2012 Fiscal Year Research-status Report
19世紀後半プロイセンにおける公立国民学校の授業料存廃問題
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23531013
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
山本 久雄 愛媛大学, 教育学部, 教授 (20145056)
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Keywords | 国際情報交換 |
Research Abstract |
先ず,公的国民学校の授業料の存廃問題の拡がりを再度検討するため,関連領域をも視野に入れて先行研究を更に集め読み込んだ。それにより,この問題が単なる経費の負担関係の問題であるだけでなく,広く国民学校教育及びそれを担う教職の公的性格の明確化,義務教育の実質化,教育条件・環境の改善,プロイセン国家の初等教育の一元化などの問題に通底し,近代公教育の成立定着にかかわる重要問題であることを再確認した。特に,授業料廃止,教員給与への定額の国庫補助を定めた「国民学校の負担軽減に関する法律」(1888年)は,1885年の国民学校教員の年金関連法と連動し,それまでの教員処遇の改善策の一翼を担う面も持っていることが明らかとなり,これにより初等教育教員の社会的認知が図られたことを確認した。 次に,文部省官報掲載の通達及びそれらを蒐集した教育関係法令集に拠りながら,授業料存廃問題に関する政府の政策を辿り,70年代Falk文政の時代よりその徴収の容認姿勢から抑制への方向性が明らかとなり,80年代にはいってその政策が各種通達を通して具体化されることになり,これが上記「軽減法」の制定に連なっていることを確認した。これらの究明に取り組んでいる中で,その政策変更の背後に,初等教育の充実により,産業資本の成長とともに,一定のリテラシーと宗教的情操に裏打ちされたロイヤリティを備えた大量の労働力が必要とされる状況に応えようとする政策的意図があったのではないかとの示唆が得られた。 これらの知見は,10月に論文としてまとめ,学部紀要に掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.授業料廃止に至る政策動向を時系列的に把握することによりこの問題が近代公教育の成立定着にかかわることが確認でき,それらを論文にまとめることができ,中間総括とすることができた。 2.この中間総括により新たな論究課題が明確となった。当面は,負担軽減法の審議過程を辿り,そこで問題となったことを整理することにより,その政策が社会に与えたインパクトを明らかにし,問題の全体像を把握する。 3.この問題が内包する諸問題を明らかにするための資料となる,政府官報,議会議事録,統計資料,初等教育担当教員対象の新聞・雑誌などをほぼ入手できた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.議会議事録により負担軽減法の審議過程を明らかにする。 2.負担軽減法による授業料廃止が,実際に初等教育の現実を示す諸指標にどのように影響を与えたかを明らかにする。 3.統計資料により,とりわけ,教員層への影響(収入,離職,給与の内訳),教育条件・環境(1学級・1教員あたり生徒数,クラス編成)の改善の状況などを明らかにし,授業料はいしがそれらに与えたインパクトを明らかにする。 4.こうした政策動向の背後にある時代的状況を明らかにし,この問題が現代わが国の教育政策に与える示唆を考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.関連資料,特に軽減法に関連する,年金改正,維持関係法に関する議会議事録の入手(コピー) 2.資料収集,学会などの旅費
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Research Products
(1 results)