2011 Fiscal Year Research-status Report
ナノ細孔内に形成した1次元ヘリウム3流体の量子状態の解明
Project/Area Number |
23540404
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松下 琢 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00283458)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 1次元フェルミ流体 / ヘリウム3 / 核磁気共鳴 |
Research Abstract |
本研究全体の主たる目的は主に核磁気共鳴法を用いた孔径数nmの1次元トンネル中に吸着した1次元ヘリウム3量子流体の研究であるが、23年度は当初計画の通り、まず核磁気共鳴実験の測定系の構築および整備を行い、1K以上の古典領域にあたる温度領域でトンネル内に吸着したヘリウム3の核磁気共鳴の実験を行った。この実験からヘリウム3の吸着状態に関する知見のほか、現状の実験装置における試料の冷却の度合や測定感度など今後研究を進める上で非常に貴重な情報が得られた。 核磁気共鳴実験は1K以上の測定温度域において、原子層にして0.1から2層に当たるヘリウム3を孔径2.4nmのトンネルに吸着した状態で行った。この温度域では帯磁率はキュリー則に従うことが観測され、吸着ヘリウム3は古典流体とみなせることが確認された。また格子スピン緩和時間およびスピンスピン緩和時間は、流体の応答を記述するBPP理論を2次元系に拡張した計算結果と良く合致し、この温度域の吸着ヘリウム3原子は細孔壁に沿った2次元運動を行うことがわかった。その相関時間は液体ヘリウム3よりむしろ量子固体ヘリウム3と同程度であり、原子運動は主としてサイト間のホッピングによるものと考えられる。2K以下では緩和時間の温度変化はほぼなくなり、量子トンネリングによる原子交換への移行が示唆された。また1層以上の吸着量では緩和時間が吸着量によらないことがわかった。このことは2層目に吸着した原子の運動が1層目に比べ非常に早いことを示唆しており、1層目をヘリウム4に置き換えることで十分流動的なヘリウム3流体が実現可能であることを示す結果である。またこれらの古典領域の結果は低温における流体の量子性を議論するうえでの対比データとして非常に重要になる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度は当初の研究実施計画に記したとおり、研究に必要な実験装置系を構築すること、量子流体と対比しうる古典流体の基礎データを取得することを目的として研究を進展させた。 核磁気共鳴測定系については磁場勾配マグネットなどの必要な装置を製作し、測定に必要な装置を組み合わせ整備した。また既存の装置にさらに位相検波回路や位相変換回路等を付加することで、短い時間で系統的なデータが得られるシステムを構築した。測定感度については実際の古典領域のヘリウム3の信号によって評価することができ、低温での量子流体の実験においても十分な感度が得られていることがわかった。これらの結果得られた、1K以上の古典領域の吸着ヘリウム3の核磁気共鳴実験から、ヘリウム3の吸着状態や運動状態の情報を得ることができ、さらに今後低温における量子領域のデータを解析する上で対比しうる重要なデータが得られた。 一方冷凍機の不具合により1K以下のデータは23年度においては得られなかったが、既にその原因は特定されており、24年度からさらに低温の量子領域に向けて研究を進展させる準備が整った状態となった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究実施計画どおり、24年度は比熱測定で存在が示唆されている1次元ヘリウム3量子流体が実現する低吸着量低温領域へ向けて核磁気共鳴測定を拡張するのを当面の目標とする。 本研究の実験的課題の一つは、核磁気共鳴測定に影響する金属の使用を極力避けながら、試料をいかに1次元量子領域まで冷却するか、ということであるが、細孔基盤の熱伝導など文献からはデータが得られないので実験的に確立していく必要がある。現在の状況で1K以下に冷凍機を冷却できなかった原因は既に特定されたので、まずヘリウム3冷凍機温度までのデータを取得するとともに試料の冷却の状況を確認していく。その結果から希釈冷凍機温度への冷凍法を検討し、サンプルセルの改良等を行いながら順次低温の量子領域まで測定を拡張していく。また大きな信号強度が得られるような低温で、1次元系を実現するためのもう一つの条件である低吸着量領域へも測定範囲を拡張する。さらに細孔壁との相互作用を制御するためのヘリウム4を使用した測定も行っていく。 25年度にかけて、1次元ヘリウム3量子流体の帯磁率や緩和時間など動的情報に関する測定を系統的に行い、その物性を明らかにしていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度同様、本研究費は主として実験を遂行するために必要不可欠な寒剤費に多くの部分を当てる必要がある。十分ではない運営費交付金のほかに経費を得られる見込みが現在立っていないので、昨年度に残した次年度使用額分も含めて使用していく予定である。また現状の測定装置で必要な測定感度は得られているのだが、さらに良好なデータが得られるよう改善していくため、回路を構成する部品等に一部物品費を当てる予定である。さらに23年度の成果を国際的に公表するための旅費を、日本物理学会の参加費用とともに使用する予定である。
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Research Products
(29 results)