2011 Fiscal Year Research-status Report
パルス伝播を取り入れた時空間量子最適制御シミュレーション法の開発と応用
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23550004
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大槻 幸義 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40203848)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | コヒーレント制御 / 最適制御 / レーザーパルス / 偏光 / 分子整列 / 分子配向 / パルス伝播 |
Research Abstract |
最適制御シミュレーションは,(モデル)ハミルトニアン情報だけから,目的達成に最適なレーザーパルスを数値設計する第一原理法である.本研究の目的は,従来考慮されてこなかったパルスの伝播効果を陽に取り入れ,溶液中・生体中など,ターゲット分子が高濃度な系への拡張を最終目標にしている.今年度成果は,(1)光も陽に考慮した(ベクトル波の)最適制御シミュレーション法を開発と(2)パルス伝播を取り入れた最適化問題の定式化である. (1)では,我々の以前の報告を拡張することで,偏光まで陽に取り入れた場合にも,単調収束が保障された数値解法アルゴリズムが存在することを証明できた.これを用い,偏光の最適化が本質的に重要な例として,2原子分子の2方向への同時整列制御を示した.同時多方向制御に関しては,「楕円偏光と直線偏光の組み合わせのどちらが有利か」との論争が長年続いてきた.本シミュレーションは後者の方法が最適であるとの結論を導いた.化学反応では分子の向きが重要でり,自在に制御できることを示した意義は大きいと考えている.現在,より現実的な状況を想定し,複数の化学種が存在する場合へ拡張しているところである.なお,非共鳴パルスを用いる本方法は,溶媒による吸収(熱発生)を 抑制できるので,より拡張性があると期待している.以上の成果は学術雑誌に発表するとともに,Gordon Conferenceなど2つの国際会議の招待講演でも成果を報告した. (2)に関しては,最適化問題としての基本定式化を完了した.具体的には,進行方向に対して円筒対称性を仮定してパルス伝播を記述し,ハートリー近似で表わされた原子密度演算子で,(マクロな)分極を定式化した.数値積分には陰型の時間発展を用い,ある程度の長時間でも正確に時間変化を追えるように工夫した.現在,シミュレーションに向けた数値精度などの確認作業を行っている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実績報告に述べたように,本研究の初年度目標はほぼ達成されたと考えている.特に,パルス伝播にとって重要な偏光の取り扱いを解決できたことは,今後の研究を進める上で,大きくプラスになると期待できる.伝播を取り入れた最適化問題に関しても,定式化が完了しており,解法アルゴリズム開発が中心テーマである平成24年度にむけて準備が整った.
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Strategy for Future Research Activity |
伝播を取り入れた最適化問題に対し,高速・高精度の解法アルゴリズムが開発できるかが本研究にとって重要なステップになる.単調収束アルゴリズムの存在を証明できれば,新しいタイプの非線形問題に対する解法を発見したことになり,他分野に対しても大きな波及効果が期待できる.これは取りも直さず,問題の難しさを意味しており,共役勾配法など従来法の拡張などでの対応も視野に研究を進める予定である. 一方,平成23年度の成果を通して,当初計画になかった新たな研究展開あった.Zareグループ[1]が平成23年度に連続連分で発表した単一パルスによるラマン・ポンピングの困難さの問題である.実は,我々も,準備計算を通して同じ問題に直面し,パルス列を使えば問題を回避できるとの結果を得ている.この新たな課題に対してもタイムリーに成果報告したいと考えている.[1]N. Mukherjee and R. N. Zare, J. Chem. Phys. 135, 184202 (2011) and references therein.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度ではほぼ予定通り予算を施行した.10万円ほどの未使用額は,効率的に執行することができたためである.即ち,主記憶(メモリ)の価格変動のため,予定の処理能力を有する計算機を,予定より安価に購入できた.平成24は予定通り,可視化処理の端末及びソフトウェアを購入し成果発信にも力を入れる予定である.申請予算に沿って,国内だけではなく外国の学会・研究会にも参加し,グローバルな発信にも努める.
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