2013 Fiscal Year Research-status Report
19世紀後半プロイセンにおける公立国民学校の授業料存廃問題
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23531013
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
山本 久雄 愛媛大学, 教育学部, 教授 (20145056)
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Keywords | 授業料廃止 / 教職の独立 / 教育への国庫補助 / プロイセン / 国民学校 |
Research Abstract |
19世紀後半のプロイセン公的国民学校での授業料徴収の廃止を定めた「負担軽減法」の成立過程を解明するため以下の作業に取り組んだ。 1.1888年1月のプロイセン下院の第一読会での法案の審議過程をその速記録により,またその委託を受けてけてつぶさに法案を検討した特別委員会の検討状況をその報告書により辿った。その結果,双方において授業料廃止の是非そのものは殆ど議論されず,専ら財政政策全般の中での国庫補助の是非をめぐる議論と例外的に授業料を徴収する場合の要件・手続に関する議論とが中心であったことが判明した。これは,授業料廃止が政府の基本方針として既定のものとして確定していたからであった。 2.授業料廃止は政府の方針として既に確定していたが,その問題は既に「使途法」に関して下院本会議で審議されていた。そこで,急遽,「使途法案」の審議過程に注目し,その速記録を入手した。「使途法案」とは帝国税制の改革により各邦に公布されることになった資金の使途に関する法律案である。そこでは地方の貧困層の税負担を軽減すること,そのための税源の減少をカバーするために地方公共団体に対する国庫負担を行うことを定めているが,その審議過程で貧困層の事実上の公課となっている国民学校の授業料を廃止し,就学を促進すること,また,授業料が事実上教員の給料なっている場合には,教員は不安定な境遇に甘んじることを余儀なくされるが,授業料を廃止し,国庫負担により定額の給与を保証することにより教職に人材を集めることができるなど,政府が授業料廃止のメリットを縷々述べていたことが判明し,授業料廃止が政府の方針として既に確定していたことが明らかとなった。 3.以上の知見を仙台市での東北教育学会で発表し,同学の聴衆から有益な意見いただき,以後の研究の方向性を確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
公的国民学校での授業料廃止を定めた「負担軽減法」の成立過程がおおよそ判明しつつある。今年度は当初の計画とは異なる作業をしたが,これは研究が進んだからである。暫定的な知見ではあるが,その研究成果を外部に発表し,批判的な意見をいただくことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今までの取組により,公的国民学校での授業料廃止の具体的経緯についてはほぼ明らかになりつつあるが,同時に,このことをもう少し大局的ないし広範囲の歴史的視野で見たときにどのように映るのか,個々の政局の影響は確かに否定しがたいが,その背景にもう少し大きな歴史的事象,即ち,「紀律化」とか「識字化」などの近代社会を特徴づける歴史的事象があり,授業料はその流れの中にあるのではないかとの想念が次第に明確となった。授業料廃止の具体的経緯を更に明らかにするとともに,何とか,その歴史的意義についても究明を図りたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究に関連するプロイセン政府発行の統計資料及び官報,雑誌,新聞などが申請後相次いでweb情報として無料で公開されたことにより,資料コピー代が大幅に節約できたことが,次年度使用額が生じた主因である。 今後は,(1)研究の直接の対象とした法律に止まらず,関連する法律の審議過程を明らかにし,いわば「時代の流れ」を把握すべく,議会議事録の収集に経費を使用する(東京1回,福岡1回)。また,2.学会発表のための旅費として使用する(東京1回,仙台1回)。最後に,3.研究に関連する物品を購入する
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Research Products
(1 results)