2012 Fiscal Year Research-status Report
ナノ細孔内に形成した1次元ヘリウム3流体の量子状態の解明
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23540404
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松下 琢 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00283458)
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Keywords | 1次元フェルミ流体 / ヘリウム3 / 核磁気共鳴 |
Research Abstract |
24年度は23年度に整備した核磁気共鳴測定系の温度領域をさらに低温の0.5Kまで拡張し、主として1次元トンネルに吸着した非縮退領域のヘリウム3膜の核磁気緩和の測定を密度と温度に関して系統的に行い、その原子運動を研究した。 この領域のヘリウム3膜の核磁気緩和については、他の吸着基板上では詳細に調べられていない。これまで、前年度の1Kまでの結果から熱励起型のヘリウム3原子運動が低温で量子トンネリングへ移行することが示唆されたが、詳細に調べると、1層以下の吸着膜では密度に応じて核磁気緩和時間が特徴的な温度変化を示すことがわかった。まず、スピン格子緩和時間が極小をとる温度より少し低温でスピンスピン緩和時間の温度変化が肩を持つことが示された。このような現象は3次元系の双極子緩和理論では知られているが低次元に拡張した理論では予測されていない。一方で高温の実験結果は低次元系の特徴を観測しており、従来の低次元系の理論に対して改良を促す結果となっている。またさらに低温で、スピン格子緩和時間の増大が確認された。対応するヘリウム3膜の比熱測定を行った結果、この異常の現れる温度は比熱において原子の局在化が示唆される温度と一致することが確認されたが、同じ温度でスピンスピン緩和時間には顕著な異常が見られず、局在化に伴い原子が配置換えを行う可能性を初めて示した。このようないくつかの新しい発見については、国内外の学会での発表のほか、一部は論文にまとめ報告を行った。 また予備実験として4Heをコートしたトンネル中の希薄3Heの核磁気緩和の観測を行い、原子運動が非常に速く流体として振舞うことが確認された。前記の結果も含め、さらに低温で期待される1次元ヘリウム3量子流体の研究にあたっての貴重な参照データとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度はまず23年度に課題として残った測定温度領域を0.5Kまで拡張することに成功した。当初の研究実施計画では、さらに希釈冷凍機への核磁気共鳴測定系の移行を24年度早期に開始する予定であったが、前記の研究実績の概要に示したとおり、この0.5Kまでの温度領域で当初予期されなかったいくつかの新しい現象が発見されたため、予定を変更し、核磁気緩和のデータを系統的に収集し研究を行った。これにより、測定系の移行自体は当初計画より遅らせることとなったが、その反面、非縮退領域のヘリウム3膜についてこれまで報告されていない重要な結果を得ることができた。さらに、この温度領域のデータは、今後の主たる目的である縮退した量子流体のデータを解析するために参照する重要な基礎データであるため、このスケジュール変更は本研究の遂行に必要な措置であったと考えられる。希釈冷凍機への測定系の移行は24年度末から開始し、現在概ね準備が整いつつあり、25年度は低温の量子領域のデータ収集と解析を集中的に行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究実施計画どおり、新たに整備した希釈冷凍機温度における測定系により、比熱測定で存在が示唆されており低吸着量低温領域で実現することが期待される1次元ヘリウム3量子流体について、核磁気共鳴測定による研究を行う。 当初本研究の実験的課題としてあげたものの一つは、核磁気共鳴測定に影響する金属の使用を極力避けながら、試料をいかに1次元量子領域まで冷却するか、ということであったが、24年度までの実験結果から0.5K程度までは問題なく冷却され、また1層の1/10程度の希薄な密度においても信号の観測が可能であることが確認された。したがって、25年度の最初は、現状の試料をそのまま希釈冷凍機に移行してデータ取得を開始する。その結果から、必要に応じてサンプルセルの改良等を検討し、順次希釈冷凍機温度の量子領域まで測定を拡張していく予定である。 このような装置整備の上で、本研究の主たる目的である1次元ヘリウム3量子流体の帯磁率や緩和時間など動的情報に関する測定を系統的に行い、その物性を明らかにしていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年24年度同様25年度も、本研究費は実験を遂行するために必要不可欠な寒剤費に多くの部分を当てる必要がある。24年度から、主たる寒剤であるヘリウムの供給が国内はおろか国際的にも逼迫した事態となっており、今後の寒剤の獲得量やその価格が全く予測できない状態となっているため、24年度経費のうち可能な一部を次年度使用額として25年度に残した。25年度はこの経費をあわせ情勢をふまえて必要に応じて寒剤を購入していく。また可能であれば、現状の測定装置の感度をさらにあげ、より良好なデータが得られるよう改善するため、回路を構成する部品等に一部物品費を当てる予定である。さらに、これまでの成果を公表するため国際学会や日本物理学会の参加旅費を使用する予定である。
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Research Products
(26 results)