2012 Fiscal Year Research-status Report
固定表面および自由表面を持つ回転流れ場における流動形態の解明と制御
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23560193
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
渡邉 崇 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (40182927)
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Keywords | 旋回流 / 分岐 / 遷移ダイナミクス / 回転円板 / 回転円柱 / 自由表面 / 計算流体力学 / 実験流体力学 |
Research Abstract |
本研究は,有限長さの円柱容器内に設置され,軸方向,半径方向に有意な隙間を持つ回転円板まわりの流れと,自由表面を持つ鉛直回転二重円柱間の流れの解明を行う.研究推進にあたり,多くの数値結果や画像を快適なアクセス環境で調べる必要性があった.このため,これらのデータを一括してして管理する,冗長性を持ったデータサーバの構築を行い,順調に運用している. 円柱容器内の回転円板まわりの流れにおいては,より実験条件に合わせた条件を設定することにより,数値計算結果の精度向上を目指した.また,軸方向隙間間隔に対する流動状態の変化に注目して解析を進めた.準定常的な流れには,円板まわりに数十の渦を持つものと数個の渦を持つもが存在する.数十個の渦を持つ流れは,軸方向隙間変化の影響を受けにくいことが分かった.数個の渦を持つ流れは,軸方向隙間変化の影響を大きく受け,隙間間隔によっては,流れの存在が認められない場合が見出された.これらの流動形態を含めて,複数の軸方向隙間に対して,流れの分岐線図を定めた.また,円板静止状態から準定常的な流れが確立するまでの時間や,円板,外側円柱容器に働くトルクなどの物理量を見積もった. 自由表面を持つ鉛直回転二重円柱間の流れでは,幾何学的パラメータを範囲を拡大して,流れのモード状態を調べた.同時に,より高速な計算の実行を見据えて,並列化をはじめとするソフトウェアの改良を進めた.数値結果を実験結果と比較することにより,数値結果が妥当となる幾何学的パラメータの範囲を特定することができた.また,数値計算により,詳細なモード分岐線図を定めた. 以上のようにして得られた成果は,実機の性能を推定するために有用となるとともに,本研究が目的とする,好ましい流動形態を得るための流れの制御に関して,重要な情報となる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
円柱容器内で回転し,軸方向のみならす半径方向にも有意な隙間を持つ回転円板まわりの流れについては,これまで系統的な研究がなされていない.本研究は,この流れの解明と制御を一つの目的としている.回転円板まわりの流れを解析するソフトウェアは,チューニングを進めてきたことにより,安定的な実行をこなすようになった.そして,当初想定していた複数の幾何学的形状に対する比較が行えるようになっている.これにより,どのようなパラメータのもとで円板を運転すると,いかなる流れが出現するかという,流動条件と流動形態の関係が明らかになりつつある.また,流れが準定常になるまでの過程を調べることが可能であることより,発達途中の流れの形態が,いかなる変化をするのかが明らかにできるとともに,外部的操作により,好ましい形態変化を実現するための情報も集まりつつある.一方で,当初の計画にあった,実験による測定結果を計算の実行条件に反映させるフィードバックは実現できていない.この原因には,数値計算の不安定性や,実験結果の精度,サンプリング周期などが考えられる. 上面に自由表面を持つ回転二重円柱間の流れでは,まず,計算における界面の更新方法を再調整し,各種の流体にも適用できるようにソフトウェアの安定化をはかった.そして,幅広い液面高さの場合をシミュレーションするとともに,実験との比較を行った.この結果,ソフトウェアが適用可能な物理パラメータの範囲を特定することができた.特定した範囲内で解析を進め,流れのモードの分岐点を定めた.この結果は,特定のモードに流れを落ち着かせることで適切な流動状態を得るための円柱運転条件を決定するという,当初の研究目的の達成のために利用できる.さらに,この結果は,流れを支配する力学的構造の解明においても興味あるものといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
円柱容器内で回転し,軸方向に加えて半径方向にも有意な隙間を持つ流れでは,実験との比較を通しての数値計算法の更なる改良と,データ整理を進める.円板まわりに数十の渦が現れる流動形態は,広い範囲で実験的に見出されており,また,数値的な予測もよい傾向を与えている.この流れにおいては,渦の数が,半径方向に隙間のない流れにおけるスパイラルの数に近いため,渦の生成要因が,スパイラルの生成要因と関連するものであるかを調べる予定である.これは,円板まわりの渦の力学的構造を明らかにする一つのアプローチである.数個の渦が現れる流れは,それが出現する物理的パラメータの範囲が比較的狭い.これは数個の渦の流れが不安定な流れである可能性を示す一方で,数値的な予測に問題があることも考えられる.このため,より精度を上げた一連の数値シミュレーションを実行し,現象を確かめる.また,渦構造を明確にするために,汎用の可視化ソフトウェアに加えて,自作のツールを,グラフィックライブラリを用いて開発する方針である.さらに,流動状態を整理するために,これまでの慣性力と粘性力に注目して行ってきた評価法に加えて,回転の効果を主体とした評価法を導入し,分岐図などで表される結果からの情報を,より見通しの良い形で得ることを目指す. 自由表面を持つ流れにおいて,自由表面の形状を見積もることは重要である.このため,上面に自由表面を持つ回転二重円柱の流れでは,表面追跡を再検討し,その形状を,より明確にとらえる方法を導入することが一つの方針である.この方法としては,結晶材料の分野で開発された方法や,界面ポテンシャルを見積もる方法が発達しており,これらの方法の導入により,計算の高精度化,安定化を進める.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
円柱容器内で回転する円板まわりの研究においては,これまでにも多くの数値データ,画像データを蓄積してきた.これらのデータを解析することにより,現段階において,特色ある流動形態が現れるパラメータ領域が絞られてきている.次年度は,この特色ある現象が現れる領域に焦点をあて,さらに詳しく解析を行う.この時の結果を管理するためのデータ処理装置の構築,増強のために,研究費を利用する.この流れにおいて興味ある点が,円板回りの大規模な渦構造である.渦構造を特定するためには,数々の特徴量が提案されている.これらの特徴量に従い,対象とする流れにおいて,流れ構造を抽出するための自作ツールの開発を計画している.申請者は,別研究として,これまでに流れの画像処理関連の研究にも注力してきた.この画像処理を担当するスタッフを中心としたソフトウェア開発に経費を充てる予定である. 自由表面を持つ回転二重円柱間の流れにおいては,自由表面の鮮明化のために経費を用いる.実験においては,表面張力や密度などの物性値の異なる作動流体,表面を判別しやすくするための染料,粒子が求められる.また,今年度に引き続き,広領域にわたって流れを鮮明に観測するための,適切な照明装置の構築,拡張を進める.映像,動画データからの表面形状の特定のために,大容量なデータを扱うことができる画像処理ソフトウェア,ハードウェア等を導入する.また,汎用の流体解析ソフトウェアによる計算を進めていくために,ネットワークを介した計算環境の整備に経費を用いる. 研究を通しての成果の発表に伴う,論文掲載料,学会講演会参加費,シンポジウム参加費,連携研究者等との打ち合わせのための旅費にも,研究費を使用する.
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