2011 Fiscal Year Research-status Report
振動型積分作用素理論とそれの場のFeynman経路積分への応用
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23540195
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
一ノ瀬 弥 信州大学, 理学部, 教授 (80144690)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 格 信州大学, ファイバーナノテク国際若手研究者育成拠点, 助教 (50558161)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | Feynman経路積分 / 量子電磁気学 / 場の量子理論 |
Research Abstract |
本研究の目的は、交付申請書に記載したように、Feynman経路積分の数学的に厳密な理論を展開することである。平成23年度では、相対論的経路積分の厳密な定式化を研究することであった。そこで先ず、電磁場ポテンシャルに対して、相対論的に不変なローレンツゲージを仮定して、量子電磁気学のFeynman経路積分の存在を示した。但し、荷電粒子は非相対論的であると仮定した。従来は、相対論的には不変ではないが、取り扱い易いクーロンゲージのもとでFeynman経路積分の存在が示されていた(2010)。具体的には、以下の(1)と(2)を示した。 (1)先ず、Dirac (1950, 1964) に従って第一拘束条件と全ての第二拘束条件を導いた。次に、これ等の拘束条件とローレンツ条件を満たす荷電粒子と光子の経路についてのFeynman経路積分を考え、クーロンゲージの下でのFeynmann経路積分の結果を用いて、これが存在することを厳密に証明した。しかし、クーロンゲージの下でのFeynmann経路積分とローレンツゲージの下でのFeynmann経路積分の同等性は、証明出来なかった。(2)拘束条件を考えないで、ローレンツ条件だけを満たす経路についてのFeynman経路積分を考え、これが存在することを証明した。この経路積分と、(1)で述べた拘束条件も考慮した経路積分がゲージ変換の下で同等であることを証明した。 尚、経路積分の研究と関連して、ヒルベルト空間上の有界線形作用素の極分解についての一意性が成り立つための必要十分条件を導くことにも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
電磁場ポテンシャルに対して、相対論的に不変なローレンツゲージを仮定しての量子電磁気学のFeynman経路積分の研究に、思いの他に時間が掛かってしまったのが主な原因である。相対論的量子電磁気学の研究では、電磁場ポテンシャルに対して、相対論的に不変なローレンツゲージで考えるのは、相対論的不変性を明確にした議論を行うために必要である。この理由から、平成23年度にこの研究を行った。ローレンツゲージの下での量子電磁気学のFeynman経路積分の研究に一応成功したが、以下の理由で満足がいっていない。 残念ながら、既に得られていたクーロンゲージの量子電磁気学の経路積分(2010)との同等性を証明することが出来なかった。更に、ローレンツゲージの下でのFeynman経路積分は簡単な形では与えられないことも分かった。これらのことを解決しようとし時間を掛けたが、うまく行かなかった。 Hiroshima-Suzuki(2009)では、経路積分ではなく作用素論的方法で、ローレンツゲージの下で量子電磁気学の数学的研究を行っているが、ここでも十分な結果が得られていない。物理学においても、相対論的に不変なゲージの下での研究は、不定計量の導入、又はFaddev-Popovの方法の導入など、クーロンゲージの下での議論よりはるかに複雑な議論が必要である。これらのことから、ローレンツゲージの下での研究がある程度むずかしいのは仕方が無いのかもしれない。 以上のことから、ローレンツゲージの下でのFeynman経路積分の研究は当分の間は暖めておいて、今後の研究は、取り扱い易いクーロンゲージの下での研究に専念して行っていこうと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までの研究で、光子の波数ベクトルの任意の大きさの紫外発散部分の切断の下で、非相対論的量子電磁気学のFeynman経路積分の数学的な定式化を行った。特に、荷電粒子がスピンをもつ場合についても定式化を行った。これらは、電磁場ポテンシャルに対してクーロンゲージ、又はローレンツゲージを仮定して行った。 本研究課題の研究の目的は、相対論的量子電磁気学のFeynman経路積分の研究である。平成23年度の研究から、クーロンゲージで研究を行うのが妥当であると判断する。スピン2分の1の相対論的粒子である電子、陽電子、ミューオン、反ミューオン等は、Dirac方程式に従って運動する。従って、以下のことを明らかにするのが目的である。(1)Dirac 方程式の解の、Feynman経路積分による表示を与える。特に、場の量子論で中心的役割を果たしているFeynman propagatorの、経路積分による導出を行う。(2)相対論粒子と光子が相互作用する量子電磁気学の、Feynman経路積分による表示を与える。特に摂動論に依らない定義を与えることが重要な点である。ノーベル賞を受賞した朝永、Schwinger、Feynman等による量子電磁気理論の発展の以来、場の理論は摂動論的理論形式でのみ議論されてきた。(3)上記(2)で得られるFeynman経路積分を用いて、量子電磁気学における摂動展開の数学的証明を与える。これは、現在場の量子論で用いられている摂動論的物理理論形式に、数学的正当性を与えることが目的である。(4)相対論的量子電磁気学のFeynman経路積分について、繰り込み理論の数学的理論を展開する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究代表者一ノ瀬は、Dirac方程式の研究者では日本の権威的な位置にいる立命館大学・理工学部・山田修・教授と研究打ち合わせのために2回出張する。又、量子電磁気学の数学的理論の研究者である九州大学大学院・数理学府・広島文生・準教授と研究打ち合わせのために2回出張する。又、一ノ瀬は成果発表2回、調査研究1回、分担者佐々木は調査研究1回の国内出張を行う。研究代表者一ノ瀬は、国際研究集会(Spectral Days, University of Munich, Germany, 2012年4月10日~4月13日、Mathematical Aspects of Quantum Field Theory and Quantum Statistical Mechanics、電子サイクロトロン研究所、Hamburg, Germany,2012年7月30日~8月1日及びInternational Congress of Mathematical Physics, Aalborg, Denmark, 2012年8月6日~8月11日)に出席して、研究発表を行い又研究情報を収集する。 以上の旅費として一ノ瀬は総計92万円を使用する。佐々木は8万円を使用する。又、消耗品図書購入のため計20万円を使用する。コンピューターを新たに購入する(20万円)。 当初計画で見込んだより安価に研究が完了したため、次年度使用額が生じた。
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