2012 Fiscal Year Research-status Report
クラウンエーテル型バナデート配位子を有するランタニド錯体の化学
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23550069
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
林 宜仁 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (10231531)
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Keywords | ポリ酸 / 合成化学 / 分子性固体 / 分子認識 / 触媒 化学プロセス |
Research Abstract |
ポリリン酸のようにバナジウムの{VO4}四面体が頂点共有で環状構造を形成しクラウンエーテル型環状バナジウムポリオキソアニオンが存在する。このクラウンエーテル型バナジウム環状アニオンを配位子として用いたランタニド錯体の化学を創成し、錯体構造および性質を明らかにした。バナジウム環状配位子はオキソ基を介して金属イオンに配位する。比較的大きなイオン半径を持つLn(III)イオン(Ln = Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy)では、{VO4}が9個つながったバナジウムの9員環を配位子とする8配位のランタニド錯体が形成された。9個の{VO4}のうち1個はLnイオンに直接配位していなかった。一方、Er, Tm, Ybでは10個の{VO4}が環状構造を取り、そのうち4個のユニットが直接配位せず、ランタニドの配位環境は6配位であった。イオン半径の減少によりランタニドイオン周辺の{VO4}四面体ユニット間の立体障害が大きくなり、これを解消するために配位数が減少したと考えられる。8配位から6配位構造への変化の中間に位置するHoでは7配位構造となり、配位水を伴う構造をとる。また、イオン半径の一番小さなLuでは、さらに小さなイオン半径に適応する9員環構造も観察された。これらの新錯体の構造は単結晶構造解析により決定した。ランタニドイオンのイオン半径の変化に対して、クラウンエーテル型環状バナデート配位子は、環状無機配位子のねじれ角の調整によって、異なるサイズのイオンに対して配位子として働くことができた。また、ナノ酸化物の応用に際して、反応後や溶液内での構造変化をEXAFSで同定するための基礎データとなるEXAFSデータを収集した。単結晶構造解析を行った粉末サンプルに対し、ランタニドを吸収原子とするEXAFS構造解析を、一連のランタニド錯体全てについて行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
単結晶構造解析の構造データを利用しFEFFを用いてLn-O-V-Ln経路の多重散乱を考慮した。得られたk3重み付きEXAFS関数と動径構造関数をカーブフィットしEXAFSによるLn-OおよびLn-V距離を見積もり、その結果は単結晶X線データをよく再現できた。特にLn-O距離はLnイオンの種類による半径の変化の傾向を良く反映し、単結晶構造による結果ときわめて良く一致した。さらに、Ln元素の種類による酸化物環状構造の変化とHo前後で距離の傾向の差が明瞭に観察されることは、本研究例のような明確な参照化合物がある場合のEXAFSデータの信頼性を示せたことで注目される。また、6配位構造ではLnに配位していない回転可能な{VO4}四面体ユニットの数が多くLn-V距離の揺らぎが増大するので、その距離の誤差も大きくなる傾向が見られた。また、良質な単結晶が得られないためX線回折から構造が明らかにできないEu, Gd錯体についてもEXAFSから距離を精密に見積もることができLn-O結合距離は241.8 pm, 240.1 pm, Ln-V結合距離がそれぞれ376.4 pm, 372.0 pmであることがわかった。単結晶の格子定数からの予想構造と一致する結果が得られた。このようにナノ酸化物分子のEXAFS解析は単結晶X線構造の結果を良く再現した。特に第一配位圏のイオン半径を精度良く評価できることから環員数の違いによるディスク構造の差による傾向を見ることができ、構造変化に関する有力な情報を得るための基礎が確立された。主要結果はACSのInorg. Chem.に掲載され、8th International Vanadium Symposium (Washington DC, USA)の招待講演にて発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
クラウンエーテル型環状バナデート配位子を有するランタニド錯体の無機錯体化学を創成することができ。前例のない完全無機錯体であり、溶液中での構造や基礎的な反応性などが未知である。そこで、立命館大学SRセンターにてEXAFS測定結果を、単結晶、粉末サンプル、および溶液サンプルの比較により、その解析を進め結合距離を詳細に評価する。前回、溶液測定においては、濃度に問題があったが、本年度は対イオンの検討および添加物の検討で溶解度の向上を実現し、合成法の確立による十分な量の無機錯体合成も達成できた。その結果、立命館大学のシンクロトロンで十分な強度のスペクトルを得ることができた。また、La, Ce, Prにおいては、出発物質の溶解度の関係で同じ合成法では合成できなかったので、出発物質の検討を行う。また、基本的には全遷移元素に対して、この環状無機配位子が配位した化学を展開できると考えている。そこで、第一系列の遷移金属元素に対してもすでに合成が完了している化合物を含めて、EXAFSスペクトルによる固体状態、および溶液状態でのスペクトルの比較検討を行い、溶液内での化学を研究する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
環状バナデート配位子を有するランタニド錯体に関するXAFS解析は完了した。ランタニド錯体においては、溶液中の構造と固体状態のX線構造解析で確定した構造が一致していたためXAFSの解釈は順調であった。一方、第一周期の遷移金属イオンに関しても合成とXAFS測定までは完了したが、さらなる解析が必要となった。その理由は、環状バナデート配位子の環の一部が中心金属から解離して水が配位するためである。水の濃度による配位水の増加によるアクア錯体の形成により、測定の際水分量によって構造が変化する可能性が新たな知見として得られた。今回、さらにコバルト錯体では、加水分解が進行し水の光分解に関連するコバルト多核水酸化物クラスターを形成する可能性をも見いだしたので、さらなる検討が必要と判断した。水の脱着による可逆なクロミズムを示す。そこで、合成条件と加水分解条件の検討を行うために研究費を次年度に使用することとした。具体的には、コバルトおよびニッケル錯体の加水分解条件の検討のための試薬の購入と重水素溶媒の購入を予定している。その結果、さらに環員数の増大した環状バナデートクラスター配位子内にコバルト水酸化物の多量体が包接されたコバルト水酸化物錯体を同定予定であり、構造解析を検討中である。
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Research Products
(11 results)