2011 Fiscal Year Research-status Report
アブラナ属作物における逸出・雑草化メカニズムの解明
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23580024
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
中山 祐一郎 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (50322368)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
保田 謙太郎 秋田県立大学, 生物資源科学部, 准教授 (00549032)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 作物雑草化 / アブラナ属 / DNAマーカー / 分布 / 植生動態 / 侵略性 |
Research Abstract |
1.アブラナ属作物の逸出・雑草化の実態(1)品種を識別するDNAマーカーの開発:アブラナ属の4種43品種を収集した。葉緑体ゲノムの4領域について塩基配列変異を調べ, PCR-RFLP法によって種を識別するプライマーセットを作成した。また,核ゲノムの1遺伝子の塩基配列変異をもとにゲノム構成を推定できることを明らかにした。(2)アブラナ属作物品種の逸出地点の特定:大阪市立自然史博物館と兵庫県立人と自然の博物館に所蔵されているアブラナ属作物のさく葉標本を閲覧し,自生地の情報を得た。これらと文献やWebサイトの情報を元に,近畿地方と東北地方,九州地方における調査地域を選定した。(3)雑草化による生態系や人間活動への影響(侵略性)の評価:大和川下流域右岸の3地点において,外来植物を含む植生を2011年3月から2012年3月にかけてラインポイント法で調査し,種の優占度を算出した。外来植物の割合(帰化率)は45.7%と高く,優占度の上位を外来種が占めていた。外来植物が優占する一方で,時期によって優占度を変化させる様々な在来種もみられた。 4~6月には,地点によってアブラナ属であるカラシナの優占度が堤防または低水敷で高かった。冬生一年草の在来種でカラシナのように草高の高くなる種はないため,カラシナはその空いたニッチで繁茂していると考えられた。また,堤防法面の個体は低水敷よりも小さく開花時期が早かった。これは,堤防法面では晩秋と春の草刈りの間に生活環を完結させる必要があるのに対し,低水敷では秋雨による増水後から梅雨の増水までのより長い生育期間をもてることによると考えられた。カラシナの他にも,マメ科の緑肥作物であるナヨクサフジ(ヘアリーベッチ)が逸出・雑草化していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自生しているアブラナ属作物の品種を同定するツールとしてのDNAマーカーの開発(1-1)について,種間識別用DNAマーカーは完成した。品種を含む種内の識別用DNAマーカーについては,アブラナ属の進化は非常に複雑であり雑種を容易に作ること,購入した品種に加えて河川逸出個体を活用しつつ開発を進めた方が良いと判断したことにより,開発を保留している。24年度春期に河川逸出個体を収集したうえで,開発を再開する予定である。 アブラナ属作物品種の逸出地点を特定するための調査地の選定(1-2)については,予定していた6標本館のうち,2標本館について標本を閲覧し,自生地の情報を得た。これに収集した文献やWebサイトから得た情報を加えることにより,24年度での調査地は選定できている。なお,残りの4標本館については24年度に訪問予定である。 雑草化による生態系や人間活動への影響(侵略性)の評価のための調査方法の検討(1-3)については,大和川水系において1年間,ラインポイント法を試験的に採用し植生の動態を調査することによって,本方法が客観的な経時変化のモニタリングに有効であることが明らかにできた。また,直接の研究対象であるアブラナ属の他に,マメ科のヘアリーベッチ等の逸出・雑草化した緑肥作物に関する知見も得られた。 以上のように,当初計画において次年度以降の本調査・実験のための準備期間と位置づけた23年度の計画には,一部に未着手の項目があるものの,24年度計画の推進に支障のないことから,おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.アブラナ属作物の逸出・雑草化の実態(2)アブラナ属作物品種の逸出地点の特定:23年度の標本調査で選定した地域のうち九州地方,近畿地方,東北地方を対象に,アブラナ属植物の開花・結実期にあたる4月~6月に走破し,生育地点を携帯型GPS端末に記録し,各地点20個体程度の植物体を採集する。採集した植物体からDNAを抽出し,開発したDNAマーカーを用いて種を同定する。また,採集した河川逸出個体を,品種を識別するマーカーの開発(1-1)に用いる。得られた位置情報と遺伝情報をGIS解析することによって,日本におけるアブラナ属作物品種の逸出地点をマッピングする。(3)雑草化による生態系や人間活動への影響(侵略性)の評価:23年度に選定した地点である大和川において,植生や撹乱等の生態的特徴を調査し,またアブラナ属作物の自生個体を除去した実験区と無処理区を設置して植生の動態を3年間モニタリングすることによって,在来植物を中心とした生物多様性への影響を評価する。また,人間活動への影響について,場所の管理者や地域住民を対象に聞き取り調査する。2.アブラナ属作物の逸出・雑草化に関わる形質:24年度後半から,栽培されている個体(栽培)系統と雑草化した個体(雑草系統)を同一条件下で栽培し,とくに生活史やシードバンク形成にかかわる諸形質を系統間で比較することによって,逸出・雑草化に関わる形質の特定を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
DNAマーカーの開発に用いる研究材料である植物体(葉)や抽出したDNAを保存している超低温フリーザー(代表者の研究機関における既設備品)が年度途中に故障した。当該研究に置いて不可欠な機器であるため,本研究費から支出し新規に購入した(約50万円)。そのために購入を予定していたDNA解析用機器(約83万円)が購入できなかったことから,その差額である約30万円を繰り越すこととなった。 次年度に当該研究費で83万円を支出すると調査旅費や実験用消耗品等の購入予算に不足を生じるおそれがあるため,当初計画では代表者と共同研究者が行う予定であったDNA解析を共同研究者のみの実施とし,それに係る人件費や解析委託費に繰り越し額を充てる。
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Research Products
(1 results)