2011 Fiscal Year Research-status Report
高時空間分解能での地殻歪場の推定によるゆっくり地震の発生過程と条件の解明
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23540503
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
大谷 竜 独立行政法人産業技術総合研究所, 地質情報研究部門, 研究員 (50356648)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
名和 一成 独立行政法人産業技術総合研究所, 地質情報研究部門, 主任研究員 (20262082)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 地殻変動 / ゆっくり地震 / GPS連続観測網 / 地殻歪場 / 歪計 |
Research Abstract |
初年度は、大きな地震や地殻変動が起きていない平常時の時期を対象として、バックグランドとなる数ヶ月程度のタイムスケールでの歪計の安定性に関する基礎的な情報を得るため、ゆっくり地震が余り観測されていない近畿地方に設置された産業技術総合研究所の7点のボアホール歪計で観測された水平面内の3方向の線歪と、歪計観測点を取り囲む周囲の国土地理院のGPS連続観測点から計算された歪との比較を行った。 全体に共通する特徴として以下のことが分かった。まず、歪計による計測値(日値)のばらつきは、GPSに比べると格段に小さく、歪計による計測分解能の高さを示すものの、GPSでは経年的なトレンドを基準としてそこからのずれた分の変動は、せいぜい0.2~0.3μストレイン程度に収まっているのに対して、歪計の場合は最大で2μストレインにも及ぶ大きな変動が見られ、両者の変動の様相に大きな違いが見られた。また、多くの歪計の記録には季節変動的な成分が認められ、これはGPS歪にも観測されたが、GPSではその振幅はおおよそ0.05~0.2μストレイン程度の範囲に収まっているのに対し、歪計によるものはGPSよりも格段に大きな振幅を示すものがあり、かつ季節変動のパターンもGPSほど周期的ではないことが見られた。こうした季節変動成分についても、両者のはっきりした相関は余り見られなかった。 以上のように、広域的に離れた7点の異なる観測点において、歪計とGPSとの間に良い相関が見られず、歪計に大きな変動があることから、歪計には観測点固有のローカルな影響(例えばセンサー周辺の間隙水圧変化や、歪計設置時のセメンティングによる岩盤とのカップリングの状態等)を受けていることが考えられ、数ヶ月程度のスケールの地殻変動を歪計で捉えるには計測特性等の更なる精査が必要であることが分かった。以上の成果を論文として投稿し現在査読中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
解析に必要なアルゴリズムを作成する上で予備的な解析を実施したところ、当初考えられていたよりも解析のためのメモリー量が必要であることが判明し、新規導入するサーバの仕様の再検討が必要であることが分かった。更に、地震等の影響に伴う研究室の改修のための一時引越しが必要になったことや、過去開発したプログラム群を収納したサーバの障害等のため、計算機の導入と整備が遅延している。一方、実際の観測網を模したシミュレーションデータや関連する必要なプログラムの作成、ゆっくり地震検出のための観測量である歪計とGPSによる相互の比較を行なうという当初計画は達成できた。比較の結果、両者の対応は余り良くなく、特に歪計の記録に原因不明の大きな変動が見られる等の知見が得られ、今後の解析においては、歪計の観測量におけるノイズ特性等の基本的な評価が必要であることが示された。
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Strategy for Future Research Activity |
地震被害による研究室改修のための一時引越しや、サーバ障害によって遅延していた計算機の導入と整備を早急に行って解析に必要なコード関係の移植作業等を行い、プラットホームの構築を実施する。特にメモリの大容量化に重点を置いたプラットホーム整備を強化するとともに、解析でのアルゴリズムの効率化等により、解析に必要な計算上の問題を解決できるようにする。その上で昨年度作成したシミュレーションデータ等を用いて、南海トラフから琉球トラフ沿いにかけて繰り返し発生しているゆっくり地震を対象にして、ゆっくり地震による地殻変動の広がりや、歪計やGPS等の各種の観測機器を用いた検出特性の評価を行う。またこれらのデータを用いてゆっくり地震のすべり領域を推定し、その推定精度の評価や相互比較を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
大容量メモリ計算機の導入とプラットホーム環境の整備のためのソフトウエアを購入する。本年度及び次年度の成果を、日本地震学会等で発表する。そのための発表登録料、学会参加料、交通費や宿泊費等の旅費を計上する。ゆっくり地震に関する最新の知見等取得のため、東京大学地震研究所等で開催される研究会に適時参加して、情報収集を行う。また、関連する地震防災分野において、成果の社会への分かりやすい形での発信と活用のため、災害情報学会や地震防災に関する研究会に参加し、積極的に情報共有やフィードバックの機会を得る。
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