2011 Fiscal Year Research-status Report
団塊(ベビー・ブーマー)世代の引退過程の国際比較と社会保障の効率的配分研究
Project/Area Number |
23530807
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Research Institution | National Institute of Population and Social Security Research |
Principal Investigator |
西村 幸満 国立社会保障・人口問題研究所, 社会保障応用分析研究部, 第2室長 (80334267)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
酒井 正 国立社会保障・人口問題研究所, 社会保障基礎理論研究部, 研究員 (00425761)
野口 晴子 国立社会保障・人口問題研究所, 社会保障基礎理論研究部, 第2室長 (90329318)
泉田 信行 国立社会保障・人口問題研究所, 社会保障応用分析研究部, 第1室長 (70360716)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ベビー・ブーマー / 引退過程 / 国際比較 |
Research Abstract |
本研究は,1946-1949年生まれのベビー・ブーマー(以下,BB世代)について,引退過程における生活実態を明らかにし,引退過程が健康と医療行動,就業行動により受ける影響を経済学的・社会学的な分析枠組みを用いて解明することにある. 初年度は,BB世代の日本社会へのインパクトを確認した.研究分担者によるデータの整理・分析と有識者の報告から以下のような知見が得られた.ポイントは,学校教育,職業分布,2007年問題である引退過程である.学校教育のインパクトは,小中学校では人口規模の拡大に学校数が対応したが,高校では学校は微増であった.生徒の進学数は拡大し,一校当たりの生徒数の拡大が確認された.報告によれば,BB世代に対する各自治体の対応は異なり,(1)学校数の増加,(2)教室数の増加・増築,(3)分校の増加で対応した結果が高校数の微増であった.BB世代(1946-1950生)とその10年前生世代(1936-1940生)の職業分布をみると,25-29歳時はほぼ変わらないが,45-49歳時では管理職と技能職の占める割合がBB世代で高い.また20-24歳に限って年齢コウホート別の職業分布を確認すると,BB世代以降で学生比率が高く,25-29歳で事務・販売職の比率が高い.20代に急激に需要の増えた事務・販売に移動がある.研究会ではBB世代を含む中高年と20代の若者世代とのクラウド・アウト(押し出し)の検証が報告され,国際比較の結果も含め仮説は支持されなかった.BB世代の2007年以降の就業選択では,引退期にもつ技能がスペシャリスト的な性質を保持する方が,正規・非正規という雇用形態の継続よりも,自営業選択へと向かう傾向が示された.さらに,BB世代以降第2次BBまでは,就業と経済的自立が同義であったが,BB前世代と30代前半より若い世代では,同義ではない可能性も示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,BB世代特有の特質を抽出する手続きとして,同様の現象をもつ主に先進国との国際比較を検討している.初年度の計画では,出生年齢コウホートの比較を他の国において確認することを,国内の確認同様に目指していたが,国際比較用の調査データの2次利用において公開時期などの制限があり,調査データの利用をすることができなかった.この点は,2年度以降の課題として残した.他方で,日本の実態については,先行研究レビューと研究分担者のデータ分析以外にも,研究会に招聘した報告者の内容によって,当初の期待以上の進捗を得ている.BB世代を含む中高年と20代の若者世代との雇用のクラウド・アウト(押し出し)仮説の国際比較研究は,本研究にとっての周辺課題の一つをクリアしている.また2007年にBB世代が引退して年金受給することによる財政上の問題は,一部は再雇用などの企業問題へと転嫁されていることが明らかになっていることは重要な知見である.研究代表者・分担者からは,日本のBB世代と第2次BB世代の間においては,異なる事実が指摘された.一つは,BB世代が義務教育システムの拡大に寄与し,その恩恵が第2次BB世代にまで享受されていること.高校においては一時的な人口規模の拡大という対応がおこわれ,これもBB世代以降縮小している.他方で,BB世代の就業は20代前半時には「学生」の増大はみられたものの,初職入職時点ではBB世代の前生世代と構成は同じであったが,20代後半の就業には構成の違いがみられた.1970年代に20代後半になるBB世代には,経済成長による就業変動が生じていた可能性がある.以上の結果,2年度以降の国際比較においては,日本のBB世代の特質を鮮明にするため,BB世代とその前生世代との年齢コウホート間比較を優先することとなった.この点は初年度の大きな成果といえる.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の2年度では,国際比較可能な調査データの2次利用を推進し,次のような課題をもってできるだけ検証をおこなう.まず,初年度で得られた義務教育レベルの拡大と後期中等教育での多様な対応という社会システムの変化について,2次利用データの得られた国について確認をおこなう.第二に,入職後20代における就業構造の変動の経験が日本では確認されたが,BB世代が人口規模の大きさ以外に景気上昇による影響を受けたかどうかを確認したい.第三に,40代以降の職業的達成のピーク時における前生まれ世代とのキャリアの変化・差異の確認をおこなう.第四に,引退過程における技能タイプの効果あるいは就業タイプの効果を検証する必要がある.第五に,引退過程における健康・医療行動の効果について検証を進めていく.健康・医療行動については,まず日本のデータで確認をおこなう必要がある(とくに厚生労働省の『中高年者縦断調査』の2次利用により因果モデルの検証を模索する).日本ではBB世代の引退過程は,行政からの再雇用の要請に対して企業側が考慮したこともあり,意図的に2012年まで延長された経緯がある.この点は引退決定について個人の選択に混乱を与えた可能性があるので,就業を引退したものと継続したものとで丁寧に整理する必要がある.引退過程において,とくに引退決定時期と決定要因については,調査データの2次利用では限界がある.質問票を用いる調査では,回答をうるために厳密性を問えないからである.こうした細かな情報については,質問紙調査よりも恣意的なインタヴュー調査の方が優れている.そこで(2~3年度も)随時インタビュー調査を実施してBB世代の引退決定時期と決定要因の情報を収集する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は,BB世代について間接的に言及する先行研究も含めて,文献・論文レビューを実施するとともに,社会調査の2次利用に基づく分析をおこなうために,初年度の研究費の主な内訳は,主任・分担研究者に文献の購入と分析に向けたPCの購入をした.2年度の主要な研究費は,2次利用分析では十分に肉付けできない,やや個人的な情報収集・内外の研究会で発表,研究報告者の招へいのために使用する予定である.具体的には,物品費の比重は小さく,研究代表者・分担者それぞれの旅費に加えて,研究会報告者やアルバイトの人件費・謝金に使用する.
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Research Products
(1 results)