2012 Fiscal Year Research-status Report
単成火山のマグマ上昇はマグマ起源揮発性物質の拡散放出から捉えられるか
Project/Area Number |
23540569
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
野津 憲治 静岡大学, 防災総合センター, 客員教授 (80101103)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 直之 静岡大学, 防災総合センター, 特任教授 (60011631)
森 俊哉 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40272463)
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Keywords | 火山噴火予知 / 単成火山 / 伊豆東部火山群 / 手石海丘 / マグマ揮発性物質 / 二酸化炭素 / 火山ガス拡散放出 |
Research Abstract |
マグマに溶け込んでいる揮発性物質は、火山ガスとして火山体の山頂火口や山腹の噴気孔から放出しているが、この他にも火山体を覆う土壌を通して滲み出しており、「拡散放出」と呼ばれている。マグマ揮発性物質の中でもCO2の拡散放出は多くの火山で普遍的にみられ、時間変化はマグマの上昇下降を反映し、面分布は将来の噴火場所の推定に役立つ。現在伊豆半島東部ではマグマの上昇を示す兆候が続いており、1989 年には伊東沖で海底噴火も起きた。本研究はこの地域に特有の単成火山形成に伴うマグマの動きをマグマ揮発性物質の拡散放出から捉えようとする初めての試みである。 初年度には、群発地震震源域の陸上部分と2700年前の噴火域で観測研究を実施したが、両地域ともCO2の拡散放出量は生物活動由来のバックグラウンドレベルであり、マグマ揮発性物質の拡散放出は検出できなかった。2年目の平成23 年度は当初、伊豆東部単成火山群が分布する陸上域の別の場所での観測を予定していたが、1989年のマグマ上昇場所に近い海上域での観測に変更した。初年度の陸域での観測結果を踏まえ、海域での観測を優先されると考えたからである。測定方法は陸上域の観測とは異なり、海中で火山体に接している海水を採取し、溶存全無機炭素量、CH4量とそれらのδ13C、Δ14Cを測定し、海水中での深度分布が拡散放出のパターンを示すか調べる方法である。海水採取は7月に小型船上からホースを下ろして行い、水深107-115mの火口底から異なる3地点、手石海丘上方の水深100m、80m、50mの海水を得ることが出来た。その結果、火口底の旧噴火孔に近い1地点だけからマグマ起源で極めて少量のCO2とCH4の放出が認められた。微少量ではあっても放出が確実に検出できたこと自体極めて画期的で、10月にスペインで開かれた海底火山の国際ワークショップで発表し、注目を集めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
火山ガスの拡散放出はこれまでも多くの火山で観測されており、研究申請者らは2000年有珠山噴火の前に火山体内のガス圧の上昇を反映した拡散放出量の増加を観測でき、マグマ供給の時間変化のパラメータとなることを世界で最初に示した。本研究では,同じ火道を一回しか使わない単成火山のマグマ上昇下降についても拡散放出量に変化が現れるか否かの知見を得ようとして,伊豆東部単成火山群を研究のターゲットとした。 研究申請にあたっては,まず伊豆東部火山群の群発地震多発域で現在の火山ガス拡散放出量を調査し,1万年より若い単成火山でも調査を行い,さらに研究期間の3年の間に群発地震活動が活発化したら調査を繰り返すことを計画した。初年度は最近の群発地震震源域の陸上部分と1989年の手石海丘噴火を除けば最も新しい2700年前の噴火域(岩ノ山から北ノ山、矢筈山、伊雄山に至る直線上)で観測したが、どちらからもマグマ起源の拡散放出は見つからなかった。2年度は当初計画では、伊豆東部単成火山群が分布する領域の別の陸上域(候補地は4000年前に形成した大室山)での従来法による観測と、まだ観測手法が確立していない海域での拡散放出量測定の試験を予定していたが、初年度の観測結果を踏まえて、後者の研究開発に集中した。1989年にマグマ上昇があり海底噴火した手石海丘の火口底直上から海水を採取し、マグマ揮発性CO2を検出する試みは、これまでに行われておらず、試料採取からして試行錯誤を繰り返したが、結果的には、火口底の特定の場所でのみ、マグマ起源のCO2の拡散放出を捉えることが出来、CH4やHe同位体比からも支持される結果で、画期的な成果である.