2012 Fiscal Year Research-status Report
フランス革命期「ライン左岸併合地」における「公教育組織法」施行過程の実証的研究
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23530986
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
小林 亜子 埼玉大学, 教養学部, 教授 (90225491)
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Keywords | フランス革命 / 公教育 / 総裁政府 / 革命戦争 / ライン左岸併合地 / エコール・サントラル |
Research Abstract |
本研究は、フランス革命期に、革命戦争によりフランス領となった「併合地」のなかで、最も早い段階からフランスの「公教育組織法」が施行された「ライン左岸併合地」(現在のベルギー、オランダ、ルクセンブルク、ドイツ北西部)における公教育の実態を、フランス側の一次史料のみならず、当該地域の一次史料を用いて解明し、従来、理論面のみの研究にとどまっていた革命期の公教育について、「併合地」も視野に入れて、理論と実態の両面から全容を明らかにしようとするものである。 本年度は、まず、「ライン左岸併合地」に当時設けられた行政区分(県)について、昨年度に調査・収集したフランス側の公教育関係の史料のデータベース化を行い、読解・分析をすすめた。また、昨年度に調査・収集したフランス国立古文書館所蔵の「併合地」の公教育関係の史料についても、補完すべき史料の存在が明らかになったので、その収集・分析も行った。本研究の主たる史料は大部分が手稿史料であるが、フランス国立古文書館の一部の史料や、フランス国立図書館の貴重書など、マイクロフィルム媒体で入手したものがあるので、デジタル撮影した手稿史料と相互に比較・読解する上では、均質なメディアとして整理を行っておく必要があるため、マイクロフィルムの焼き付けと、スキャナによるデジタル化を行いつつ、関係史料全体の総合的なデータベース化もすすめた。 さらに、これらの史料について、当時の行政区分に基づき、併合地の各県に創設されたエコール・サントラルについても、現在のベルギーにあたる地域については、学校の履修規定や、学生の氏名、出身地域、履修科目、科目ごとの褒賞受賞学生のリストなど貴重な史料が残されていることが明らかになったので、こうした史料の分析をすすめることにより、併合地においても、公教育組織法が、弾力的な運用を伴いつつ、実際に施行されていたことをを解明しつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ライン左岸併合地における公教育組織法の施行状況について、その全体像はフランス側史料からかなりの程度解明できることがわかったので、現在のベルギーにあたる地域については、フランス側の一次史料の分析をほぼ終えて、成果を導き出すことができた。それにより、総裁政府期の公教育について、従来の研究が、法令や通達の分析から描き出してきたものとはまったく異なる、公教育組織法の施行の実態について、一次史料から明らかにすることができた。すなわち、1795年に採択された憲法の公教育条項および公教育組織法は、法令上の規定にとどまり具体的成果がみられなかったという通説的見解に対して、そうではなく、実際に、併合地でも施行され、この法制に基づく教育機関で教育に携わる人々(教授陣など)と教育を受ける人々(学生たち)を生み出していたこと、さらに、法令の運用のしかたについて、併合地も含めて、法制度からだけでわからなかった県(デパルトマン)ごとの裁量の余地についても、それぞれの県が公教育法を基本としつつも、県ごとの特徴に沿った規定を定めることができていたことを導き出せた点は、重要な成果である。 また、国際的な研究情報交換や成果の公開という点でも、フランス革命史研究所所長であるピエール・セルナ教授(パリ第一大学教授)が来日したおり(平成24年 9月)に、現在のフランス革命史研究における「併合地」や「姉妹共和国」の研究状況について情報交換も行い、本研究による 9月までの研究成果を報告したところ、高く評価していただくことができ、その後、革命史研究所から、平成26年にフランスと中国で開催されるフランス革命史研究の国際シンポジウムに、それぞれ、報告者として招聘されることが決定した。 こうした理由から、本研究は、国際的な水準に達しているものとの評価を得て、順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
フランス革命期「ライン左岸併合地」の公教育施行過程について、フランス国立古文書館の移転に備えてフランス側史料の収集・分析を前倒しですすめてきた成果として(移転に伴う史料閲覧停止措置への研究計画の変更点は、昨年度の研究の推進方策に記載のとおり)、ライン左岸併合地での公教育実施状況の地域による差異(積極的に施行したとみられる地域と消極的であったとみられる地域が存在すること)が明らかになりつつあるので、この成果をふまえつつ、当該地域での調査・史料収集を行う。 「公教育組織法」の施行に積極的であった現在のベルギーにあたる地域およびドイツのライン左岸南部地域については、当該地域の文書館だけではなく、現在も教育機関として存続している当時設立された公教育関係の施設について、調査・史料収集を行なう。また、公教育組織法の施行に消極的であったとみられる地域(現在のドイツのライン左岸中部地域など)についても、当時の教育状況の実態を解明するための現地史料の収集につとめる。 当該地域が公教育組織法の施行に積極的、あるいは消極的であった歴史的背景を分析するため、日本国内に所蔵されていない当該地域の地方史の史料集やモノグラフについて、フランス、ベルギー、ドイツの文書館等での史料収集につとめ、革命前のフランスとの関係や啓蒙思想の広まりといった点にも注意を払いつつ、革命期ライン左岸併合地の公教育施行状況を検討する。 研究成果について、国内では京都大学で行なわれる関西フランス史研究会で報告するとともに、国際的には、次年度に招聘されているフランス革命史研究の国際シンポジウムでの報告に向けて成果をまとめ、欧文化する。また、データベース化をすすめている革命期併合地関係史料についても、革命史研究所を中心に(セルナ教授の協力のもと)関係各国の文書館とも連携して、国際的な史料データベース化へと発展させていくこととする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
フランス革命期「ライン左岸併合地」における公教育施行状況について、研究の申請段階では24年度に行なう予定であった海外調査の一部を、フランス国立古文書館の移転による研究計画全体の変更のため、次年度に行なうこととしたので、その調査を実施する。 ライン左岸併合地における公教育組織法の施行状況は、フランス側史料からかなりの程度解明できることがわかったので、24年度はこれらの史料の分析を優先し、申請段階では、24年度(研究の 2年目にあたる)に予定していた併合地側の史料調査・収集の一部について、フランス側史料の分析を終えてから、次年度に調査に赴くほうが有意義であると判断した。実際に、フランス側史料から、現在のベルギーにあたる地域および現在のドイツのライン左岸南部地域については、かなりの程度分析をすすめ成果を導き出すことができたので、次年度の併合地側の史料調査・収集は、確実な成果の得られる見通しである。 また、前年度までの研究から、フランス革命期「ライン左岸併合地」のなかで、現在のベルギー地域については、それぞれの県での公教育実施に際して積極的な役割を果たした都市や町(ブリュッセル、ヘントなど)が存在することがわかったので、これらの都市については重点的に、史料調査・収集を行う。 日本国内には所蔵されていないフランス革命期の当該地域の地方史の史料集やモノグラフについても、フランス、ベルギー、ドイツの公文書館・図書館には所蔵されていることがわかったので、これらについても、収集につとめる。 本研究においては、フランス側史料のデジタル化に加え、併合地側史料もデジタル化し、両者を地域ごとに関係づけたデータベース化をすすめることも重要であり、史料のデータベース化にはかなりの時間と労力が必要であるため、昨年度に引き続き、専門的知識を有する研究補助者とともに、データベース化・分析研究作業をすすめる。
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Research Products
(13 results)