2011 Fiscal Year Research-status Report
ゲリラ豪雨による極短時間の冠水が水稲の中長期の成育に及ぼす影響
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23580025
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
大江 真道 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 講師 (60244662)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 水稲 / 洪水 / 豪雨 / 冠水 / 収量 / ゲリラ豪雨 |
Research Abstract |
生育段階別の短期間の冠水が水稲の収量に及ぼす影響を明らかにしようとした。収量形成において最も重要な時期にあたる幼穂分化期以降における短期間の水稲の冠水が,水稲の生育および収量構成要素に及ぼす影響を明らかにするために、頴花分化期(出穂前16日),花粉内容充実期(出穂前6日),登熟期前期(出穂後5日),登熟期後期(出穂後18日)の冠水処理(水深100cm),冠水処理を行わない対照区を設け、それぞれの冠水区には異なる冠水時間,つまり頴花分化期および花粉内容充実期で24時間(24h),72時間(72h)の2処理区を設け,登熟期前期区および登熟期後期区は48時間(48h)の1処理区を設けて影響をみた. 頴花分化期24h区と登熟期後期48h区では,対照区と差はなかった.一方で,頴花分化期72h区,花粉内容充実期24h,72h区,登熟期前期48h区の1穂重には差がみられ,生育段階により,冠水による被害程度は異なることが明らかとなった. 冠水処理による穂重減少の要因を明らかにするために,穂重減少区の穂上の1次,2次枝梗について,枝梗別に枝梗数,着生全粒重,全粒数,1枝梗あたりの着粒数,1粒重の各要素を調べたところ,1次枝梗の全要素および2次枝梗に着生する1粒重,1枝梗あたりの着粒数に有意な差はみられなかったが、2次枝梗の枝梗数は減少し、穂重の減少は2次枝梗数の減少のために2次枝梗着粒数、2次枝梗着粒重は対照区に比べて減少したことによった. 冠水被害の程度が水稲の生育段階とその時間により異なることが明らかとなったことから、冠水による影響が大きい時期は素早い排水を必要として,影響が小さい時期は水田の貯水機能を「遊水池」として活かし下流地域の2次災害を防ぐこが可能であろう.また,生産管理の側面では,冠水被害を受けた時期や期間をもとに,被害程度の早期把握や収量予測を行うことが可能になった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、1.「冠水発生様相の違いによる生育変動の把握、2.「冠水害発生被害状況の実地調査」、3.「生産性を加味した都市近郊水田の調整池としての寄与」の解明を目標とした。 1.については、冠水時間(生育時期、処理時間別)、水没割合(水深/草丈率)を変えた処理で、日本の主要品種コシヒカリを供試して、処理による生育反応性を生育量(CGR、RGR、NAR、葉数・茎数、T/R比(地上部/根比))の推移で検討し、冠水時期や様相による「ゲリラ豪雨」影響を収量形成過程、品質、品種差で特徴付けることができた。とくに収量性への影響を、単なる減少だけにとどめず、収量構成要素別に明らかにするとともに、穂上における着粒への影響についても詳細に明らかにできた。2.については、7月の新潟県、福島県を中心とした豪雨災害、9月の奈良県、和歌山県を中心とした洪水害があり、水稲生育への影響の詳細を調査するべき機会であったが、現地での被害状況の詳細が明らかでないことや、長期の交通遮断などの影響もあって、本調査を24年度に持ち越すこととした。3.については、1.と関連した水稲栽培生育期間別の冠水障害の影響を明らかにする実験から、生育時期別の障害の大小を明らかにでき、影響が小さい時期の水田の活用方法への知見が得られた。なお、取りまとめの途上ではあるが、平成24年度予定の冠水における水質とイネ生育との関係について予備的に冠水時の深さと光量減少との関係を調べることができた。 以上から、おおむね計画は順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
冠水した水稲の生育には冠水そのものの影響に加えて水質、気象などの二次的要素も影響すると考え、集中豪雨のような水害の被害の予測や対策にあたっては、冠水に伴う複合的な要素の生育への影響を評価することが重要となる。 本年度は冠水時の水の性質の違いに着目して、その生育へ及ぼす影響を明らかにし、冠水の様相の差異による生育障害の程度予想指針を策定することを目的とする。特に濁水程度と水中における光波長の変化、水面下での光強度の垂直分布、それに伴う光合成速度の変化を調査する。関連して冠水水温と水稲の生育、乾物分配へ及ぼす影響、水の流速と葉身上のガス交換、光合成との関係を明らかにしたい。 なお、昨年度豪雨被害が顕著であった、新潟県、福島県また、奈良県、和歌山県を中心に現地におもむき、洪水と障害との関係を体系的に整理したい。特に、冠水時期の生育ステージ、冠水時間、冠水程度、水の清濁、流れの有無、水温の高低と、被害の特徴の関連について着目し、冠水害の様相と被害程度の一般則を把握する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
冠水時の水の性質の違いに着目して、その生育へ及ぼす影響を明らかにし、冠水の様相の差異による生育障害の程度予想指針を策定することを目的とするが、具体的な方法として異なる濁度処理区(水へのシルト混合による)を設け濁度と光特定波長、特に光合成有効波長域の減衰傾向と強度の垂直分布を測定する。 また、水温(現有設備:クールユニット)生育温度を変化させた条件(購入備品:LED照明型人工気象器日本医科器LH-80LED-DT 680千円)での生育変動、水流の変化による葉身上のガス交換の変動(現有設備:O2アップテスターによる葉身切片による測定)、水温、流速と水中溶存酸素の関係を明らかにする。水の様相と水稲の生育反応性を明らかにし、冠水の様相別に生育障害程度の予想指針を策定する予定である。 また、昨年度豪雨被害が顕著であった、新潟県、福島県また、奈良県、和歌山県を中心に現地におもむき、実際の冠水害の実地調査から、被害の特徴、栽培体系、品種による被害程度の変動傾向について調査を行い被害の検証を行う予定である(調査・研究旅費による)。 なお、次年度使用額(13234円)については、当該年度において、実験研究を中心に計画を進めたこと、現地被害調査や近郊水田の貯水機能評価が十分に行えなかったことから生じている。そのため次年度の現地調査のための調査・研究旅費に合わせたい。
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Research Products
(1 results)