2011 Fiscal Year Research-status Report
シンプレクティック分子動力学法によるエントロピーの熱力学的測定
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23540458
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
青木 圭子 東邦大学, 理学部, 講師 (90252163)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大西 楢平 東邦大学, 理学部, 教授 (50459822)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 液晶相 |
Research Abstract |
今年度は、研究代表者が開発したシミュレーションコードを用い、新規購入したハイパフォーマンスコンピュータ上で、ヘキサティック・スメクティックB(HexB)液晶相の等温・等圧シミュレーションを系統的に行ってきた。本研究で用いているソフトマターのためのシンプレクティック解法は、ハミルトニアンの構造から熱の出入りが詳細に計算できるため、相対エントロピー・定圧比熱などの熱力学量の計算が、従来の方法に比して簡便に、しかも精度良く求められる。複数の状態のエントロピーを比較するには、同じ初期配置から出発して異なる状態へ持っていき、その際の熱の出入りを測ることにより行う。複数の熱力学量を求めることによって、動力学的な特徴に加え、定量的に各状態を区別することが可能であり、熱平衡状態に加え、今のところ、少なくとも10以上の HexB 準安定状態が見つかっている。 HexB 液晶相は、6回対称ボンド配向秩序を持つことを特徴とするが、実験によれば、6, 12, 18,...6n回対称ボンド配向秩序パラメーター間には指数的なスケーリングが成り立っている。今回系統的に行っているシミュレーションでも、6回, 12回, 18回対称ボンド配向秩序パラメータ C6, C12, C18 をすべて計算しており、実験と同様のスケーリング則が成り立つことがシミュレーションで初めて確認された。とくに今回のモデル分子では、スケーリングの指数が二次元から三次元へのクロスオーバーを見せており、二次元系の融解理論との比較が興味深い。また、ゆらぎの大きい相転移近傍の温度にするとあまり分子数の大きくない系では、複数の HexB 準安定状態を遷移する。このような事が観察できるのは、ゆらぎがどんなに大きくても安定に計算できるソフトマターのためのシンプレクティック解法のみである。これらのデータを使えば、位相空間のトポロジーも解明できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シミュレーションのデータの蓄積および解析は、順調に行われている。熱平衡状態の他に複数の準安定状態が得られており、相対エントロピーをはじめ様々な物理量も計算できている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者と研究分担者が協力しながら、初年度に得られたデータ解析を行うとともに、引き続き系統的なシミュレーションを継続する。データ解析に当たっては、特に熱力学平衡状態と準安定状態の比較を行い、得られたエントロピーの値や他の熱力学量、また物性値の変化と照らし合わせる。この際、熱の出入りから得られたエントロピーの値が、準安定状態でも熱力学的な枠組みから見て矛盾がないか、また、非平衡熱力学的な理論体系への拡張についても検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、成果の発表も含め、他の研究者と議論を活発に行うために国際会議出席などの費用に充てたい。
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Research Products
(3 results)