2015 Fiscal Year Annual Research Report
医療化社会での自助集団の世界観の発展と再生:自死遺族と酒害者をめぐる比較事例研究
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23530756
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
岡 知史 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (50194329)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 自助グループ / 医療化 / 体験的知識 / 専門的知識 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究(「医療化社会での自助集団の世界観の発展と再生:自死遺族と酒害者をめぐる比較事例研究」)では、いろいろな問題を医療の問題として処理しようとする現代社会(医療化社会)において、自助集団が当事者の生活課題解決に役立つ固有の世界観をいかに発展、維持あるいは再生させようとしているのかを探ることを目的としていた。そのために、その世界観を発展させつつある日本では発足まもない自死遺族の会と、それと対照的に日本の自助集団としては最長の歴史を誇りながらも関連医療との連携によって当事者間に医療化の考え方が浸透し自助集団固有の世界観が見えにくくなっている酒害者の会(断酒会)を2つの事例としてとりあげ、その比較を行いつつ考察した。 この研究を始めた時点では、「医療の問題」は、すなわち「医療という科学的方法によってアプローチする問題」と単純に考えていたが、研究を進めていくうちに臨床現場で実践する治療者の認識は、科学者の認識と必ずしも一致しないことに気がついた。また一方で自助集団は、当事者としての体験に基づいて知識を発展させてきたという前提で研究を進めていたが、実際は、伝統的な考え方や、ポップ心理学からくる科学的根拠の乏しい概念も使っている。 いいかえれば、この研究を始める以前は、専門職は科学的知識、自助集団は体験的知識をもつという単純な2つの知識の形を考えていたが、実際は、専門職はもっぱら臨床家としての経験に基づく、必ずしも科学的な実証に基づいていない知識を用いているのに対して、自助集団は、社会のなかに流れているポップ心理学や、当事者の体験とは関連のない、伝統に基づく考え方から多くの知識を形成していうことがわかった。 これは自助集団の研究が長い間、伝統としてきた知識の二分法(専門的知識と体験的知識)に疑問を投げかける大きな発見であり、この研究の意義は、ここにあると思われる。
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