2011 Fiscal Year Research-status Report
密度汎関数変分法による遷移金属酸化物の電子状態計算
Project/Area Number |
23540408
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
草部 浩一 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (10262164)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丸山 勲 大阪大学, 基礎工学研究科, 特任助教 (20422339)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 密度汎関数法 / 遷移金属酸化物 / 電子状態計算 / 強相関電子系 / 変分法 |
Research Abstract |
2体散乱起源の層間ペアホッピングを密度汎関数変分法(DFVT)で評価するため、ペアホッピング振幅の計算プログラムを作成した。これを電子格子相互作用起源超伝導機構では説明困難な各種の層状超伝導物質に適用して、電子相関起源超伝導による層間ペアホッピングのエネルギースケールが数十~数百 meV の大きさを持ちうることを示した。軌道・磁気秩序構造が反強磁性超交換相互作用起源機構で決定されるマンガン酸化物等の系では、一般に単一配置参照計算(SR-DFT)から正しい秩序構造が得られないことを指摘した。反強磁性磁気構造が現れる金属反強磁性相を同定する理論にとって、nodal SDW状態を示すDirac電子系の解析が重要であることを指摘して、電流密度汎関数変分法としての金属反強磁性体計算の収束判定条件を与えた。バルクLaFeO3では、結晶構造の再現によってSR-DFTでも絶縁体基底状態が再現できるが、最近の実験からLaFeO3を用いたペロブスカイト触媒表面で電場印加効果による固体触媒効果の増強が明らかになっている一方で、SR-DFTを用いた表面計算を行うと安定なLaO表面を形成しても表面状態発生による金属化が起こることが分かった。この表面状態は内部の鉄3d軌道状態を含んでいるため、酸素欠損などの乱雑性導入による局在軌道発生効果を考慮してもSR-DFTでは説明できない局在性が実験的に同定されているのである。この効果は、多配置参照密によるDFVTによって解析されるべきであることが分かった。これらの研究実施によって、多配置参照密度汎関数法の計算技術公開を進めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、遷移金属酸化物において現れる強相関電子系に対して密度汎関数変分法の適用を進めるものであるが、多様な高温超伝導物質、軌道・磁気秩序、モット絶縁性物質に一般的に生じる強相関性の解析が、密度汎関数変分法の適用によって可能であることが分かってきたことから、本年度は当初計画にある平成24年度以降の計画を前倒しした研究成果を得た。同時に、次年度以降の有効多体模型の評価方法に用いる変分法について研究成果を得た。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初計画通り、遷移金属酸化物に現れる高温超伝導体を、鉄ニクタイド、鉄カルコゲナイド、電子ドープされた層状窒化物、電子ドープされた有機系超伝導体等との比較から、超伝導秩序変数に対する有効電子間相互作用の理論評価を行う方法により検討して、その結果を元にした物質設計を進める。併せて、光電子スペクトルなどのスペクトル解析を行う計算方法を整備する。原子スケールにおいて多様な不均一構造を持つ系における電子相関効果を、2体有効相互作用の同定・評価を通して与える電子状態計算を実施していく。そのために、多体有効系の評価方法として、グリーン関数法、各種繰り込み群法の整備を、厳密対角化法、関数解析などの厳密評価法と併せて整備していく。これらを総合して、有効1次元ボゾン模型の構築と水銀系銅酸化物高温超伝導体の解析、マンガン系酸化物の電荷・スピン・軌道秩序の解析、モット・アンダーソン転移と電子相ナノ相分離から生じる機能性固体触媒設計を再び進める。平成24年度には、このうち特に次の3課題を中心にして開発研究と応用研究を平行して進める。1)水銀系銅酸化物高温超伝導体における有効相互作用評価を進め、鉄系や層状窒化物などとの比較から超伝導特性を抽出する方法を与える。2)ディラック電子系を与える鉄系物質やマンガン系酸化物に着目して電荷・スピン・軌道秩序の評価を進める。3)La(FePd)O3系に着目して金属ナノ粒子のモット絶縁体中での電子状態解析を進める。4)量子力学的変分計算に着目して、射影演算子法や数値的繰り込み群の方法などを応用した電子状態計算開発を進める。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究課題は、密度汎関数法の従来法として安定した結果を与えるGGA計算等に基づき、電子系の量子力学的揺らぎの効果を取り込んだ変分計算を実施できる、密度汎関数変分法に基づいた電子状態計算を行うものである。特に、各種層状超伝導体、遷移金属酸化物や化合物、ナノスケールで複合化された遷移金属化合物を数値シミュレーションによって取り扱うものである。そこで、研究費の使用計画においては、数値計算実施と、その成果を公開する研究費の使用が中心となる。1)大型計算機システムの利用:昨年度に導入した計算機システムは、新規開発のプログラムについて動作検証していくために必須のものである。一方、大規模数値シミュレーションを、九州大学情報基盤研究開発センター研究用計算機システムに特有の計算機コード利用による高速構造決定と、東京大学物性研究所計算機システムの利用による大規模並列計算を実施することで進める。前者の九大センターの利用には、使用料発生があるため、研究代表者、研究分担者と研究協力者である大学院生による利用に276千円が必要である。2)研究成果を、米国物理学会や日本物理学会欧文誌を通して発表するための出版費用が必要となる。また、米国材料学会(MRS)の年会や日本物理学会、応用物理学会での研究発表を通して公開するため、旅費を必要とする。3)筑波大学、早稲田大学や産業技術総合研究所に所属する電子状態計算関連の専門家から、専門的知識の提供を受けるため、講演謝金及び招聘旅費を必要とする。
|
Research Products
(40 results)