2011 Fiscal Year Research-status Report
電荷移動型自己組織化単分子膜による有機電子デバイスの界面ナノ空間の制御
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23550038
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
小川 智 岩手大学, その他部局等, その他 (70224102)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 有機電子デバイス / 電荷移動型自己組織化単分子膜 / 界面ナノ空間 |
Research Abstract |
本研究は、π電子系有機化合物あるいは有機金属化合物を用いた3種類の有機電子デバイス(三種の神器)である、有機TFT(有機薄膜トランジスタ)、有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)、有機薄膜SC(有機薄膜太陽電池)に共通するナノ界面空間の接合の問題を電荷移動型自己組織化単分子膜(SAMs: Self-assembled Monolayers)を用いての界面化学修飾により、解決しようとするものである。今年度(平成23年度)の研究では、ナノ界面空間制御をより効果的な電荷移動型SAMsを用いて行うため、研究期間内に、以下のことを明らかにした。1 電荷移動型自己組織化単分子膜(SAMs)用分子群の設計、合成、構造解析2 電荷移動型自己組織化単分子膜(SAMs)の精密構造制御電荷移動型SAMs分子群としては、電子供与(ドナー)型と電子受容(アクセプター)型の二種類のカテゴリーがある。本研究では、双方とも複数種の分子群の設計を行い、有機合成の手法を活用し、高効率で精密合成を実施した。合成を達成した分子群については、核磁気共鳴、質量分析、単結晶X線構造解析等の手法を用い、その分子構造を確定した。分子設計については、十分な電子移動能を有するかについて、非経験的分子軌道計算により、ドナー型SAMs分子については、そのHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)軌道のエネルギーレベル、アクセプター型SAMs分子については、そのLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)軌道のエネルギーレベルを算出することにより、実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
標的分子群は、申請者独自の合成経路に従い、有機合成の手法により高効率で精密合成した。例として、ドナー型SAMs分子は、チオフェノールを出発物質として、芳香環を有するチオンを合成する。また、二硫化炭素を出発物質として、シアノエチル保護基を有するケトンを合成する。得られたチオンとケトンをヘテロカップリングすることにより、テトラチアフルバレン(TTF)型化合物を合成する。さらに得られたTTF型化合物にブチルリチウム、引き続いて3-ブロモプロピルトリエトキシシランを作用させることにより、ドナー型SAMs分子の合成を達成した。また、アクセプター型SAMs分子は、2-クロロ-1,4-ナフトキノンと3-ブロモプロピルトリエトキシシランから合成した。同様な手法により、その他のSAMs分子についても、合成経路を確立した。合成したSAMs分子群については、融点、赤外吸収スペクトル、紫外可視吸収スペクトル、核磁気共鳴、質量分析、元素分析、およびX線構造解析装置により、構造を確定した。さらに、シリコン酸化膜基板に電荷移動型SAMsを溶液法により作製し、その膜構造を、接触角、斜入射X線構造解析、X線光電子分光等の手法を用い決定した。SAMsの形成段階についても同な手法により観測し、最適な膜形成条件を確立した。膜形成段階における課題として、(1)SAMsを溶解する溶媒の選定、濃度、(2)そこへ基板を浸漬する温度、時間、(3)その後の基板の処理条件等、多くの要因が存在することが明らかとなり、最適なSAMsの精密構造制御を達成した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、以下の2点を重点的に検討する。1 ナノ界面空間の接合問題の理論的考察2 有機TFT、有機EL、有機薄膜SCにおける、電荷移動型自己組織化単分子膜(SAMs)修飾の評価非経験的分子軌道計算により、合成を達成したSAMs分子の長軸方向の長さを算出し、斜入射X線構造解析結果から実験的に得られた単分子膜の厚さとの一致を確認する。また、理論的に得られる電子移動能と電気化学的手法により実験的に得られる値との相関を検証する。また、三種類の有機電子デバイスの作製を行う。一例として、有機TFTデバイスの作製方法を示す。高ドープしたシリコンをゲート電極に用い、その上にSiO2ゲート絶縁膜と金・クロムで作製されたソース、ドレイン電極を配置し、ソース、ドレイン間の電流値を、ゲート電圧によって制御できる構造を作製する。SAMsはゲート絶縁膜上に溶液法により作製し、その膜構造は、X線光電子分光(XPS)、X線反射率等により決定する。また、SAMsの形成段階についても接触角測定やXPSにより観測し、最適条件の確立に役立てる。最適条件で形成したSAMsの上に超高真空下(UHV)でペンタセンあるいはフラーレンを蒸着し、TFT特性を評価する。この際、数種のSAMsにおけるデバイス特性の比較評価のため、同時に同一条件で有機半導体の成膜を行い、SAMsが直接デバイスに与える影響のみを観測できるように注意する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
使用するSAMs分子群の高効率な大量合成を実現するため申請者らが独自開発した経路で合成する。合成上必要とされる薬品類、ガラス器具を消耗品費に計上した。また、研究を推進するうえで必要な調査研究旅費、研究成果発表のための旅費、および研究成果を報文として投稿するための、論文投稿料を計上した。その他、研究を実施するための研究環境としては、以下の装置群の使用が可能な状況にある。化合物の構造決定に必要な、融点測定装置(所属グループ現有)、赤外吸収スペクトル装置(所属学科現有)、紫外可視吸収スペクトル装置(所属学科現有)、核磁気共鳴装置(所属大学現有)、質量分析装置(所属大学現有)、元素分析装置(所属学科現有)、および単結晶X線構造解析装置(所属グループ現有)。電気化学的特性を評価するための、サイクリックボルタンメトリー(所属グループ現有)。電子状態を評価するための、電子スピン共鳴装置(所属大学現有)。膜構造を解析する接触角測定(所属学科現有)、斜入射X線構造解析装置(所属大学現有)、X線光電子分光装置(所属大学現有)。さらに、申請者がセンター長を勤める工学部附属複合デバイス技術研究センターの有機TFT、有機EL、有機薄膜SC作製および評価装置群のすべてが使用可能な状況にある。
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Research Products
(9 results)