2012 Fiscal Year Research-status Report
ホリスティックな立場からの教材・授業開発に関する研究
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23531263
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
下田 好行 明治学院大学, 心理学部, 教授 (70196559)
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Keywords | ホリスティック / 垣内松三 / 形象 / 自証 / 芦田恵之助 / 自己を読む / 青木照明 / R.シュタイナー |
Research Abstract |
ホリスティック教育が人間の思考と直観をつなぐ教育であることを確認した。この直観に迫る教育の方法は、垣内松三が形象理論に基づく、直観―自証―証自証、の研究がある。垣内松三の形象理論は言語の奥に潜む人間の相(精神)を指摘するものである。人間は文章を読み、直観したものを表現していく。その際、自己の相(精神)にぴったりあった言葉を探していく。こうした読みの過程を垣内は、直観―自証―証自証明、と言う言葉で説明した。これが垣内の形象理論であり、読みの自証体系である。論理的に思考を重視する解釈学とは異なり、直観や感性を大事にするものである。垣内の形象理論、自証体系は、直観と思考、自我と自己をつなぐもので、形象という全体性を重視するものであった。そうした意味で垣内の形象理論はホリスティックな視点にたったものであると言えよう。この垣内の理論を小学校国語の文学的文章の授業に適用して実践を行ったのが青木照明である。青木照明は垣内の理論を初発の感想(直観)―対話による読みの交流(自証)―まとめの感想(証自証)として捉え、授業実践を行っている。この授業実践を下田は「授業の形象性」というカテゴリーを設定し、授業の解釈を行った。その結果、青木の授業を受けた児童は、自己の直観を言葉で説明し、自己の形象を明らかにしていくことができた。この実践からは、自己の直観と思考をつなぎ、自己の形象を明らかにする全体性にたつものであることも分かった。こうした垣内の形象理論、青木の瞑想読みは、ホリスティックな視点にたったものであるということができよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ホリスティックな視点に立った教材・授業開発を追究している。初年度はホリスティック教育とその実践の流れを概観した。そのなかで特に合流教育に着目した。合流教育では、思考と内面をつなぎ、合流しようとする。この内面は直観や感性・意思であると言える。こうした直観や感性・意思の重要性を強調したのがシュタイナーである。また、日本においては、垣内松三の形象理論とそれを具体化した読みの理論である、自証体系がある。そこで2年目は、垣内松三の自証体系とそれを具体化した授業実践を追究した。垣内松三は、人間がテキストを読む際に、直観―自証―証自証、を行っていることを強調した。これは言葉による論理的思考を超えた直観や感性に迫る読みの方法である。この方法を授業実践の中で具体化したのが芦田恵之助である。芦田の授業理論は綴り方教授においては、随意選題の中に直観や感性を重視する傾向が確認できる。しかし、読みの理論では芦田教式に傾斜してしまい、児童の読みの主体性を保障するものではなかった。その点、青木照明の「瞑想読み」は垣内松三の自証体系を具体化した授業実践を行った。このことを理論的に整理し、青木照明の授業実践を授業参観し、実証的に明らかにしたのが本年度の研究であった。そうした意味で本年度の研究成果は当初の目標に迫ったものと評価できる。今後は、もう一つのホリスティック教育の代表的な言説であるシュタイナー教育を追究する事が課題として残された。
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Strategy for Future Research Activity |
シュタイナー教育の言説を整理するとともに、シュタイナー学校の授業実践を調査・研究し、そこからホリスティックな視点にたった教材・授業開発のあり方を追究したい。特にシュタイナーの人間観・世界観も整理し、その人間観・世界観が授業実践にどのように活かされているかを明らかにしたい。こうした宇宙的な世界観・人間観をもつ人物として、日本では宮澤賢治があげられる。宮澤賢治は児童文学者や農業指導者であると同時に優れた教師でもあった。そこにはホリスティックな視点にたった宮澤賢治の授業実践があった。最終年度は教師としての宮澤賢治の教材・授業開発のあり方にも調査・研究の範囲を広げたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
シュタイナー教育の言説を整理するために、シュタイナー関係の文献を広く収集する必要がある。また、ドイツのシュタイナー学校を実際に訪問し、その授業実践のあり方も調査する。このために吉田武男氏(筑波大学人間系教育学域教授)の研究協力を依頼し、ドイツのシュタイナー学校の授業実践の研究調査を代表者と共に行う。そのための旅費と調査研究費が必要となる。また、岩手県花巻市には宮澤賢治記念館があり、ここには宮澤賢治関係の研究文献が所蔵されている。この文献を調査するために花巻市に行く旅費と調査費が必要となる。さらに、青木照明氏の授業実践の研究するために、茅ケ崎市でホリスティック授業研究会を開く。そこに小学校教師を招き、青木照明氏のホリスティックな視点について討議をすることにしたい。このための研究協力者会議の旅費と会合費が必要となる。
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Research Products
(5 results)