2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23531179
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
岡田 匡史 信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (30194369)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2017-03-31
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Keywords | 鑑賞教育 / 読解的鑑賞 / 祭壇画 / カラヴァッジョ / 聖マタイの召命 / ロールプレイ / エドワールト・コリール / ヴァニタス |
Outline of Annual Research Achievements |
27年度も「鑑賞題材開発」を柱とし,研究の総括に取り組んだ。 読解的鑑賞メソッドの更新を図り,ローマで臨地鑑賞を果たせた祭壇画,カラヴァッジョ「聖マタイの召命」を学習対象に選び,その多角的読解を可能とする指導法及び授業計画を検討し,6パートで成る鑑賞題材を構想した。 序盤で学習者に想像的拡がりを得させ,絵への親密度を高めるべく,自由解釈を位置付け,中盤にこの展開を土台とするテキスト準拠型鑑賞を設けた。ここの充実に必要となる,3種福音書記事(マタイ・マルコ・ルカ)の該当箇所を英語版聖書2種も含め調べ,ウォラギネ『黄金伝説』にも当たって情報を得て,絵とテキストの関係を精査した。上掲祭壇画を活用した異文化理解的アプローチも企て,関連諸研究を調べる中で,文化受容水準を高めるには,視覚主体の間接情報に頼るよりも,当該文化を生きることで獲得可能な直接情報が要請されると考え,絵の展示・設置環境の重要性に注目し,実態は困難ながらも現場体験的活動を重んじる鑑賞授業の在り方を模索した。探求意欲を喚起し,作品理解の深化・高密度化を図る方途として,画中に聖マタイを探すゲームや画中人物を真似るロールプレイも考案した。 以上を論文化し,『美術教育学(美術科教育学会誌)』第37号に投稿し,査読を経て,掲載可となったが,WEB投稿切り換えに伴う遅延で学会誌発行が28年度にずれ込んだ。検証授業(対象:3年生)は信州大学教育学部附属松本中学校で行えた。 以上に加え,第54回大学美術教育学会(横浜大会)で,継続中の静物画を読む学習の可能性を探る口頭発表も行った。静物画を通した国際理解(17cオランダ)を深化でき,実物鑑賞が日本でも可能な対象として,国立西洋美術館所蔵のエドワールト・コリール「ヴァニタス―書物と髑髏のある静物」を選んだ。読解主題をヴァニタスとし,道徳教育延いては死の教育へも踏み込む見解を提起した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
◎展覧会の実見・分析・考察を通じ,諸観点から鑑賞学習題材の構築可能性が検討でき,中でも現地リサーチ成果を基盤に,カラヴァッジョの祭壇画の1つ,「聖マタイの召命(ローマで実見可能)」を学習対象とする鑑賞題材開発を進め得たから。 ◎米国の読解基調の授業設計と関わる先行研究を複数精査でき,テキスト研究も進展できたから。 ◎附属教諭より協力・支援を賜り,信州大学教育学部附属松本中学校で検証授業が実現できたから(本成果の論文化・投稿は未だだが)。 ◎ただ当期間終盤,総括と発展を目的に,北方祭壇画,17c静物画,印象派絵画(新展開を構想中)の現地リサーチを計画したが,パリ同時多発テロ事件に阻まれ実行できず,関連成果の口頭発表も見送らざるを得ぬ事態となった。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度は,27年度に実現できた検証授業の分析・省察をまとめ,これを研究全体の総括と今後の発展のコアに位置付ける。指導・支援面の振り返り,授業設計面の省察,学習者のワークシートから読み取り得る諸内容の整理等を踏まえ,読解的鑑賞の具体的提起を果たしたい。本研究成果は論文化し,学会誌へ投稿する。 さらに北方祭壇画,17c静物画及び風俗画等の日本では実見至難な諸作の現地リサーチが可能となるよう,欧州治安情勢を熟慮しつつ計画を練り直し,その活動成果を学会発表すると共に,今後の研究基盤に据えたい。 上掲諸課題を下支えする取り組みとして,連関する展覧会の鑑賞による作品実見を積み上げ,鑑賞対象を扱う美術史・美術理論関係の書籍・論文・報告等から学ぶことを継続し,鑑賞教育に関しては公開授業参観に努め,かつ,できる限り多くの授業実践報告にも目を通したい。作品選定,授業設計,カリキュラム,指導・評価等を考える上で有益な,特に読解的鑑賞方略に資する諸文献を精査・熟読したい。
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Causes of Carryover |
パリ同時多発テロ事件により,パリ,ベルギー諸地域(ブリュッセル,ブリュージュ,ヘント等),アムステルダムでの鑑賞候補作品の現地リサーチを行う海外出張が不可能となり,本成果を主題とする口頭発表も見送らざるを得なかったから。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は,28年度と合わせて海外出張旅費に重点的に充て,その成果の公開を行う学会発表費用や必要物品購入に充てる。
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Research Products
(3 results)