2011 Fiscal Year Research-status Report
移流および非局所項をもつ偏微分方程式の逆問題と境界制御問題の研究
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23540240
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
中桐 信一 神戸大学, システム情報学研究科, 教授 (20031148)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 変形公式 / ボルテラ型微分積分方程式 / 移流拡散方程式 / 境界制御 / 係数逆問題 / 最適制御 / 連続半群 / 非局所境界条件 |
Research Abstract |
平成23年度は、計画の初年度にあたり非局所項を持つ1階および2階のボルテラ微分積分作用素の構造に焦点をあて、どのような理論展開が可能であるかという考察と研究を進めた。この立場から中桐は海外の共同研究者と協力して、非局所項を持つ1階双曲系の境界制御と安定化問題の研究を行い、さらには積分境界条件をもつ移流拡散方程式系の逆問題および境界安定化問題の研究を進め多くの結果を得た。以上の成果は国内での研究集会及び海外での招待講演や国際学会で発表し、4編の学術論文として結実した。1.中桐は、非局所項を持つ1階ボルテラ微分積分方程式に対して、新たな変形公式を構成しその変形核を用いることにより境界制御による安定化問題を解決した。さらにその結果を係数行列が巡回的であるようなシステムに拡張した。加えて変形作用素を導入することにより、半群理論に基づく安定性理論の構築を図った。すなわち、この作用素のスペクトル解析を実行し、一般化固有ベクトルの完備性を証明し、制御観測の作用素が安定性理論に果たす役割を明らかにした。2.中桐は、非局所項を持つ2階のボルテラ微分積分作用素の構造を、新たな変形作用素を導入し簡単な2階微分作用素に変形する事により調べた。さらには、移流拡散方程式に対して変形公式を用いて、移流項とポテンシャル項に関する逆問題を考察し一意性のための十分条件を導いた。この考察を進め、非局所項があってもスペクトル密度関数からある物理量を再構成するゲリファント-レビタン理論が可能になることを示した。3.中桐は海外研究者と協力して、1階のフレッドホルム型微分積分方程式系の制御問題を研究した。この方程式系に対し、境界および分布制御による有限時間での 零可制御性を示した。4.中桐は海外研究者と協力して、強い減衰項をもつ高階の非線形波動方程式の外力や初期値に関するフレッシェ微分可能性とその連続性を証明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
目と心臓の疾患の治療のため、平成23年度は2度の手術を受けた。その結果健康を回復できたが、病気療養の必要性もあり、平常業務完遂以外に充分な研究時間が取れなかった。このため、当初の計画よりは研究の進展はやや遅れてしまった。次年度は、その遅れを取り返すべく奮闘したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、初年度計画において不十分な成果しか得られていない双曲型の場合の変形公式法の展開をはかり、さらにはその関係する逆問題の解決もはかりたい。得られた結果を要約した後、残りの研究期間ではこれら理論的結果を具体的な数理工学に現れる方程式への応用に重点をおき研究を進める。加えて高階の非局所項を持つボルテラ微分積分作用素の研究を開始する。また空間高次元化理論への方向性を探る。具体的には以下のテーマ別に研究を進める。1. 結合された2および3層流方程式の境界制御による安定化と逆問題の研究。方程式には境界フィードバックによる非局所項が存在するとして、安定化を実現する変形核と安定化のための制御則を構成する。さらに非局所項に現れるゲイン関数が既知であるとして、移流項を境界データから同定する放物型逆問題の解決をはかる。またどのようなクラスの制御項が加われば、解のクラスは指定されたクラスになるかという問題を考察する。2. 減衰項と剛性項を持つ4階ビーム方程式の変形公式とその応用の研究。この方程式に対しは、変形公式は未だ見出されていない。新たな変形公式とその変形核方程式の発見を目指す。発見後は、その変形公式を用いて様々な境界データに対する双曲型逆問題の解決をはかる。また減衰項が無い場合は、変形公式を用いると適当な境界制御入力により完全可制御性が成り立つことが期待される。これを理論的に検証したい。3. 変形公式の完全可制御性と最適制御問題への応用。移流項と非局所項をもつ放物型方程式の完全可制御性や逆問題の連続性を示す研究を開始したい。通常完全可制御性を示すためには、解のカルレマン評価を導かねばならない。空間次元が1の場合は変形公式によりそれらがより容易に達成されることを示したい。さらにその手法の最適制御問題への応用を考えたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の完遂には制御逆問題の分野のみならず様々な分野からの援助が必要になる。具体的には、函数解析学や実関数論の分野の研究者との討論や研究助言が必須になる。申請者は幾つかの国際学会の組織者から恒常的に招待を受けていて、それらの学会に参加し講演する事は、研究の成果を公表周知するのみならず、最新の研究の動向と展開を把握することになる。次年度は、1回の国際学会出席と1回の海外共同研究を計画しており、そのための外国成果発表旅費と外国研究打ち合わせ旅費が必要となる。申請者は海外の多くの研究者と研究交換や共同研究を行っており、このような研究の継続的な発展のためにも海外出張旅費の確保が必要であり。さらに国内での成果発表や日本人研究者達とも研究連絡を行う必要があり、その国内旅費も必要とする。加えて申請者は、平成24年度の日本数学会函数解析学分科会連絡責任評議員を務めており、学際的な「実函数論・函数解析学合同シンポジウム」の開催責任者でもある。このシンポジウムの開催実施にかかわる諸費用、特に講演集の作成に関しては当研究費から負担したい。また研究を進めて行く上で、制御理論、逆問題解析、函数解析、非線形偏微分方程式論等の最近の結果や数学的手法を取り入れる必要がある。それらに関連した専門図書や国際会議報告集を必要があれば購入したい。そのための書籍購入費として当研究費を使用する。
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