2012 Fiscal Year Research-status Report
スピングラス系物質における低温磁気比熱の温度依存性
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23540393
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
伊藤 昌和 鹿児島大学, 理工学研究科, 准教授 (40294524)
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Keywords | スピングラス / フラストレーション / ハーフメタル / ホイスラー / スピネル / 磁化 / 比熱 / 圧力 |
Research Abstract |
24年度はホイスラー化合物Ru2-xFexCrSi (1.3 < x < 1.8) とスピネル化合物CuCrZrS4の物性を調べた。以下にその内容について具体的に記す。 ①ホイスラー化合物Ru2-xFexCrSi (1.3 < x < 1.8) の比熱と電気抵抗:我々はこの物質がx < 0.5でスピングラスを示す半導体であることをこれまでに明らかにしている。この物質系の強磁性金属領域( 1.3 < x < 1.8 ) において比熱測定を中心に調べた。実験から得られた電子比熱係数からフェルミレベルでの状態密度を定量的に求め、さらにAndreev反射法によって決定されたスピン分極率を用いてmajority spin バンドとminority spin バンドのフェルミレベルにおける状態密度のx依存性を求めた。これより、majorityおよびminority spin band ともFe濃度が増加するにしたがって、フェルミレベルでの状態密度が減少することがわかった。 ②スピネル化合物CuCrZrS4の圧力下における磁気的性質:AB2X4で表されるスピネル構造は、Bサイトが四面体構造のネットワークを組む。このことから系に反強磁性相互作用が存在する場合、強い磁気的フラストレーションがもたらされる。実際、CuCr2S4のBサイトの半分をZrで置き換えたCuCrZrS4は磁化において温度T = 60 K付近でスピングラス状態になることが知られている。我々は圧力によりフラストレーションの強度をコントロールすることを目的として、圧力下交流磁化率測定を行った。圧力を加える事で格子間距離が縮まり、四面体構造に由来する磁気的フラストレーションが強まることが予想される。実験結果より圧力増加とともにスピン凍結温度が上昇することがわかった。つまり、圧力印加により、フラストレーションが増強されたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究目標の一つとして、AT,GTスピングラス凍結温度の圧力依存性を調べることを挙げていた。具体的研究活動として強い幾何学的フラストレーションを持つスピネル化合物CuCrZrS4の常圧下磁化測定及び圧力下交流磁化率測定を行い、磁気的フラストレーションの磁場・圧力依存性について詳細に調べた。その結果、①この物質の低温での磁化の不可逆性がスピンのAT凍結に起因すること。②不可逆性が現れる、ATタイプの凍結温度が、圧力により増加することをみいだした。②については圧力印加により系の磁気的フラストレーションが強まることを示している。残念ながら、GT凍結温度については、磁場依存性および圧力依存性を求めることはできなかった。これらの結果をまとめ、査読付き論文に発表を行なっている。スピングラスの種類を明らかにしたうえで、その圧力依存性を調べたという研究はあまりなく、今後の本研究の研究遂行に指針を与える大きな結果と言える。また、モデル物質の選定という視点からも、大きな前進と言える。以上のことから、概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
ひき続き、比較的高い温度でAT,GTスピングラス凍結を兼ね備えるモデル物質の探索、及び、それらを用いた比熱・磁化測定を中心とする物性測定を並行して行なっていく。モデル物質探索においては、これまで他のグループと共同使用していたボックス炉を用いて試料作製を行なっていたが、今後は研究費により購入する予定である、ボックス炉を有効に使っていく。これまで通り、磁化の磁場依存性による、スピングラスの種類の決定及び、その種類の違いによる、低温比熱の温度依存性について詳細に調べていく。さらに、24年度に新たに開発した、熱伝導、熱電能測定装置を用い、これら物理量の温度依存性におけるスピン凍結の種類による違いについても検証して行きたい。電気伝導性を兼ね備える物質については、電気抵抗率、ホール係数測定も行い、スピングラスの出現と、電気伝導との関係性も調べていく。これらの実験を通じて、スピングラスが存在すること及びその種類の違いにより各物理量の温度依存性にどのように影響するのか調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(16 results)