2012 Fiscal Year Research-status Report
トリアゾリウムカチオンを架橋部にもつ水易溶性人工核酸の創製
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23550041
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
藤野 智子 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70463768)
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Keywords | オリゴヌクレオチド / トリアゾリウム / 三重鎖形成 / 水銀 |
Research Abstract |
[具体的内容] 本研究は,水易溶性人工核酸としてトリアゾリウムカチオンを連結部にもつ人工核酸TLDNA+を開発し,その機能探索を行うものである.本年度は,このTLDNA+多量体の天然核酸への錯形成能,およびTLDNA+どうしの自己二重鎖の形成能を明らかにした.さらにRNA型人工核酸の設計・開発を行った. まず,TLDNA+は負電荷を帯びた天然DNAに対し安定な三重鎖を形成することを見いだした.この検討においては,相補鎖の選択・反応条件の精査の末,錯形成の再現性を向上させることができた.三重鎖の融解温度は室温付近であり,天然核酸三重鎖の融解温度が測定可能範囲内で観測不能であることから鑑みると,極めて高い結合力であるといえる.続いて,TLDNA+のチミン塩基部と水銀イオンとの架橋構造を活用することで,TLDNA+の自己二重鎖を形成できることを見いだした.これまでに,中性のTLDNAの水銀架橋二重鎖が水晶基盤上で高い電子輸送能をもつことを報告しており,その電子輸送材料としての利用が期待される. さらにTLDNA+の合成法を踏襲しRNA型人工核酸の開発を行った.今年度は4種の核酸塩基をもつ単量体の合成法を確立し,クリック化学を活用した伸長反応により一伸長あたり90%を超える効率で多量体を合成できた.今後,連結部のメチル化により水易溶性人工RNAを開発できるものと考えている. [意義・重要性] DNAのリン酸ジエステル部を中性骨格に置き換えた人工核酸は加水分解耐性をもつことなどから注目されているが,溶解性の低さが不可避の問題であった.本研究ではTLDNAの連結部を一段階の反応でメチル化することにより,大量供給可能・水易溶性・錯形成能を併せ持つ人工核酸を実現した.さらにこれまで数例しか報告例のないRNA型人工核酸の簡便・高効率合成法を実現することができ,今後の機能展開も期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,天然核酸への高い錯形成能および,自己二重鎖能を明らかにすることができた.研究開始当初,その主鎖の正電荷ゆえに,負電荷を帯びた天然DNA存在下では非特異的な凝集が生じる可能性が懸念されていたが,今回,TLDNA+が再現性よく錯形成させることができる条件を明らかにすることができた.さらに水銀架橋を活用した自己二重鎖形成能をもつこともわかったことから,最終年度における,TLDNA+の機能探索が迅速に行えるものと考えている. さらに今年度新たに展開したオリゴリボヌクレオチドの合成法の開発においては,高効率・高選択的かつ簡便な合成法を実現することができた.既存の人工RNAは,その2'位ヒドロキシ基の存在のために高効率・高選択的な合成を実現するのは難しく,デオキシリボヌクレオチドの合成に比べて遅れているのが現状である.現在,その利用への期待はsiRNAとしての利用をはじめと高まっており,新たなリボヌクレオチドの登場が望まれている.本手法では,効率・選択性・簡便性いずれをとっても,既存の人工RNA合成法を凌駕する手法であり,その核酸医薬としての展開を期待することができる.これらの検討においては,長鎖になるにつれ,溶解度の問題に直面することが想定されるが,今年度に確立したメチル化法により,解決可能と考えている.今後,水易溶性オリゴリボヌクレオチド(TLRNA+)の機能展開を期待できる.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は,アルキル置換基の多様化,および核酸塩基の多様化を行い,機能性人工核酸に最適な分子構造を探索する.この検討では,Tm測定を指標とした天然核酸に対する結合能力の評価に加えて,ミスマッチ塩基を含む天然DNA/RNAに対する塩基配列の認識能力の評価を行う.TLDNA+は主鎖に正電荷をもつため,負電荷を帯びた天然核酸との強い静電引力により,塩基配列の認識能力が低下する可能性があるが,TLDNA+の分子構造と天然核酸への錯形成能の相関について明らかにすることで,TLDNA+の機能発現に最適な分子構造を明らかにする. 後半ではTLDNA+の構造的特徴を活かした機能展開を行う.TLDNA+はその連結部以外は天然DNAと全く同じ構造をしていることから,既存の人工核酸では実現され得なかった酵素基質としての利用を行いたいと考えている.予備的検討として,中性のTLDNAはこれまでに逆転写酵素の基質として働き,mRNAの逆転写反応が良好に進行することを明らかにしている.これらの機能展開のなかで,克服すべき課題であった溶解性の問題の打開策として,今年度に確立したメチル化法を利用することで,多様な酵素を標的とした新機能探索が可能となると考えている. さらにTLDNA+の主鎖の正電荷を活用することでTLDNA+の遺伝子発現制御法への展開を行う.とくに主鎖のカチオン性を利用した細胞内以降機能の発現を目指す.人工核酸の機能発現においては細胞内への運搬手段が問題となるが,その解決法として,カチオン性TLDNA+を用いることで,運搬分子を用いずに,細胞内への以降が実現できると期待される.さらにRNA型TLRNA+の合成法の開発・機能展開も行う予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は,今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり,平成25年度請求額とあわせ,平成25年度の研究遂行に使用する予定である. 物品費に関しては本研究課題の遂行に必要な有機反応試薬類,不活性ガス類の購入のための支出,および消耗品であるガラス器具の補充のための支出を予定している.本研究において,化合物の分離精製・構造解析の装置は揃っており,新たに備品を購入する予定はない 旅費に関しては,国際学会での発表を行う予定であり,成果発表旅費としての支出を予定している.また人件費・謝金は,外国論文の校閲への支出を予定しており,その他として,印刷費を使用する予定である.
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Research Products
(12 results)