2013 Fiscal Year Research-status Report
フランス第三共和制期の政教分離(ライシテ)とモラルサイエンス問題
Project/Area Number |
23531019
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Research Institution | Shokei Gakuin College |
Principal Investigator |
太田 健児 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 教授 (00331281)
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Keywords | ライシテ / デュルケーム / ライックな道徳教育論 / モラル・リアリティ / 社会実在論 / 集合表象論 / スピリチュアリティ / 規律 |
Research Abstract |
本研究計画は、1)デュルケームのモラルサイエンス成立以前のライックな道徳教育論の発見とそれらの分析、2)ライックな道徳教育論の形成過程とその理論構造との解明及びその典型であるデュルケーム道徳教育論の研究、3)モラルサイエンスの今日性、という三段階を設定した。1)については、カント倫理学を基盤に自己修養論的な折衷的な内容の道徳教育論であり、キリスト教も一つの歴史として扱う折衷的内容である。他方、デュルケームに代表されるモラルサイエンスは、宗教もタブーとせずメタ倫理学的スタンスの道徳教育研究であり、ライックな道徳教育論の二つの系譜の存在が解明された。2)については、デュルケームは最初期の作品ですでにその典型的な道徳研究のスタイルを形成しており、代表的なキーワード群(「社会」「集合表象」「社会実在論」道徳に於ける「義務」)の着想もこの時期に出揃っていた点が解明された。中期は『社会分業論』『社会学的方法の規準』『自殺論』などの社会学分野の著作や『道徳教育論』『教育と社会学』『フランス教育思想史』の教育学三大著作があり、これらの分析を行った。社会学分野の周知のキーワードの根底に「社会一元論」があった点、『道徳教育論』での道徳の三要素「規律」「社会集団への愛着」「意志の自律」道徳教育論もまた然りである点、神に代わってモラル・リアリティが代置された点、宗教的なるものの根本の一つ、権威・義務・強制力を神概念抜きでいかに再生できるのかがモラルサイエンスであった点が解明された。3)が今年度のノルマであったが、3)については、前出1)、2)の研究自体が同時に3)を兼ねていたわけであり、宗教的なるものの謎、個人と共同体との問題への理論的寄与が確認された点が今年度の研究実績である。しかし、この3)については、さらに哲学・倫理学、社会学の今日の最前線との緻密な照合が必要である点も確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はライシテという19世紀フランス第三共和制期独自の歴史文脈の中で世俗的道徳教育論(=ライックな道徳教育論)が、これまでのカトリックの宗教教育に代替するために必要とされた理論構造の解明作業である。ライックな道徳教育論確立のためには3つの理論的課題があった。①ライシテの歴史的根拠と宗教思想史におけるライシテの系譜学確立、②宗教と道徳との分離=脱・神性概念による「自前」の道徳確立、③ライックな道徳(教育)理論の定式化・体系化、以上三つであったが、これを土台にして前出の研究計画を三段階に設定したわけである。研究方法に関して、前出1)は、日仏両国においても未着手であり、一つ一つの原典を入手し読解していく作業が必要であった。前出2)は、デュルケームの道徳教育論を著作、論文、断片を含めて時系列に再読する必要であった。デュルケームは実証主義社会学者でもあり、教育学分野より社会学分野の作品が圧倒的に多い。ゆえに社会学分野の各作品から道徳論と道徳教育論とを抽出して再構成する作業が伴った。前出3)は、前出1)、2)の研究自体がこれに該当し、宗教的なるものの謎、個人と共同体との問題への理論的寄与が確認されたが、さらに現代の社会学や倫理学の最前線との緻密な照合作業が必要である点が確認された。また、前期デュルケームにおいて、彼の典型的な道徳研究のスタイルやキーワード群がすでに出揃っていた点、中期まで「社会一元論」が完成していった点、神に代わってモラル・リアリティが代置された点、宗教的なるものの根本は権威・義務・強制力があり、これらが神概念抜きでいかに再生できるのかがモラルサイエンスであった点、以上が当該研究で解明点であり、フランス教育学史、社会学史の書き換えの証拠・史実は揃ったと確信しており、自己点検評価として「(2)おおむね順調」を選択した次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
次の推進方策を遂行していく予定である。 第一に、当該研究3年目の課題設定であった「モラルサイエンスの今日性」に関しては、今日の哲学・倫理学、社会学の最前線との詳細で緻密な照合作業がさらに必要であるので、今後もこの作業を推進していく。特にフッサールの現象学の枠組みの中に、デュルケームと形而上学者たちとの社会実在論争などを収納する形で分析していけば、もつれて混沌とした論争を解きほぐすことが可能となる可能性が高いからである。さらに哲学・倫理学の側からのデュルケーム分析、同時にこれらの分野へのデュルケーム、デュルケミアンの影響の詳細を漏れなく見つけ出していく作業も推進する。特に日本の哲学史では田邊元がカント研究の中でレヴィ・ブリュールの習俗の科学を援用して理論構築を行っているからである。これは京都学派にとっては習俗の科学=モラルサイエンスは哲学に必要な理論だったという動かぬ証拠である。では哲学側ではその理論構築・問題解決にとって何が足りなかったのか、それを満たすため何がモラルサイエンスにあったのか、この解明は哲学史・倫理学史にデュルケーム、デュルケミアンが「正統」に位置づく可能性を示しているのからである。これがフランス教育学史、フランス社会学史のさらなる書き換えにつながってくるのである。第三に、フランス第三共和制期「後期」あたりから胎動したエピステモロジーからデュルケーム道徳論を分析する作業も推進していく。当時のエピステモロジーの実態やその系譜はかなり詳細に解明されているので、その系譜にデュルケームやデュルケミアンがどう接続可能なのか?あるいは断絶しているのか?この解明により、より一層デュルケームの理論体系が鮮明になってくるものと期待されるからであり、やはりフランス教育学史、フランス社会学史の書き換えにつながってくる可能性があるからである。 以上三つが今後の研究の推進方策である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該研究の『報告書』作成及び印刷業者への製本発注が予算執行期日までに間に合わなかったのが理由である。『報告書』は3月末日に完成している。 当該研究の『報告書』作成(印刷業者による製本)A4サイズ約100頁、100部製本
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Research Products
(2 results)