2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23540382
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
安居院 あかね 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究主幹 (20360406)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 光物性 / 非局所発光 / 光学過程 / モデル計算 / 軟エックス線発光 / 遷移金属酸化物 / マルチフェロイック / 放射光 |
Research Abstract |
本研究は、電荷秩序系物質の軟X線発光過程に現れる非局所発光過程を実証し、軟X線発光の新しい過程を明らかにするものである。具体的には、電荷秩序相でFeがFe2+とFe3+になるLuFe2O4のFe3d-2p発光分光スペクトルを測定しFe2+とFe3+による非局所発光の過程を検証する。LuFe2O4は六方晶構造をとり、T<Tco=320KでFe2+とFe3+がab面内で電荷秩序配列、T>Tcoでは無秩序になっている。Fe3d-2p発光分光スペクトルの温度依存性を測定することで、電荷秩序状態の有無によるスペクトル変化からFeサイトの非局所発光過程の起こる条件を検証する。また、その偏光依存性から、その対称性を検証する。 H23年度は、電荷秩序の有無によるFe3d-2p発光分光スペクトルの変化を調べるために、加熱用サンプルモジュールを製作し、Tco前後でFe3d-2p発光分光スペクトルを測定した。測定は単結晶試料を用い、励起光の偏光を結晶のc軸に対して水平、垂直になるように切り替えた偏光依存性測定も合わせて行った。Fe3d-Fe3d励起と考えられる構造に変化が見られた。弾性散乱ピークの寄与の除去などを考慮して解析を進めている。 また、軟X線発光過程に現れる非局所発光過程をモデル計算から明らかにするために、H23年度は、ワークステーションの整備も行った。これに、バンド計算ソフトを実装した。さらに、Fe2+とFe3+による非局所発光過程のモデル計算うためダブルクラスターモデルを扱えるように整備を進めている。ダブルクラスターモデルは扱う計算量が多いので高速度・大容量が必要であるが、テスト計算を行い実用的な計算速度が確保されていることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、主にLuFe2O4系におけるFe3d-2p発光分光測定、モデル計算、そして実験結果の解析からなる。<発光分光測定> H23年度はTco<Tで測定を可能にするために加熱用サンプルモジュールを製作した。昇温試験の結果、400K<Tに加熱可能であることが確認できた。これを、大型放射光利用施設SPring-8のBL27SUの実験装置に組み込みFe3d-2p発光分光測定を行った。SPring-8のBL27SUでは励起光の偏光を垂直、水平に切り替えることができる。これらを利用して、LuFe2O4の結晶のc軸に対して水平、垂直になるように切り替えた偏光依存性測定と、Tcoの上下でFe3d-2p発光分光スペクトルの測定を行った。また、LuFe2O4中のFe2+とFe3+の局所発光と非局所発光によるスペクトルの違いを明らかにするために、局所発光の参照試料としてLuCoFeO4(Feは3価), LuFeGaO4(Feは2価)の基礎データを測定した。LuCoFeO4, LuFeGaO4は多結晶試料を用い偏光依存性測定は行わず、また、測定は室温で行った。LuFe2O4、LuCoFeO4, LuFeGaO4の試料は連携研究者・岡山大・池田の研究室で作成したものを用いた。<モデル計算>モデル計算には研究協力者・大阪府立大学魚住のダブルクラスターモデル計算を拡張し用いる。ダブルクラスターモデルは、クラスターサイズが大きく、計算対象となる電子数が多いので、高速並列計算可能な計算機が必要である。H23年度は、高速度・大容量ワークステーションの整備を行った。これまでに他機で実績のある、FeTiO3のダブルクラスターモデル計算でテスト計算を行ったところ実用的な計算速度が確保されていることが確認できた。さらに、バンド計算ソフトを実装した。 以上、H23年度として計画したことを概ね遂行できた。
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Strategy for Future Research Activity |
電荷秩序をもつ遷移金属酸化物において遷移金属の3d-2p発光分光測定、モデル計算、そして実験結果の解析を進める。<発光分光測定> LuFe2O4のFe3d-2p発光分光スペクトルの低エネルギー領域で微細構造として現れる非局所過程によるdd励起の分散関係を調べるために、高分解能で角度分解測定を行う。さらに、同種のRFe2O4(R=希土類)でFe3d→2p発光分光測定を行い、LuFe2O4で得られた知見を検証する。また、Mn酸化物など他の遷移金属酸物で、RFe2O4で得られた知見を拡張し物理の普遍性を検証するために、発光実験を行う。<実験結果の解析>弾性散乱ピークの寄与の除去をどのように行うかなど解析を進める上での問題点の解決し、H23年度に測定したスペクトルの解析進める。ていく。Feは、LuCoFeO4で3価(Fe3+)、LuFeGaO4で2価(Fe2+)になる。LuCoFeO4およびLuFeGaO4のFe2p-3d発光分光スペクトルを、Fe2+とFe3+各々の局所発光に関する基本情報とし、LuFe2O4のFe3d→2p発光スペクトル中の非局所発光に関する情報を抽出する。<モデル計算>前年度に整備したモデル計算環境を利用してスペクトルの解析を進め、非局所発光過程に対する理論的根拠を検討する。LuFe2O4で得られた知見を活かし、他の物質で系の解析を進める。 また、H23年度に得られた結果について学会、論文等で発表を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の主な支出は、放射光利用施設SLSへの出張費になると考えている。スイス7日間の出張で250千円程度と見積もっている。その他、国内学会への参加60千円と考えている。また、実験用の冶具、真空部品などの消耗品、パソコン用ソフトなどで250千円と考えている。
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Research Products
(9 results)