2011 Fiscal Year Research-status Report
ラージN極限におけるツイストされた時空縮約モデルの研究
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23540310
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
大川 正典 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00168874)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 素粒子論 / ラージN極限 / 時空縮約モデル / 国際研究者交流(スペイン) |
Research Abstract |
素粒子の標準モデルは、その基礎をSU(N)非可換ゲージ理論においている。一般にSU(N)非可換ゲージ理論は非常に複雑な構造を持っているが、4次元格子上で定義されたSU(N)格子ゲージ理論は、Nを無限に持っていった極限で時空の自由度を内部空間に吸収できてしまう可能性がある。実際、江口・川合は格子点が1点しかない時空縮約理論を考えた。現在この理論は江口・川合模型(EK-model)と呼ばれている。EK-modelにはZ(N)対称性があり、この対称性が破れていなければ、4次元格子上でのSU(N)ゲージ理論とEK-modelはNを無限に持っていった極限で同等である。しかしこの対称性は弱結合相および中間結合相で自発的に破れてしまい、2つの理論は等しくない。この困難を解決するために、Gonzalez-Arroyoと申請者は、EK-modelにツイストされた境界条件を課したtwisted EK-model(TEK-model)を提案した。 TEK-modelが正しくSU(N)格子ゲージ理論を再現するのであれば、ラージN極限での弦定数が計算できるはずである。ラージNゲージ理論は有限なNの理論に比べ構造は著しく簡単化されるが、いまだに非摂動論的な物理量の計算が行われたことはない。本研究の第一の目的は、TEK-modelを用いてラージNゲージ理論の弦定数の計算を世界に先駆けて行うことである。連続理論での弦定数の値を求めるには、ゲージ相互作用定数βをNで割った’t Hooftカップリングb=β/N を変えながら格子上の弦定数を計算し、格子間隔 aを 0 に持ってゆく外挿をしなければならない。本年度はSU(841)ゲージ群を用い、8つのbの値で計算を行ない、弦定数の連続理論での値を評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
NをLの2乗としたTEK-modelは、Lの4乗の格子点をもつ4次元格子ゲージ理論とNの2乗分の1のオーターの補正項を除き等価である。通常の格子ゲージ理論で連続理論への外挿をするには、格子の大きさは32の4乗程度が必要であり、したがってTEK-modelではLが29,すなわちNが841の大きさを持つSU(N)群を考えなければならない。連続理論の弦定数の値をラージN極限で求めるため、SU(841)群のTEK-modelの大規模数値シミュレーションを、高エネルギー加速器研究機構のHitachi SR-16000-M1スーパーコンピューターおよび京都大学基礎物理学研究所のHitachi SR-16000-XM1スーパーコンピューターを用いて行った。目標としている統計精度が得られるだけの統計数にはまだ到達していないが、計算はおおむね順調に進んでおり、次年度には研究成果を発表できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
TEK-modelは非可換時空ゲージ場理論と同等であり、非可換時空の場の理論には輻射補正で摂動論の真空が不安定になるタキオニック不安定性が存在する。TEK-modelでZ(N)対称性を破らないままでN無限大の極限が取れるかという問題と、この現象は密接に関係していると考えられるので、TEK-modelで高次輻射補正の計算を通して研究を進めてゆく。 アジョイント・フェルミオンをもつラージNゲージ理論は、AdS/CFT対応からAnti de Sitter時空を背景にもつ重力理論の古典解に関係している可能性や、コンフォーマルな場の理論と関係している可能性があり、近年非常に大きな関心を呼んでいる。格子上のアジョイント・フェルミオンをもつラージNゲージ理論も時空縮約モデルを考えることができる。フェルミオンの動的効果を取り入れたシミュレーションをするには、フェルミオン作用の行列式を評価する必要があるが、直接的に行列式を計算するのは時間がかかりすぎ現実的ではない。申請者は過去20年間、強い相互作用を記述する格子色力学の動的クォーク効果の研究をハイブリッド・モンテカルロ法を用いて世界の第一線で行ってきた。この経験をもとに、種々のフェルミオンを含む時空縮約モデルの数値シュミレーションアルゴリズムをハイブリッド・モンテカルロ法により開発する。これにより、現在はN=25程度でしか行われていないシミュレーションをN~289(L~17)でできるようにし研究を進めてゆく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は国際会議に出席する予定であったが、年度の後半まで予算執行が70%に制限されていたために、時期を逸してしまった。次年度は、この繰越金も含めた旅費で、6月にオーストラリアで行われる格子上の場の理論国際会議に参加し、成果発表を行う予定である。本研究は、マドリッド自治大学のGonzalez-Arroyo教授との共同研究であり、次年度は1度ずつ互いの大学を訪問し議論をしたいと考えており、Gonzalez-Arroyo教授の広島大学での滞在費、および申請者のマドリッド自治大学訪問の際の航空運賃に旅費を使う予定である。TEK-modelの大規模数値シミュレーションでは、大量のデータが生成される。このデータを保存するためのハードデスク、およびその管理のための計算機を購入する。
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