2011 Fiscal Year Research-status Report
学際的研究で明らかにする関東地方縄文時代人の人類学的・考古学的実像
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23570280
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
安達 登 山梨大学, 医学工学総合研究部, 教授 (60282125)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂上 和弘 独立行政法人国立科学博物館, 人類研究部, 研究員 (70333789)
澤田 純明 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 助教 (10374943)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | Jomon / ancient DNA / mitochondrial DNA |
Research Abstract |
北海道縄文・続縄文時代人骨54個体についてのミトコンドリアDNA解析の結果を、American Journal of Physical Anthropologyに投稿し、掲載された。また、従来より高感度のプライマーを用いた追加解析により、新たに18個体のデータを追加することができた(DNA多型vol.20に投稿、受理済)。追加解析の結果、ハプログループN9bの頻度が60 %を越えるという従来の傾向に大きな変化はなかった。しかし、従来観察されていたN9b、D4h2、G1b、M7aに加え、新たにZ1aが稚内市オンコロマナイ遺跡から1個体であるが検出された。これらの解析の結果、北海道先史集団にみられたハプログループの時代別出現状況には興味深い傾向がみられた。従来の54個体に追加の18個体を加えた72個体について、観察されたハプログループの種類を時代別に調べたところ、ハプログループN9b, D4h2, M7aについては、個体数の多少に関わらず、縄文前期~続縄文の全ての時代にみられた。しかし、G1bおよびZ1aは、続縄文時代の試料にしか観察されなかった。考古学的に、北海道においては縄文時代終末期~続縄文時代になると、若いイヌを解体したことを示す証拠が急に出現し出す。類似の事例は続縄文時代並行期のサハリンにおいてもみられ、イヌを食用にしたことを示す証拠と考えられている。一般に、狩猟のために重要な役割を果たすイヌは狩猟民の間では大切に扱われるが、それを食用に供するという大きな変化は、単に文化や習慣の移入だけでは説明が難しい。ハプログループの変遷と考古学的知見を併せ考えると、縄文時代終末期~続縄文時代に、北海道在来集団とは遺伝的背景が異なる人類集団が、ユーラシア大陸北東部から北海道に渡来してきた可能性があるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
北海道縄文・続縄文時代人の解析により、先史時代に北方から日本列島にもたらされたミトコンドリアDNAの遺伝子型およびその頻度がほぼ明らかとなった。また、遺伝的解析の結果と考古学的知見を併せて考察することで、先史時代の北方から日本列島への移住の波が複数回あったこと、また、その画期の1つが縄文時代終末期~続縄文時代である可能性を指摘できた。先史時代人骨の遺伝的解析手法、およびその結果を考古学的知見と併せて考察する手法については、ほぼ完成の域に達したものと考えられる。反省点として、関東縄文人骨の解析が進んでいないことが挙げられる。本邦最古級の人骨の1つである、長野県高山村湯倉洞窟遺跡出土の縄文時代早期人骨についてはDNA解析が既に終了しているが、23年度中の論文投稿にまでは至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
DNA解析が終了している長野県高山村湯倉洞窟遺跡出土縄文早期人骨については、可及的速やかに論文を投稿する。現在DNA解析中の聖マリアンナ医科大学所蔵の関東縄文人骨については、まず解析の終了を目指す。また、本年度に入り、東京都西ヶ原貝塚および千葉県宮本台遺跡出土の縄文人骨について分析の許可を得たため、これらの人骨についても解析を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度に必要な備品の購入を終えているため、備品の購入は予定していない。現代DNAによる汚染を可能な限り低減して実験をおこなうため、DNase・RNase free gradeのプラスチック器具類と生化学一般試薬、DNA抽出試薬類、DNA精製用カラム、Taqポリメラーゼ、DNAシークエンス用試薬を購入する。 また、本研究のように専門が異なる複数の研究者が連携して学際的研究に当たる場合、研究者が各自の成果をただ持ち寄るというだけでなく、例えば考古学試料あるいは人骨を共に観察し、その知見をリアルタイムで共有するなど、お互いの専門知識を少しずつでも共有しあうことが、組織としての一体感やモチベーションを維持する上で極めて重要である。そこで、研究内容を緊密に討議しあうための旅費を計上した。その他、成果発表のための旅費、論文の校閲料を計上した。
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Research Products
(14 results)