2012 Fiscal Year Research-status Report
P型フォトクロミック反応を利用した蛍光モジュレーション分子アセンブリの理論設計
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23550006
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
天辰 禎晃 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90241653)
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Keywords | 分子設計 / 電子励起状態 / フォトクロミック反応 / 非経験的分子軌道法 / 分子アセンブリ / 蛍光モジュレーション |
Research Abstract |
反応物および生成物のいずれも熱的に安定でその両者の変換が光反応によってのみ進行する化学反応をP型フォトクロミック反応といい、その代表例がジアリールエテン類の光閉環・開環反応である。これらの分子群は、その高速光化学反応を利用した光スイッチや光記録などの光機能性材料として関心がもたれ、大いに研究がなされている。しかしながら、これらの光化学的過程には合理的な解釈ができていない点も多く、そのことが原因でさらに機能性の高いジアリールエテン類の実現が滞っている点もあると考えられる。そこで、本研究では、信頼度の高い非経験的分子軌道計算によりこれらの光化学的過程について理論的な検討を行う。そして、その知見をもとに、分子アセンブリの一つとして近年報告されている蛍光モジュレーションの発現機構をこれらの分子群のフォトクロミック反応における置換基効果という観点から理論的に解析する。平成24年度においては、以下述べる2点を検討した。 (1)ジアリールエテン類の2光子吸収による光反応 ジアリールエテン類の電子励起状態および2光子過程で到達可能なS5状態からの開環過程に関するポテンシャル面を調べたところ、S1からの場合に比べ、S5からの方がより直接的に開環過程に対する円錐交差領域に到達することが分かった。これは、実験的に知られている2光子過程において開環反応が促進されるという実験的知見に対する合理的な解釈を与えるものである。 (2)フルギド類の光開環・閉環反応 フルギド類の開環体および閉環体についてのS1状態の特徴を検討した。その結果、フルギド類はジアリールエテン類同様フォトクロミック反応が起きるが、閉環体は蛍光性を有するのに対して、開環体はほとんど蛍光を発しないという実験結果をポテンシャル面の特徴と関連付けて説明することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
以下述べる2つのテーマについて理論計算の立場から新たな知見を得たが、特にテーマ2に関しては類似の考察が外国のグループによってなされ、平成24年度において論文に公表された。したがって、申請者自身の研究計画という点ではほぼ予定通りであるが、論文発表も含めて”研究成果”と考えるならば、平成24年度の検討項目の一つは達成できなかったと解釈することもできるため、”やや遅れている”という自己評価をした。なお、各テーマに対する平成24年度の知見は次のとおりである。 (1)ジアリールエテン類の2光子吸収による光反応 ジアリールエテン類(具体的には2,2'位にメチル基で置換したもの)について、S0-S1とS1-S5のエネルギー差が類似しており、またS1-S5は遷移モーメントも大きいことが分かった。また、閉環体のS5からのC2-C2'結合の開裂に関するポテンシャル面の勾配大きく、昨年度求めたS1/S0の円錐交差領域に直接到達できることが分かった。これにより、2光子吸収による開環反応の促進という実験的事実に対する合理的解釈ができる。 (2)フルギド類の光開環・閉環反応 フルギド類の開環体および閉環体についてのS1状態の特徴を検討した。その結果、ジアリールエテン類とは異なり、S1状態において開環体領域に安定な構造が存在せず(計算上のartifactと考えられるshallow wellのみ存在)、実験事実をうまく説明できることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」の項で述べたように、フルギド類の光化学反応に関しては同様の研究内容が公表され、オリジナリティという観点では研究内容の鮮度が落ちるため、検討項目から外す。その代わりに、当初の「研究計画」において研究が予定通り進まなかった場合の項目として挙げていた分子アセンブリのもう一つの重要な分子素子である光駆動型分子回転モーターに関する理論計算による検討を行う。このテーマは、本研究課題である蛍光モジュレーション機能を有するジアリールエテン類との連結による超分子マシナリーへの展開のための検討項目の一つである。既に光駆動型分子回転モーターに関しても検討を始めており、その一部の成果はJ.Phys.Chem.誌へ論文を公表している。本研究計画の最終年度にも当たる平成25年度は平成26年度以降の研究展開も考慮して、申請者が理論計算により提案した定速性の光駆動型分子回転モーターの改良およびジアリールエテン類の蛍光モジュレーションシステムとの連結の可能性を探る。具体的な検討課題は次の2点である。 (1)申請者が提案した定速性の光駆動型分子回転モーター(M5-PCPF)に関しては、分子回転過程におけるペンタメチレン架橋部分の配座依存性を検討する必要がある。部分的には、その問題点は公表した論文において述べているが、より詳細な検討が必要である。 (2)分子回転軸に関して(C2などの)対称性を有した回転モーターは、その特性に関する詳細な理論的解析が対称性の利点を生かして可能なだけでなく、実在的な超分子マシナリーにおいてもより有効であると考えられる。そこで、対称性を有しないM5-PCPFの知見を基にして、対称性を有する分子回転モーターの考案をする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究計画期間(平成23~25年度)において、平成23年度に計算機環境の向上による研究計画の円滑な遂行のため、研究期間全体の研究費の多くを充てワークステーションを導入した。また、平成24年度には、マルチノード下での計算実行による計算処理能力の向上を図るため、平成25年度配分予定の一部を前倒しして、(計算機グレード若干劣るが)もう一台のワークステーションを導入した。したがって、平成25年度の配分額(直接経費20万円)は論文別刷り代やハードディスクなどの増設などに充てる予定である。
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