2012 Fiscal Year Research-status Report
医療化社会での自助集団の世界観の発展と再生:自死遺族と酒害者をめぐる比較事例研究
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23530756
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
岡 知史 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (50194329)
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Keywords | 自助グループ / アルコール依存症 / 自死遺族 / 医療化 / グリーフ / 自死 / 世界観 / 断酒 |
Research Abstract |
2012年度において主要業績は以下の3点である。第1に「上智大学社会福祉研究」に掲載したDanshu-no-michi, "The Way of Abstinence": Japanese cultural-spiritual model of alcohol abstinence developed by alcoholics’ self-help groupsである。ここにおいて断酒会で伝統的な「断酒の道」を、日本の文化的でスピリチュアルなモデルとして描いた。2点めは、Oka, Tomofumi. (2013). "Grief is Love": Understanding grief through self-help groups organised by the family survivors of suicide. In A. A. Drautzburg & J. Oldfield (Eds.), Making sense of suffering: A collective attempt (pp. 75-86). Freeland, UK: Inter-Disciplinary Pressである。「グリーフは愛である」という自死遺族の自助グループの世界観をまとめた。3点めは、日本社会福祉学会で発表した「医療化と自助グループの世界観との矛盾あるいは相克:自死遺族の会と断酒会の比較事例研究及びアクションリサーチ」である。断酒会の医療化として、強調する点が「新生」から「回復」へと変化した。一方、医療化のモデルの限界も認識されるようになった。自死遺族の場合は、自死のハイリスク者として自殺対策基本法ではとらえられていた。遺族の会はそれに強く反発し、「悲しみ」を専門家による治療の対象とはせず、「悲しみ」を受容し、それを肯定的に意味づけしようとしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はおおむね順調に進展している。その理由としては、研究対象の断酒会会員、自死遺族との信頼関係が時間をかけて話し合うことによって深まったことがあげられる。また、2012年度は、多くの書籍を購入し、論文を収集することによって、断酒や自死とそれにともなう家族の悲嘆について、どのような言説がなされているのかを見ることができた。断酒会、自死遺族ともにその考え方も多様であり、周囲の専門家の考え方への反発や疑問、共感や賛同から、まだ十分に文化として成熟していないことも見えてきた。むしろ酒害や悲嘆についての言説が、一般向けの書などをとおして日本社会に氾濫しており、それらを先に整理したほうが良いのではないかと考えるようになった。医療化と自助グループに関しての膨大な文献の存在も確認でき、これらの先行研究の理解も、本研究を進めるうえで重要であることがわかった。断酒会や自死遺族の会の考え方のなかに、日本文化の特徴をよく表した要素があることがわかり、国際的な、あるいは比較文化的な自助グループ研究の進展が期待できるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
グリーフの比較文化的な研究で世界的に著名なクラス博士を、この秋、東京に招請することが決まっている。このクラス博士との討論を通じて、日本の自死遺族の会のグリーフに関する考え方が日本の文化に合ったものであり、遺族の支えにもなるのだということを示していきたい。また断酒会については、この秋に、東京断酒新生会の60週年記念集会で基調講演を依頼されている。この機会を通じて、東京断酒新生会のリーダー層の人たちと話し合い、断酒新生という歴史的、伝統的な概念を、現代の断酒会のあり方にも活用していく方法を考えていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記のように秋には、アメリカから著名教授を招請し、遺族の悲嘆についての共同研究を行う予定であり、その旅費等に研究費は使われるだろう。また初夏には、アメリカのコミュニティ心理学の学会に参加し、そこで断酒会の考え方(「断酒の道」)についての調査結果を発表する予定である。その旅費は、私費でまかなうつもりであるが、ポスターの制作や英文校正に研究費を用いる。さらに、秋には、断酒会の全国大会が沖縄であり、それに参加し、また和歌山県にある断酒道場にも参与観察の機会をもちたいと考えている。それぞれの旅費にも研究費を用いたい。
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