2012 Fiscal Year Research-status Report
ホウ素錯体による有機π電子系の機能化とn型半導体の開発
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23550050
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
小野 克彦 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20335079)
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Keywords | 有機導体 / ホウ素 / π電子系 / 半導体物性 / 先端機能デバイス |
Research Abstract |
高度情報化社会の新たなテクノロジーとして有機電界効果トランジスタ(OFET)が注目されている。この鍵となる技術は有機半導体であり、新たなn型半導体の研究開発が必要となっている。本研究ではホウ素原子の電子求引性に注目し、ホウ素錯体の合成研究を行ってきた。ビチオフェンの両末端にホウ素キレートを導入した化合物(1)では、良好なn型半導体特性が観測された。これはホウ素キレートの分極効果にもとづいている。しかし、ビチオフェン骨格に生じる正電荷間の静電反発のため、錯体の安定性が課題となっている。そこで、ビチオフェン骨格にπスペーサを導入した新規物質を開発した。 上記のビチオフェン誘導体(1)へ-CH=CH-(2)、-CH=CH-CH=CH-(3)、-C≡C-(4)のπスペーサを導入した3種の誘導体を合成した。UV-Visスペクトルの吸収極大は、それぞれ490, 464 nm(1)、525, 493 nm(2)、555, 522 nm(3)、490, 461 nm(4)に観測された。これより、二重結合ユニットは長波長シフトを与えるが、三重結合ユニットは吸収波長に影響を及ぼさないことが分かった。一方、ホウ素錯体の加水分解反応を解析したところ、一次速度定数(k / s-1)として7.2 x 10-3(1)、1.1 x 10-3(2)、1.0 x 10-3(3)、8.0 x 10-4(4)が得られた。これは、静電反発の影響が1>2, 3>4の順で減少していることを示している。以上の結果から、誘導体2と3ではπ共役系の拡張による安定化効果が、誘導体4では空間的な安定化効果が働いていると考察した。現在、これらの分極効果がOFET特性に及ぼす影響を調査している。それにより、有機n型半導体の新たな設計指針が得られると期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、ホウ素キレートを用いて高性能な有機n型半導体を開発することである。ホウ素原子は電子求引性が強いため、π共役系に分極構造を導入することができる。しかし、π共役系に生じる正電荷どうしの静電反発のため、錯体の安定性が課題である。この解決の方法として、π共役系にπスペーサを導入することを考案し、新規物質を開発してきた。この結果、ホウ素キレートの分極効果がπスペーサの種類で異なることを発見した。現在、これが電子伝達に及ぼす影響について調査中である。仮に電子移動度などのOFET特性に相違が観測されれば、分子設計において興味深い知見となる。次年度はこの点について明らかにし、有機n型半導体の設計指針としてまとめたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の特徴は、ホウ素キレートによりπ共役系(ビチオフェン等)を正電荷に帯電させ、これを電子輸送部位として使用する点にある。しかし、正電荷間の静電反発がホウ素キレートの不安定化をもたらすというジレンマを抱えている。H24年度は、ビチオフェン骨格をπスペーサで拡張して、ホウ素キレートの不安定化を低減させることに成功した。一方、ホウ素キレート自体をより強固なものに替える手段も考えられる。この場合、安定化に加えて、さらに高い電子受容性をもつ物質が得られると期待される。近年、中條善樹教授(京大)らは、1,3-ケトイミンをキレート形成部位とする新規ホウ素錯体を報告した(Chem. Eur. J. 2013, 19, 4506)。この合成法を利用すれば、本研究でも1,3-ケトイミンホウ素錯体へ研究を展開できる。この化合物では、B-N結合のパイ結合性のため、強固なホウ素キレートが形成すると期待される。そこで、H25年度は(i)πスペーサによるπ共役系の拡張、(ii) 1,3-ケトイミンを用いたホウ素錯体の合成について調査を行なう。次年度は研究期間の最終年に当たるため、有機n型半導体に対して本研究の有効性を実証したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H25年度申請額(120万円)は、有機合成用試薬(70万円)と合成用・測定用器具(40万円)の購入に使用する。また、学会・測定旅費、講演会謝金、学会誌投稿料へ充てる。不足分はH24年度繰越金(約19万円)で賄うとともに、必要に応じて校費も使用する。本研究では、合成試薬に研究費を投入するが、H25年度は最終年に当たるため成果発表も積極的に行いたい。
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Research Products
(19 results)