2012 Fiscal Year Research-status Report
地方におけるいじめ被害者への有責性意識とプライバシー防衛志向に関する研究
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23531127
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
竹川 郁雄 愛媛大学, 法文学部, 教授 (60236445)
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Keywords | 青少年問題 / いじめ |
Research Abstract |
一般市民に対して調査を行ったデータの分析を進め、中間報告として、次の論文を公表した。「地方都市住民のいじめと生活価値観に対する意識-松山市と大洲市の調査より-」(愛媛大学人文学会『人文学論叢』 第14号 平成24年12月 31-42頁) 論文における分析の成果は次のとおりである。調査データにおいて、自分がいじめられるといやなので、知らんぷりすることを「やむを得ない」と回答する傾向は、世代が若くなるにつれて多くなり、20代では3人に2人が「やむを得ない」と回答している。このことは、10年ごとの世代間の段階的な差が明確に現れているだけに、今後ますます傍観者的意識が増加することが予想される。子どもに対して、いじめを傍観せずに何らかの行動に出るよう促す提言はたびたび出されるが、大人の間でいじめを傍観する意識が増えるようでは実質的な効果は期待できない。 また、いじめ被害側への有責性意識も、60代の傾向に近い30代の回答比率を除けば、世代が若くなるにつれて、いじめられる側にも責任があると回答する傾向が出ており、いじめ問題の解決を難しくさせる要因になっていると考えられる。このいじめ被害側への有責性意識の傾向は、2002年の調査の考察結果を追認する形となったが、どのような特徴を示すのかさらにデータを分析する必要がある。さらに、「誰でも一生懸命やればできるものだ」という人生観・社会観に関する生活価値観項目と、いじめ被害側への有責性意識が関連しているということは、差し迫った問題に対する当人の実行力を重視する見方がいじめ被害側に適用されて、責任があるとの判断になっているのであろう。子どもの人権の視点から見て個人の力だけではどうにも対処し得ない場合があることを認識するならば、深刻ないじめから被害者を守れるように、実証的な研究知見に基づいた確実なセーフティネットを構築していく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実施した調査の分析について、上記の論文を公表し、一定の成果を得た。データ分析については、なお考察を進める予定である。 質的研究の面については、大量統計調査の分析が十分な段階に達していないため、一定の知見が得られた後、それらを反映させて、インタビューまたは自由回答形式の質問紙調査を実施する計画である。 NPO熊本人権テーブルが実施するリーダー養成研修会に講師として参加し、一般の人々から様々な意見を聴取した。また、「いじめ防止ブックレット」の作成に向けて、これまでの調査研究の知見を生かして、コメントを行った。
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Strategy for Future Research Activity |
一般市民に対し実施した調査の分析を計画通りに進めている。中間報告として論文を公表したが、さらに分析を進め、いじめ問題を含めた社会問題への一般市民の意識を探り、いじめ問題への対策の方向付けを行うべく、分析を進める。 松山市と大洲市の市民に対する調査データより得られた知見を活用して、養護教諭やスクールカウンセラーなどの学校関係者に対して、インタビューまたは自由回答形式の質問紙調査を実施する。特に、「いじめ被害側への有責性意識」と「プライバシー防衛志向」がどの程度みられるかを探っていく。 さらに分析により得られた知見を生かして、いじめ防止プログラムの改善を検討する。昨年に続き本年もNPO熊本人権テーブルのプログラムリーダー養成研修会の参加して、いじめ防止プログラムの改善に向けて意見の交換を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
熊本において進めているいじめ防止プログラムに関連する調査研究の報告及び研修会出席と東京とその近郊での情報収集のための旅費として、研究費の3分の1を当てる。データ収集及び資料の整理のために謝金及び消耗品として、研究費の3分の1を見込んでいる。「いじめ被害側への有責性意識」と「プライバシー防衛志向」にかかわる文献収集と報告書の作成のために、研究費の3分の1を当てる。
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