本年度の研究は当初の計画を変更したが、計画以上の結果を出すことが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の全体計画に沿って,最終年度も伊豆東部火山群の群発地震が多発する震源域(伊東市東部)と1万年以内に噴火が起きた場所の周辺で,火山ガス拡散放出の観測を行う。研究期間内に群発地震活動が起きれば,震源場所に適時対応して観測場所や観測間隔を選んで観測を行う。現在(平成25年5月)の伊豆半島東部の地震活動は低調で、これまでの本研究期間内に群発地震は起きていないので、マグマが上昇下降に伴うマグマ揮発性物質の放出挙動の変化は、本研究期間内には観測結果として捉えられない可能性がある。しかし本研究で、地震活動が低調なバックグラウンドをしっかり観測しておくことは、将来必ず起きる群発地震さらには火山噴火時の観測結果を生かす意味で、意義が大きい。また単成火山の噴火は、2700年前に起きた岩ノ山から北ノ山、矢筈山、伊雄山に至る直線上の割れ目噴火のように、岩脈に沿って時間をおいて恐らく短時間の間に順次起きる場合もある。この現象を1989年噴火にあてはめると,その当時マグマが上昇した岩脈の北西延長は伊豆半島の陸上部の伊東市北部(宇佐見)になるので、この地域も本年度の観測地域に含める。 研究2年目の平成24年度には、想定されるマグマ上昇域にできるだけ近い場所での観測ということで,海上での拡散放出の測定を試み、予想以上の良好な結果を得ることができた。本年度に海域での観測の予定はないが、昨年の結果を多方面から検討し、国際学会での発表、国際学術誌への投稿を行って成果を公表すると同時に、海域での拡散放出量測定の問題点を洗い出し、今後の研究に発展させていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度(最終年度)の研究費は直接経費70万円であり,研究代表者と分担者2名が研究観測を行うための経費と研究成果の公表のための費用として使用することを予定している。その主な内訳は,旅費と消耗品費であり、東伊豆単成火山群で群発地震多発域(伊東港から川奈へ至る地域)と1万年以内に噴火の起きた例えば大室山周辺で観測を行うための費用として使用される。また、本研究の成果発表の場としては、平成25年7月に鹿児島で開催される国際火山学地球内部化学会議(IAVCEI)を予定しており、すでに発表論文は受理されている。本国際会議に参加発表に要する費用にも使用される。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article] Diffuse volcanic degassing and thermal energy release from Hengill volcanic system, Iceland2012
Author(s)
P.A.Hernandez, N.M.Perez, T.Fridriksson, J.Egbert, E.Ilyinskaya, A.Tharhallsson, G.Ivarsson, G.Gislason, I.Gunnarsson, B.Jonsson, E.Padron, G.Melian, T.Mori and K.Notsu
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Journal Title
Bull. Volcanol.
Volume: 74
Pages: 2435-2448
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] Volatile Leakage from the Crater Bottom of Teishi Knoll, Japan, Formed by a Submarine Eruption in 1989
Author(s)
K.Notsu, R.Sohrin, H.Wada, T.Tsuboi, H.Sumino, T.Mori, U.Tsunogai, P.A.Hernendez, Y.Suzuki, R.Ikuta, K.Oorui, M.Koyama, T.Masuda, N.Fujii
Organizer
1st Anniversary International Conference Commemorating the 2011-2012 El Hierro Submarine Euption
Place of Presentation
El Hierro( Canary Islands, Spain)
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