2011 Fiscal Year Research-status Report
超新星元素合成とニュートリノ観測から見る超新星ニュートリノ自己相互作用の効果
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23540287
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉田 敬 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (80374891)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 宇宙物理 / 理論天文学 / 超新星 / ニュートリノ / 元素合成 |
Research Abstract |
我々は、まずニュートリノがマヨナラ粒子で磁気モーメントを持つ場合に起こるResonant spin-flavor (RSF) conversionによる超新星ニュートリノのフレーバー変換のニュートリノ振動パラメータ依存性を調べた。そして、100ktサイズの液体アルゴン検出器で超新星爆発のごく初期に出るニュートリノと超新星ニュートリノの総イベント数を検出した場合に、中性カレントイベントに対する電子ニュートリノ、反ニュートリノの荷電カレントイベントの比を調べることで、ニュートリノ振動パラメータとRSF conversionの効果に対して制限を与えることができることがわかった。 ニュートリノ自己相互作用の研究については、現在ニュートリノ自己相互作用の新しい効果の可能性について議論を進めている。 r-processに関する研究として、我々は中性子魔法数N=126の核種のベータ崩壊半減期をGamow-Teller遷移と第一禁止遷移を考慮した殻模型を用いて計算し、超新星爆発時のニュートリノ駆動風を想定したr-process元素合成への影響を調べた。そして、新しい半減期を用いるとr-processにより重元素生成量分布の第3ピークの位置がやや重い方にずれることが明らかになった。 我々はまた、超新星におけるニュートリノ元素合成(ν-process)によるフッ素の元素合成を考慮してフッ素存在度の銀河化学進化について調べた。その結果、ν-processを考慮してフッ素存在度の銀河化学進化を求めると金属欠乏星のフッ素存在度をよく再現することがわかった。そのため、銀河化学進化においてフッ素は主に超新星におけるν-processで生成されることが定量的に示された。これに関連して、超新星元素合成をより詳細に計算するため、大質量星進化コードおよび回転星の進化コードの開発を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
超新星ニュートリノのニュートリノ自己相互作用によるフレーバー変換については、十分に進んでいるとはいえないのが現状である。r-processに対する影響についてはおおよその結果が得られていたが、アメリカの研究グループが同様の結果を出版してしまったことにより、ニュートリノ自己相互作用についてより詳細な計算をすることが必要になった。そのため、現在はニュートリノ自己相互作用をより詳細に計算するプログラムを開発中である。超新星におけるνp-processのニュートリノ自己相互作用による影響についても現在研究を一時止めている。再開についてはニュートリノ自己相互作用の計算の進行状況を考慮して判断したい。一方、名古屋大学の木村恵一氏、豊田工業高専の高村明氏、東京大学の川越至桜氏とはニュートリノ自己相互作用の新しい効果についての議論を継続的に進めている。RSF conversionによる超新星ニュートリノの研究については昨年夏でまとめることができた。 超新星ニュートリノに関する新しい話題として、超金属欠乏星が進化した超新星でニュートリノ反応が起因するr-processが起こる可能性が指摘され、平成23年度はこの研究も開始した。これについては恒星進化と超新星爆発の計算は昨年度中に終了し、r-processの計算をこれから始めるところである。これについては今後の研究の推進方策でも述べる。 以上のことから、超新星ニュートリノのニュートリノ自己相互作用による元素合成への影響については進行が遅れているのが現状である。一方で、超新星ニュートリノの元素合成、特にr-processへの新しい影響を調べられるようになった部分は進展である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はまずニュートリノ自己相互作用のコードを拡張する。ひとつは、これまで超新星ニュートリノ反応の角度依存性を考慮していなかったものを角度依存性を考慮するように拡張する。また、木村、高村、川越氏との議論から得られた方程式を数値的に計算できるように拡張することを目標とする。これについては方程式の定式化とその差分化の両方を行う必要がある。超新星におけるνp-processの計算については、温度、密度進化に必要なwindモデルの扱い(準解析解または数値モデル)を考察した上で計算を行う。r-processへの影響のついてはニュートリノ自己相互作用コードが拡張された後で、順質量階層やニュートリノ光度がフレーバーによって異なる場合などについてr-processの進行が促進される可能性について詳細に調べたい。超新星ニュートリノのニュートリノ自己相互作用の新しい効果についてはこれまで通り木村、高村、川越氏と継続的に議論を進める。 超金属欠乏星が進化した超新星におけるニュートリノ反応が起因するr-process についてはこれまで11, 13太陽質量で金属量質量比が2e-6、2e-5、1e-4の星の進化計算と超新星爆発の計算を終えている。本年度はこれら超新星の元素合成計算をすみやかに行い、r-processの進行の星の質量と金属量に対する依存性について詳細に調べる予定である。そして、これらの星で重元素合成がどのように進行するかを明らかにしたい。 さまざまな超新星元素合成の計算を行う上でその初期状態となる大質量星の進化を計算することは重要である。我々は引き続き大質量星と回転大質量星の進化のコード開発を行い、超新星における元素合成の計算に応用したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は元素合成およびニュートリノに関する国際会議で研究成果を発表し、議論を行う予定である。また、国内での会議および学会でも継続的に研究経過および成果を発表数する予定である。そのため海外および国内の旅費を申請する。前年度は海外での国際会議での発表を行わなかったため、本年度はより積極的に成果を発表したい。 本年度も前年度に続き木村、高村、川越氏と継続的に議論を行う。木村、高村氏は名古屋を研究拠点としているため、彼等(主に木村氏)の旅費を申請する。また、彼等が国内および国際会議での研究成果を発表する場合には旅費の補助を行う予定である。その他、ニュートリノ振動や元素合成の研究を進める研究協力者と議論を行う場合に必要な旅費を使用する。 本年度はニュートリノ振動、恒星進化、元素合成の大量の計算をすることで多くのコンピュータ資源が必要となる。そのため、これら大量の計算を行うために新しくコンピュータを購入する。また、これらの計算および計算結果の解析を行う上で大量のデータを処理する必要があると見込まれる。この大量のデータを効率的に保管、整理するために数TBのRAIDシステムを購入する。研究成果を論文として発表する時には論文投稿料および別刷費用を研究費から使用する。
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Research Products
(6 results)