2013 Fiscal Year Research-status Report
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23540003
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
黒木 玄 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10234593)
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Keywords | 量子パンルヴェ系 / 量子群 / カッツ・ムーディ代数 / ワイル群双有理作用 / τ函数 / 共形場理論 |
Research Abstract |
2013年度までに達成された研究結果はワイル群双有理作用の立場から量子化されたτ函数の理論である。(1)任意の対称化可能一般カルタン行列に付随する野海・山田の意味でのワイル群双有理作用の量子化をτ函数も含めて達成できた。(2)その意味での量子τ函数が従属変数の非可換多項式になるという定理(量子τ函数の正則性)を証明できた。野海・山田は量子化される前の古典τ函数の正則性(多項式性)をソリトンの佐藤理論(τ函数を行列式で表示する理論)の一般化を用いて証明した。量子版の証明は全く異なる。カッツ・ムーディ代数の表現のトランスレーション函手でヴァーマ表現がヴァーマ表現に移されるという結果を用いて、量子τ函数の多項式性が証明される。(3)A_∞型の場合には量子τ函数への作用も含めてワイル群双有理作用の佐藤・ウィルソン表示を構成した。そのことから、その場合の量子τ函数はヤコビ・トゥルーディ型の非可換行列式表示を持つことがわかる。しかし、一般に非可換行列式は成分の非可換多項式ではなく、成分の非可換有理函数になるので、それによって量子τ函数の多項式性の証明は得られない。 2014年2月15日で開催された第9回駒場幾何学的表現論と量子可積分系のセミナー(東京大学大学院数理科学研究科002号室)では午後2時から5時にかけて以上の結果の総まとめになるような講演をした。そしてその後の議論で、以上の結果は古典的にはほぼ「射影曲線上の原点に確定特異点、無限遠点に不確定特異点を持ち、他に特異点を持たないような有理接続のモノドロミー保存変形」の場合に相当すること、一般にモノドロミー保存変形の量子化は共形場理論になることなどについても話した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この研究の大きな目標は量子パンルヴェ系および量子モノドロミー保存系の理論を発展整備することである。量子化される前の古典の場合にはτ函数の概念が重要な役割を果たしていた。交付申請のための研究計画を立てていたときにはτ函数の量子化は極めて難しく、場合によっては不可能なのではないかと疑っていた。しかし、任意の対称化可能一般カルタン行列に付随するワイル群双有理作用を持つかなり広いクラスのτ函数を量子化することに思いがけず成功してしまった。このクラスにはパンルヴェ三型方程式のベックルント変換が含まれないので量子τ函数の理論をさらに拡張することが必要なのだが、十分に広いクラスのτ函数の量子化に成功し、しかもその非可換多項式性も証明できたのは理論の大きな進展だと言ってよいと思われる。 2013年度のあいだに共形場理論の「古典極限」に関連した研究が進んだ。たとえば Litvinov-Lukyanov-Nekrasov-Zamolodchikov arXiv:1309.4700v2 は「ベラヴィン・ポリヤコフ・ザモロドチコフ(BPZ)によって創始されたヴィラソロ代数の対称性で統制される共形場理論の古典極限がモノドロミー保存変形のガルニエ系になっている」ということを示唆する計算結果を得ている。その結果は二階単独の線形常微分方程式のモノドロミー保存変形の量子化がちょうどBPZの共形場理論で記述されることを強く示唆している。現在この方向での計算を進めており、色々辻褄が合っていることが分かっている。三階以上の場合にはW代数の対称性を持つ共形場理論で量子化が記述できるだろう。この進展は交付申請書の研究計画の第四の項目にある「高階単独の線形常微分方程式のモノドロミー保存変形の量子化」の遂行が極めて有望になったことを意味する。 以上のように本研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の成果である量子τ函数の理論によって、対称化可能一般カルタン行列によって定まるセール関係式を満たす任意の非可換な変数の組に対して、ワイル群双有理作用の量子化とそれに付随する量子τ函数を構成することができる。 この理論は確定特異点型のガルニエ系の量子化にも適用できる。確定特異点が2n+3個でそのうち見かけの特異点がn個の場合に対して、サイズが r=n(n+4)+n(n-1)/2 の一般カルタン行列(simply-laced)を自然に対応させることができ、ワイル群双有理作用の量子化およびそれに付随する量子τ函数を構成することができる。例えば、n=1 で r=5 の場合にはアフィンD_4型になり、パンルヴェ六型の場合にちょうどなっている。 n≧2 の場合の様子はかなり複雑である。 「確定特異点が2n+3個でそのうち見かけの特異点がn個の場合のガルニエ系の量子化」は「BPZの共形場理論で2n+3個のプライマリ場の相関函数でそのうちのn個が(1,2)型の退化場であるもの」にちょうどなっている。(1,2)型の退化場が見かけの特異点の量子化になっており、一般のプライマリ場が確定特異点の量子化になっている。 一般に量子τ函数と共形場理論の関係は全然わかっていない。だから、上に説明した場合を題材に量子τ函数と共形場理論の関係を詳しく分析してみることによって、量子パンルヴェ系の理論全体に関するブレークスルーが得られる可能性がある。しかもその場合はパンルヴェ六型方程式の場合を含んでおり、古典的な由緒正しいパンルヴェ方程式の理論との関係も明瞭になると期待される。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額である。 平成26年度請求額と合わせて、平成26年度の研究遂行に使用する予定である。
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Research Products
(1 results)