2012 Fiscal Year Research-status Report
表情認識過程における怒り顔の優位性と注意機能の関連について
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23530958
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Research Institution | Iwate Prefectural University |
Principal Investigator |
桐田 隆博 岩手県立大学, 社会福祉学部, 教授 (20214918)
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Keywords | 顔の表情 / 怒り顔優位性 / 注意 / 全体的処理 |
Research Abstract |
前年度、視覚探索課題における怒り顔の優位性について検討した結果、怒り顔の優位性は図式顔を刺激とした場合にのみ観察され、実際の(歯の露出していない)表情写真を使った場合には、幸福顔との比較において優位性は観察されず、条件によっては逆に、幸福顔の優位性が観察された。特定の表情が他の表情より処理が速い場合、その要因として、表情の処理様式に差異があることが考えられる。そこで、今年度は、表情の処理様式の差異について、合成顔効果を指標にして検討した。 合成顔効果とは、2人の顔写真を上下に切り分け、1人の顔の上部ともう1人の顔の下部をつなぎ合わせて合成写真を作成すると、全く新しい人相が生成され、上部あるいは下部の人物の同定が妨げられる現象を指す。この妨害効果は、顔の処理が顔の部分ではなく、顔の全体性に基づく処理であることを示すものと考えられている(Calder, Hellawell, & Hay, 1987)。 合成顔効果は表情判断においても生じることが報告されているが(Calder et al., 2000)、表情によって効果がどのように変動するかは明らかではない。そこで、本研究では、怒り、悲しみ、幸福、驚きの4つの表情判断において、合成顔効果がどの程度生じるかについて実験的に検討した。 実験を行った結果、合成顔効果の強度が、判断する表情によって異なることが示された。すなわち、合成顔効果は幸福顔の判断において最も強く表れ、したがって、幸福顔の処理が他の表情と比較して全体的処理が優勢であると推測される。怒りは幸福と悲しみよりも合成顔効果の影響をうけにくく、相対的に部分的処理が優勢だと考えられる。驚きは合成顔効果が最も起こりにくく、部分的な処理が容易である可能性がある。今回の実験結果から、表情の処理様式は一様ではなく、表情によって部分処理、全体的処理の重み付けが異なる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、当初、表情検出課題における怒り顔の優位性について、多角的な視点から検討することを目的としていた。しかし、初年度の研究において、歯の露出しない表情写真を刺激として表情の視覚探索課題を実施した結果、これまで報告されていた怒り顔の優位性は、怒り顔の処理そのものに起因するのではなく、妨害刺激となっている中立顔や幸福顔の棄却の迅速性に起因しており、また、怒り顔が妨害刺激となった場合は、極端に棄却が遅くなり、結果として幸福顔の検出が遅れることが示された。これらの結果は、これまで知覚課題において示されていた幸福顔の優位性と矛盾することなく整合的に解釈することができる。しかしながら、怒り顔と幸福顔の処理について、具体的にどのような要因が、検出や知覚課題に影響を及ぼすかについては、不明のままである。 そこで、2年目の研究では、個々の表情の処理様式について、合成顔効果を指標として実験的に検討した。その結果、合成顔効果は幸福の表情において最も強く表れ、これに悲しみおよび怒りの表情が続き、驚きの表情で最も弱く表れることが示された。これらの結果から、幸福の表情の処理は全体的処理様式が優位であり、驚きの表情では部分的な処理様式が優位であることが推測され、したがって、幸福顔の処理の迅速性には全体的処理という処理様式が関わっていることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究によって、視覚探索課題における怒り顔の優位性は、怒り顔の処理特性というよりは、対比される幸福顔の処理特性(全体的処理)に起因することが示された。今後は、高速逐次視覚提示課題やフランカー課題等を用いて、怒り顔および幸福顔の処理特性について検討を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、これまでの研究成果および次年度の研究成果を国内外の学会において発表する計画であり、研究費の半分程度を学会発表の旅費として使用する計画である。また、図書および実験に必要な物品の購入や、実験補助者への謝金に残りの半分程度の研究費を充てる予定である。
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Research Products
(2 results)