2012 Fiscal Year Research-status Report
パルス伝播を取り入れた時空間量子最適制御シミュレーション法の開発と応用
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23550004
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大槻 幸義 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (40203848)
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Keywords | 最適制御 / パルス伝播 / コヒーレント制御 / レーザーパルス / 同位体分離 / 分子整列 / 分子配向 |
Research Abstract |
最適制御シミュレーションは,(モデル)ハミルトニアン情報だけから,目的達成に最適なレーザーパルスを数値設計する第一原理法である.本研究の目的は,従来考慮されてこなかったパルスの伝播効果を陽に取り入れ,ターゲット分子が高濃度な場合への制御法の拡張を最終目標にしている.今年度の主な成果としては,化学反応制御に重要な分子の配向制御および複数の種類の分子が存在した場合の同時制御に関してシミュレーションを通して以下の知見を得ることができた。 分子配向制御において,800 nmと400 nmの位相ロックパルスによる超分極率との相互作用を利用する制御法を詳細に調べた。方法論的には,我々がオリジナル開発したアルゴリズムの2波長の場合への拡張と位置づけられる。十分温度が低い場合,分子整列を経由する配向制御が極めて有効であることを見出した。一方,複数の回転準位が占有されている状況では,初期状態に依存する位相が付加し,そのため分子の配向方向が逆向きになることを数値的およびモデル解析で明らかにした。この結果を踏まえると,実験で高い配向度合いを実現することの難しさが理解できる。 複数の種類の分子が存在した場合の研究では,同位体選択的な分子整列を目的にシミュレーションを行った。具体的にはCOおよびN2(核スピン異性体あり)の同位体混合ガスを取り上げ異性体ごとに直交する方向への同時制御を試みた。温度が十分低い場合は回転波束の周期的な運動に同期したパルス列により制御達成度が高められることが分かった。回転ラマン遷移を用いる場合,分極相互作用の近似が成り立つ範囲では,パルス伝搬による制御達成度の低下は非常に少ないことを解析表式から示すことができた。一方,パルス列を用いる制御の有効性は温度の上昇とともに急速に減少し,最適パルスはほぼ単一パルスへと収束していくことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実績報告に述べたように,本年度目標はほぼ達成されたと考えている.特に,パルス伝播が重要なレーザー同位体分離に対して,整形パルス列による制御および回転波束の自由時間発展を通した同位体シフトの増幅という2つの機構に対して,温度による顕在化の違いを最適制御シミュレーションにより明らかにできた。回転ラマン遷移を利用する制御はパルス伝播による達成度の低下にお影響を受けにくいことを解析的に示すことができた。また,分子配向制御では最適制御シミュレーションに基づき整列を経由する配向制御機構を提案することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は,伝播を取り入れた最適化問題の重要な応用としてレーザー同位体分離法に着目して研究を進めた。前年度に報告した偏光条件まで含む(ある偏光条件を固定した)最適化の組み込み,回転波束に影響を与える遠心力ポテンシャルの取り込みなどを通して,考察を深めるとともに有効な制御法を最適化法により見出していく予定である。パルス伝播効果の解析的な評価に加え,数値的な評価も進める。 同位体分離の実験では分離確率を高めるためにパルス列の整形が試みられている。平成24年度の成果から,最適化の観点からはパルス整形に加え,時間経過とともに変化する同位体シフトが自然に増幅することが重要であることを示唆された。詳細は検討し,回転波束の確率振幅中に効果的に同位体シフトを増幅していく方法を明らかにしていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は予定通り予算を施行した。前年度からの10万円ほどの繰り越し予算は,よりハイスペックの可視化処理端末の購入に充てることができた。平成25年度は申請予算に沿って,国内外の学会・研究会に参加・発表し成果のグローバルな発信にも努める。また,成果を論文にまとめ発表する際の英文校正や投稿料の支払いにも充てる。
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