2011 Fiscal Year Research-status Report
ホウ素錯体による有機π電子系の機能化とn型半導体の開発
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23550050
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
小野 克彦 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20335079)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 有機導体 / ホウ素 / π電子系 / 半導体物性 / 先端機能デバイス |
Research Abstract |
高度情報化社会の新たなテクノロジーとして有機電界効果トランジスタ(OFET)が注目されている。この鍵となる技術は有機半導体であり、新たなn型半導体の研究開発が必要になっている。我々はホウ素原子の電子受容性に注目し、ホウ素錯体の合成研究を行ってきた。ビチオフェンの両末端にホウ素キレートを導入した化合物では、ボトムコンタクト型OFETで良好な電子移動度が観測された。また、ゲート電圧が10-40 Vの範囲に限られるが、大気中でもトランジスタ応答が観測された。これは、ホウ素原子の電子求引効果で分子のLUMO準位が低下し、伝導電子が酸素によって捕捉され難くなった為である。 そこで、本研究では有機n型半導体の高性能化を検討した。ビチオフェンの代わりにチエノチオフェンを骨格にもつホウ素錯体を開発した。分子軌道計算によると、チエノ[3,2-b]チオフェン体のLUMO準位は-4.22 eVであり、ビチオフェン体(-4.05 eV)と比較して大幅に低下していた。このため素子の大気安定性が向上すると期待された。一方、チエノ[2,3-b]チオフェン体のLUMO準位は-3.84 eVであった。OFETを作製したところトランジスタ応答が観測されたが、その特性はどちらも低かった。この理由として、チエノチオフェン骨格が小さいため、分子配列が乱れて伝導電子がスムーズに輸送されなかったと考察した。 上記の結果を受けて1,2-ジチエニルエチレンのホウ素錯体を開発した。この化合物のLUMO準位は-3.97 eV(計算値)であり、ビチオフェン体とほぼ同じであった。UV-Visスペクトルの極大値はλ= 525, 493 nmに観測された。これらの値はビチオフェン体(λ= 489 sh, 464 nm)と比べて長波長シフトしており、π電子系の拡張を確認した。現在、OFETによるn型半導体特性を調査中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は「縮合チオフェン系の開発」を行った。具体的には、チエノ[3,2-b]チオフェンとチエノ[2,3-b]チオフェンの両末端にホウ素キレートを導入した化合物を合成した。これらの化合物では、ビチオフェン体と比べてホウ素キレート間の距離が近いため、熱安定性が低下した。そこで、低温での昇華精製を繰り返し行い元素分析一致サンプルを得た。分子軌道計算の結果、チエノ[3,2-b]チオフェン体のLUMO準位は大幅に低下しており、n型半導体特性でビチオフェン体を超える大気安定性が期待された。しかし、実際にOFETを作製して半導体特性を調べたところ、どちらも電子移動度は低かった。この結果から、電子輸送を担うπ電子系のLUMO準位とともに、その拡張性が重要であることが分かった。 そこで、平成25年度に計画していた「π電子拡張系の開発」を優先して実施し、1,2-ジチエニルエチレンと1,4-ジチエニル-1,3-ブタジエンのホウ素錯体を開発した。どちらも合成に成功し、ビニレン拡張系では昇華精製により元素分析一致サンプルを得た。ブタジエニレン拡張系では、昇華性が低下しており昇華条件を調査中である。UV-Visスペクトルを測定した結果、ビニレン鎖の導入による長波長シフトが観測され、実際にπ電子系が拡張していることが分かった。現在、OFETによるn型半導体特性を調べている。 以上の調査では、n型半導体特性の向上に至らなかったが、実施項目を着実に進めるとともに計画を前倒しで行うことができた。これらの結果は、ホウ素キレートを導入したπ電子系の物性調査に加え、OFET発現メカニズムの解明に役立つ。このため、当初年度の目標を十分に達成できたと自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在行っている「π電子拡張系の開発」をさらに推進する。これまでの結果では、ホウ素キレートを導入したπ電子系が小さい場合、分子のパッキングが悪くn型半導体特性が低下した。一方、ビチオフェン体からターチオフェン体へ拡張した場合、チオフェン環を一つ導入しただけで昇華性が大幅に低下した。この結果、蒸着法ではOFETを作製できなかった。 平成24年度は、このジレンマを解決するブレークスルーをつかみたい。その方策としてビニレン鎖の導入が考えられ、平成23年度から実施している。これにエチニレン鎖の拡張を追加してバリエーションを増やしたい。また、π電子系の拡張で昇華性が大幅に低下する一因として、固体状態の分子パッキングが挙げられる。BF2キレートはπ電子系とF…π接触を形成するため、π電子系が拡張すると相互作用が強力になる。そこで、BF2キレートに代わるホウ素ユニットを開発し、このユニットで生じる分子間相互作用の低減を図る。これにより、これまで評価できなかったπ電子系についてn型半導体特性を調査する。 上記のビニレンとエチニレンによる拡張系の研究は、平成24年度内にOFETを含めた調査を完了する。また、新たなホウ素ユニットの創出については次年度内で候補を絞り込み、平成25年度から発展研究を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度申請額(120万円)は、有機合成用試薬(90万円)ならびに合成用・測定用器具(40万円)の購入費に充てる。この不足分および学会・測定旅費、講演会謝金、また学会誌投稿料は、平成23年度繰越金(約37万円)から充当する。本研究は物質開発が中心であるため、成果を挙げる目的でホウ素化合物やπ電子系の原料購入に研究費を投入する。一方、当研究室では8~9月にドラフトチャンバーの更新が予定されている。本体購入費は概算要求で予算が確保されているものの、合成実験を立ち上げる費用が必要となる。このため、合成用・測定用器具費からこの費用を捻出する。ドラフトチャンバーが整備されれば、当研究室における合成実験の効率が格段に上がるため、設置後できるだけ速やかに合成設備を立ち上げたい。
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Research Products
(8 results)