2011 Fiscal Year Research-status Report
意思決定の進化生態学的基盤:負け記憶の生態遺伝メカニズム
Project/Area Number |
23570027
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
宮竹 貴久 岡山大学, 環境学研究科, 教授 (80332790)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡田 賢祐 岡山大学, 環境学研究科, 助教 (40550299)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | decision making |
Research Abstract |
昆虫の行動に関する意志決定の生態学的意義を明らかにすることを目的とした。モデルとし経験によって生物は振舞いを変える。意思決定は生態学の重要な研究テーマだが、その遺伝基盤の研究は乏しい。本研究は縄張りをめぐる競争をモデルにその基盤を探る。競争に負け、自分より強い相手がいると分かれば生物はその場から逃げ新しい縄張りを作る。何日逃げ続けるかは競争の敗北記憶に依存する。敗北の記憶だけが4日間持続する甲虫を用い意思決定の遺伝基盤を明かにする。記憶メカニズムの研究は多いが、ある経験を記憶した個体の利得を考慮した生態学の視点による研究はない。人為選択で確立した敗北記憶時間の大きく異なる系統間の遺伝子比較とRNA干渉により闘争と繁殖様式の意思決定における適応度関数の生態遺伝メカニズムを解明する。これまでの研究は、キイロショウジョウバエ等で進められてきたが、いずれも生態学的な研究の視点が欠落している。つまり、生物がどのように記憶するかメカニズムに関係する研究は非常に多いが、ある経験を記憶するとその個体にどのような得や利益があるかという生態学の視点に基づいた研究はない。そこでナチュラルな生態形質の遺伝変異からスタートする至近要因の分子解析に取り組む必然性がある。本研究は、すでに闘争と繁殖の様式、その背後にある縄張りシステムという生態的な略歴のはっきりしたモデル系を用い、さらにそのモデルのナテュラルな変異から派生した選抜個体を用いることで、機能遺伝子の変異と進化行動生態学の接点にフォーカスする。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
負け個体は逃走中にメスに出会うと、勝ち個体よりも多くの射精を行う。小麦粉などに生息域を拡大した貯穀害虫であり人工的な生息環境下ではあるが、負け個体と勝ち個体の適応度の違いをメスとの遭遇頻度を考慮して推定し、本種がなぜ4日間で消える負け記憶を有しているのかについて究極要因と至近要因を調べる。敗北の記憶(学習)持続日数に対して、人為選抜実験をさらに続け負け記憶そして、戦うべきか、逃げるべきかの意思決定を行うことのコストベネフィットについて繁殖形質なども記録して調べる。またその際に、闘争から逃走へ、そして射精量の変化というスイッチにどのような生態遺伝基盤が重要なのかについて調べる。また闘争に用いる武器形質に影響する生理的基盤として成長ホルモンであるJHがどのような効果を持つのか調べるとともに広く昆虫類の武器形質と記憶、他形質との相関についても調べる。敗北の記憶(学習)持続日数に対して、人為選抜実験をさらに続け負け記憶そして、戦うべきか、逃げるべきかの意思決定を行うことのコストベネフィットについて繁殖形質なども記録して調べる。またその際に、闘争から逃走へ、そして射精量の変化というスイッチにどのような生態遺伝基盤が重要なのかについて調べる。また闘争に用いる武器形質に影響する生理的基盤として成長ホルモンであるJHがどのような効果を持つのか調べるとともに広く昆虫類の武器形質と記憶、他形質との相関についても調べた。とくに武器形質が発達する際にその形質の近隣の形質との形態的統合が生じていることを甲虫類とカメムシ類で明らかにした。さらにカメムシ類において、交尾器の挿入回数の意志決定に関わる要因を調べて、交尾抑止得なとの結果を導くための意志決定機構であることを明らかにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
敗北の記憶(学習)持続日数に対して、人為選抜実験をさらに続け負け記憶そして、戦うべきか、逃げるべきかの意思決定を行うことのコストベネフィットについて繁殖形質なども記録して調べる。選抜した個体を用いて、ゲノム解析知識を駆使し負け記憶時間の異なるオオツノコクヌストモドキ系統間で学習・記憶、そして時間を操るタイマー遺伝子に関してマウスとハエにおいてすでに作用がわかりつつある遺伝子(学習系:cAMP, CREB,IGF, 各種アミンレセプター、時計遺伝子系:per, cry, tim, clk, cyc など)の機能比較とRNA干渉実験を行い、闘争すべきか?繁殖すべきか?を決める昆虫の機能遺伝子の集中的な探索を行い、闘争の意思決定と繁殖様式といった生態システムの適応度関数に関わる分子生態基盤について精査する。さらにJHなどとのリンクについても調べる。RNA干渉個体とコントロール個体の組み合わせで、オス間闘争を行わせ、敗北の記憶時間の短縮・延長、勝利の記憶時間への修飾を調べる。オス間闘争で敗北した敗者は、数日間、逃走を続けるが逃走中でもメスに遭遇すると、交尾行動を試みる。その際には、射精量を増加させ、自身の適応度を増加させるスニーカー戦略にスイッチが切り替わる。本研究では、上記で摘出された遺伝子のオスの射精戦略のスイッチへの関与についても生態遺伝メカニズムを調査する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
生理活性物質の作用を調べるために、各種アミン類を購入する。記憶を司る遺伝子の解析を行うために、PCRプライマー、シークエンスなどの遺伝子解析キットの購入を行う。飼育系統の維持管理のために、昆虫の飼料代金、昆虫飼育容器を購入する。以上を主な物品費として執行する。また研究成果を報告するために、8月にスウェーデン(ルンド大学)で開催される国際行動生態学会(ISBE)での研究成果発表、日本動物行動学会、日本生態学会、日本動物学会、日本応用動物昆虫学会での研究成果旅費、および研究に使用する材料を採集するための調査研究旅費を筆よとする。
|
Research Products
(6 results)