2012 Fiscal Year Research-status Report
双翅類における捕食寄生性の進化とヤドリバエの繁殖戦略の解明
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23570119
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
舘 卓司 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 講師 (20420599)
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Keywords | 捕食寄生 / 双翅目 / 系統進化 / 分類学 |
Research Abstract |
ヤドリバエ科の繁殖戦略を明らかにするために,間接産卵タイプの微小卵型と待機型の飼育実験を,寄主昆虫アワヨトウを用いておこなった.これは一齢幼虫の適応能力を調べ,今後の実験計画を速やかにおこなうためにも重要である.微小卵型カイコノクロウジバエの累代飼育は支障なかったが,待機型セスジハリバエはすべて寄主内部で死亡した.中村氏(国際農林水産業研究センター)から寄主昆虫の終齢幼虫を用いるようにアドバイスを受けた. ブランコヤドリバエ属の寄主利用の変遷に関する研究では,新たに遺伝子データを加え,8遺伝子座による分子系統解析をすすめた.その結果,形態による系統樹と同様に,本属の単系統性は示されなかった.しかし,Spixomyia亜属の系統的位置は明らかとなり,ブランコヤドリバエ属内の多様な寄主利用の進化史を議論することができた.これはMolecular Phylogenetics and Evolutionに掲載されており,寄主―捕食寄生者との関係を信頼性の高い系統仮説のもとで議論した意義のあることといえる. 双翅類における高次系統解析に関する研究では,1)比較形態による関節構造の論文の草稿がほぼ完成しており,近々投稿する予定である.2)分子データによる解析のために,日本,台湾およびタイなどに調査に行ってサンプル収集もおこなった.一方データ解析では,グループごとに進化速度が異なっており,さらに核遺伝子の探索が必要である. 種レベルでの分類学的研究(微小卵型のPhryno属とBotria属)もおこない,Zootaxaに掲載された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヤドリバエ科の間接産卵型の微小卵型と待機型の一齢幼虫の寄主適応能力を調査のために,累代飼育をおこなった.前者に関して寄主アワヨトウともに順調に飼育がおこなわれた.一方,後者の場合にはほとんどうまくいかなかった.中村氏からアワヨトウの齢期などに注意することを指摘された.これは予想の範囲内であり,今年の様々な寄主に対する実験の際にも留意しながら,おこなう予定である. ブランコヤドリバエ属の分子系統解析では,8遺伝子座(18S, 28S, 16S, 12S, wingless, white, ND5, CO1)を用いて精度の高い系統仮説を提示した.これに基づき,これまでに記録されている寄主昆虫情報を用いて祖先復元をおこない,どのような変遷があったかを雌の産卵行動などから議論した.また,微小卵型のPhrynoとBotriaの両属に関する系統分類学的論文も併せて出版されている.一方,比較形態による関節構造に関する論文がやや遅れている感はあるが,原稿はほとんど完成しており,来年度には出版する予定である. 分子データによる双翅類の高次系統解析も継続している.いくつか分類群間での遺伝子置換率の違いやプライマーの設計などの問題点もあるけれども,予定通り進んでいるといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
ヤドリバエの一齢幼虫のパフォーマンスに関する実験を継続する.微小卵型のカイコノクロウジバエでは累代飼育がうまくいっているので,様々な寄主における幼虫の適応能力(ハエ幼虫の寄生状態,生育期間やハエ成虫の体長など)を調査する.待機型のセスジハリバエでは,寄主のアワヨトウでの再飼育を試みながら,他の寄主も利用して実験をおこなう. 双翅類の高次系統解析を様々な遺伝子を用いて精力的にすすめる.イエバエ科の系統的位置は,この研究の“腰”に関する形態学的検討とこれまでの分子系統とは異なる結果が得られており,多くの核遺伝子座による解析が必要であると考えられる.また,ヤドリバエ科内の系統関係の解明も,産卵戦略の進化の議論のために併せておこなう.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の研究費の多くはDNA実験の消耗品に使い,一部研究成果の発表(日本昆虫学会)やサンプリングのための国内旅費として使う予定である.飼育実験および形態観察には,すでにこの科研費を使って購入済みであるので(顕微鏡やインキュベータ),継続には何も問題はない.
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Research Products
(6 results)