2012 Fiscal Year Research-status Report
振動型積分作用素理論とそれの場のFeynman経路積分への応用
Project/Area Number |
23540195
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
一ノ瀬 弥 信州大学, 理学部, 教授 (80144690)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 格 信州大学, ファイバーナノテク国際若手研究者育成拠点, 助教 (50558161)
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Keywords | Feynman経路積分 / 量子電磁気学 / 場の量子論 / Dirac方程式 |
Research Abstract |
現代物理学の重要な研究対象である素粒子物理学、量子重力理論においては、Feynman経路積分が主要な道具として用いられている。しかし、理論的な面から言えば、このFeynman積分の数学的に厳密な取り扱いは不十分であると言わざるを得ないのが現状である。本研究課題の目的は、このFeynman経路積分の数学的に厳密な取り扱いである。これにより、現代物理学の主要な研究にその数学的な厳密性を与え、その進展に寄与し、更に数学的にも新しい分野を開拓することである。 平成24年度の研究実施目的は、「相対論的粒子と光子が相互作用する相対論的量子電磁気学のFeynman経路積分の厳密な定式化」の研究であった。 本研究者は、先ずスピン2分の1を持つ相対論的粒子を記述するDirac方程式の解の、Feynman経路積分表示の研究を行った。このFeynman経路積分表示については、Feynman自身が彼の著書で述べているように、簡単な表示は与えることが出来ない思われていた(Feynman-Hibbs1965, McGraw Hill, p.38, p.237, p.264)。Feynmanやその他の研究は、経路積分の研究を配位空間上で行っていた。本研究では、本研究者がSchroedinger方程式に対して開発した位相空間経路積分を、Dirac方程式にも適用することにより、Dirac方程式に対するFeynman経路積分を与えることに成功した。 この経路積分においては、量子力学的粒子は,空間的にはあらゆる方向にあらゆる速度で運動し、時間的には未来にも過去方向にも運動するというFeynmanのアイデアを実現するものである。Feynmanは「反粒子」を過去方向に運動する粒子であるという、反粒子の新しい解釈を与えたことは良く知られている。この結果は、世界で最も権威のある数理物理の研究誌に投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
相対論的量子電磁気学のFeynman経路積分の研究においては、スピン2分の1を持つ相対論的粒子を記述するDirac方程式についてのFeynman経路積分をどう与えることが出来るかが一つの大きな問題であった。Feynman自身が彼自身の著書で述べているように、Dirac方程式についてのFeynman経路積分の簡単な表示は与えることが出来ないと思われていた(Feynman-Hibbs1965, McGraw Hill, p.38, p.237, p.264)。平成24年度に本研究者がこの問題を解決したことにより、相対論的量子電磁気学についてのFeynma経路積分の研究に大きな進展を得た。 本研究者はReview in Mathematical Physics (2010)において、非相対論的量子電磁気学についてのFeynman経路積分の研究を行った。そこでは、粒子に対する方程式として、相対論的であるDirac方程式の代わりに、非相対論的であるSchroedinger方程式が用いられた。 平成24年度に本研究者が定式化したDirac方程式についてのFeynman経路積分を用いれば、非相対論的量子電磁気学についてのFeynman経路積分の研究と同様な方法を用いることにより、相対論的量子電磁気学についてのFeynman経路積分の定式化は難しい問題ではないと思われる。但し、非相対論的量子電磁気学と同様に、光子の波数ベクトルについては「紫外部分の切断」を仮定した場合の結果である。 以上のことから研究は現在、「紫外部分の切断」の仮定を除去するという、場の理論の最も重要な部分である「繰り込みの研究」という新しい課題に挑戦する段階にまで進展したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
スピン2分の1の相対論的粒子である電子、陽電子、ミューオン、反ミューオン等は、Dirac方程式に従って運動する。平成24年度の研究で、Dirac 方程式の解のFeynman経路積分による表示を与えることに成功した。この経路積分表示は、過去方向にも進む経路も考えるので、反粒子である陽電子、反ミューオンなども表すことができる。 平成25年度は、前年度の研究成果を用いて次の2つの結果を導くことを目標とする。 (1)本研究者はReview in Mathematical Physics (2010)において、非相対論的量子電磁気学のFeynman経路積分の研究を行った。この研究で用いた方法を用いることにより、相対論的量子電磁気学のFeynman経路積分の定式化を行う。但し、光子の「波数ベクトルの紫外部分の切断」の下で行う。次にこの結果を用いて、場の理論の最も重要な部分である「繰り込みの研究」を行う。但し、この研究は多くの困難さが予想されるので、物理の理論を検討しながら、じっくり行う。 (2)本研究者は、Dirac方程式のFeynman経路積分の研究で、2乗可積分空間の経路積分だけではなく、重み付きSobolev空間での経路積分の収束も証明してきた。同様なことは、既にSchroedinger方程式、Pauli方程式、非相対論的量子電磁気学についてのFeynman経路積分の研究でも行ってきた。重み付きSobolev空間とは、滑らか関数からなる空間であり、物理的に重要なDiracのデルタ関数など、特異な関数のFeynman経路積分は取り扱うことが出来なかった。本研究では、重み付きSobolev空間でのFeynman経路積分の研究の結果を用いて、Diracのデルタ関数など特異な関数のFeynman経路積分の定式化とその収束の数学的証明を与える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究代表者一ノ瀬は、Dirac方程式の研究者である愛媛大学・工学部・伊藤宏・教授と研究打ち合わせのために2回出張する。又、量子電磁気学の数学的理論の研究者である九州大学大学院・数理学府・広島文生・教授と研究打ち合わせのために2回出張する。又、一ノ瀬は成果発表2回、調査研究1回、分担者佐々木は調査研究1回の国内出張を行う。研究代表者一ノ瀬は、国際研究集会(Variational and Spectral Methods in Quantum Field Theory, パリ大学ポアンカレ研究所, 2013年4月22日~4月26日、Mathematical Challenges in Quantum Electrodynamics、パリ大学ポアンカレ研究所, 2013年4月29日~4月30日、Current Topics in Mathematical Physics, CIRM (マルセイユ大学)、2013年9月1日~9月7日、QMath12-Mathematical Results in Quantum Physics, Humboldt 大学, Gemany, 2013年9月10日~9月13日)に出席して、Feynman経路積分に関する研究発表を行い又研究情報を収集する。以上の旅費として、一ノ瀬は総計96万円を使用する。佐々木は4万円を使用する。又、消耗品図書購入のため、一ノ瀬は計20万円を使用する。
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