2011 Fiscal Year Research-status Report
砂州掘削による樹木生育基盤撹乱の誘発と低水路管理に向けての基礎研究
Project/Area Number |
23560604
|
Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
清水 義彦 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70178995)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 水工水理学 / 礫床河川 / 河道内樹林化 / 砂州 / 砂州掘削 / 低水路管理 |
Research Abstract |
本研究では,中小洪水を比高の高い砂州の内部に導く砂州掘削路を設けることにより,洪水撹乱を誘発して,(1)砂州上の樹木生育基盤の消失(樹林化の抑制),(2)砂州・低水路河床の大きな高低差(横断比高)の解消,(3)低水路線形の変更(屈曲した低水路流れによる水衝部形成の是正)をねらうことで低水路管理につなげようとしている。本年度は,まず洪水履歴を受けた砂州掘削路と周辺基盤の現地調査を実施した。得られた知見は以下となる。1)いずれの掘削路においても(1)の効果が認められた。砂州上では低水路に比べ河床材料が細粒であるため,掘削路に導かれた洪水流によって河床材料の移動が容易に生じる。とくに植物生育基盤を構成する細粒分(砂・シルト)が流出することで植物の侵入・定着を遅らせている。樹林地の伐採・伐根では河床内に破断した根茎群が残存し,これからの萌芽による再樹林化(栄養繁殖)が生じるが,河床材料のフラッシュに伴って残存根茎も流出するため樹林化を抑制している。2)一部の掘削路では上流端付近から下流にかけて河床低下傾向にあり,これは低水路からの土砂供給が少なく,一方掘削路河床からの細粒分輸送が活発に起こるため流砂の非平衡性から河床低下が生じたものと推測された。砂州の河床低下は残存根茎の流失を伴う有意な地形撹乱であり,また(2)の効果である横断比高の解消につながる。ただし,低水路粗粒化が顕著な河道での中小洪水時での土砂輸送を捉える必要がある。3)細粒分の流出に伴って掘削路の粗粒化が進むため,河床低下が鈍化してくる(縦侵食の抑制)。一方,掘削路内にも砂州が形成される地点もあり,そこでは掘削路の側岸侵食が認められ,横侵食により砂州地形の撹乱誘発が確認できた。4)平面2次元河床変動計算による砂州掘削路周辺の基盤変化予測を行うための数値モデルを検討し,現地に適用して砂州掘削路による洪水かく乱の誘発の有効性を示すことができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,国土交通省渡良瀬川河川事務所の協力を得て, 平成18年度以降に複数箇所の砂州掘削及び掘削路の5か所の設置を進めてきた.すなわち,(a)赤岩地先狭窄部下流の中州の掘削路(幅40m,縦断延長600m,深さ1m-1.5m),(b)桐生大橋地先左岸砂州の掘削路(幅5m,縦断延長675m,深さ2.5m-3.0m),(c)昭和橋地先右岸砂州の掘削路(幅20m,縦断延長400m,深さ1.5m-2.5m),(d)松原橋地先右岸砂州の掘削路(幅20m,縦断延長400m,深さ1.5m-2.5m),(e)緑橋地先砂州の掘削路砂州の掘削路(幅26m,縦断延長800m,深さ1.7m)である.また,利根川水系神流川においても平成23年度より掘削路を設置して現地調査を実施している.とくに,平成23年には2回の中規模出水が生じ,この洪水インパクトに対する砂州掘削路およびその周辺基盤の応答(かく乱)を捉えることができた。これによって,本年度研究の目的である,(1)砂州上の樹木生育基盤の消失(樹林化の抑制)が確認され,(2)砂州・低水路河床の大きな高低差(横断比高)の解消についてもその傾向を捉えることができた。また,平面2次元河床変動計算による砂州掘削路周辺の基盤変化予測を行うための数値モデルにおいては,砂州と植生の侵入・破壊に特徴づけられた低水路形成に焦点を絞って検討し,現況の河道特性を定性的に説明することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
検討対象地点での砂州掘削路・周辺の物理基盤と植生の侵入状況の現地調査及び樹林化抑制の効果評価を継続してモニタリングするとともに,陸域化した比高のある砂州に洪水撹乱をより有効に誘発する手立てを検討する。そして,砂州のフラッシュにより低水路への流砂供給を行い,その動態と基盤変化を求める。すなわち,(1)掘削路の河岸浸食の促進による基盤撹乱の誘発に関する検討,(2)砂州の基盤撹乱による低水路への土砂供給,低水路線形への影響に関する検討, (3)樹林化河川における新たな河道管理手法の確立へと研究を展開して行く。(2)では,砂州上の基盤撹乱により掘削路を通じて縦断方向に生じる河床変動特性を調べ,砂礫の低水路への掃き出しを行うための砂州掘削路のあり方を現地調査,水理実験,数値モデルから考察する。さらに,低水路に砂礫供給が生じた場合の河床変動特性,とくに砂州の形成や水衝部の埋め戻し,屈曲した低水路流れによる水衝部形成を回避するための低水路線形の是正についても検討する。(3)では,得られた研究成果を総括して,掘削路による洪水のダイナミズムを利用した砂州基盤の撹乱手法は砂州の樹林化抑制として,また,低水路における流砂の健全性を回復する手立てとして有効であることを示し,河道特性が変質した現況河道における新たな河道管理手法として提案する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の着目点である「中小洪水を比高の高い砂州の内部に導く砂州掘削路を設けることにより,有意な洪水撹乱を誘発させる」ために,次年度は砂州掘削路での流砂現象に焦点をあてる。平成23年度に実施した現地観測より,細粒分の流出に伴って掘削路の粗粒化が進むために河床低下が鈍化してくること,また移動限界を越えない巨石の露出が確認されている。また,掘削路内砂州の形成と掘削路の側岸侵食も認められた。これらの素過程を数値実験,水理実験から検討する。とくに,掘削路を通じて砂州内の新たな基盤撹乱を生むためには,掘削路へ導かれた洪水流を蛇行させ,積極的に河岸浸食を生じさせることは有効と考えられる。そのためには,掘削路内に巨石,水制的な障害物等を設置して流入してきた流れを蛇行させ,単列砂州の発生を生む工夫が検討する。このような考えのもとに,現地調査および現地実験,移動床水理実験(電磁流速計や実験・計測のための備品,消耗品購入の経費がかかるため,当該年度未使用経費を物品費に加える),前年度作成した平面2次元の河床変動解析モデルを用いて,河岸浸食による砂州の基盤撹乱を誘発するためのトリガー(水制や植生,巨石の置き石など)の設置と,河床材料,掘削幅,掘削路内縦断勾配をパラメタとして数値実験を行う。また,砂州の基盤撹乱による比高解消と低水路への土砂供給,低水路線形への影響に関する検討を平成25年度に予定している。
|
Research Products
(2 results)