リハビリテーションセンター外来通院中の低酸素脳症者10例程度、脳外傷者50例程度に使用し、脳外傷用コアセット(日本語版)の信頼性と妥当性について検討する。その際、ICFはストレングスモデルを基にしていて、症例ごとの質的検討には有用だが、能力障害の評価や量的検討にはなじまないという立場もふまえる。脳外傷者ICFコアセット日本語版を刊行する費用にあてる。(中間時点での刊行物を作成する。)
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Research Products
(14 results)