2012 Fiscal Year Research-status Report
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23580051
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
大澤 啓志 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (20369135)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
嶺田 拓也 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, その他部局等, 研究員 (70360386)
大久保 悟 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (30334329)
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Keywords | 半自然草地 / 生物多様性 / 植生復元 |
Research Abstract |
圃場整備水田の畦畔における植生復元を目的に栃木県市貝町で表土移植実験を行っており、その効果検証のためのモニタリングを継続している。同時に、適した表土移植手法を見出すための表土厚及び表土撹拌の有無による、復元植生の差異についての実験も実施した。また、圃場整備年代後の年数経過に伴う畦畔植生の変化について詳細な現地調査を栃木県市貝町で実施した。現在データを取りまとめている最中であるが、整備後3~4年目から畦畔植生が安定してくる傾向が見られている。 次に農的管理による在来野草類の反応を見るため、カンゾウ類を対象に表土攪乱および草刈り管理に相当するストレス耐性を見る生育試験を行った。その結果、本種は畦切り・クロ塗等の表土攪乱には非常に弱い反面、地上部の草刈りに対しては強い耐性を有していることが明らかにされた。このように、種ごとで有する農的管理への耐性を明らかにすることで、半自然草地の種組成成立要因を知り得ることを事例的に示した。 さらに、住民に認知され易く、かつ管理目標植生を指標・誘導する種群として「ガイド種」を想定し、その選出を試みた。これは、①在来種、②多年草、③中畦の管理・環境条件下で生育が可能として、約100種を得て、加えて④花等が目立つ、⑤誤判別の恐れが少ない、⑥良質な中畦植生で生育が期待される種、の絞り込みでワレモコウ、ツリガネニンジン等約10種がガイド種に適していることを示した。 最後に、半自然草地の賦存量の多い棚田域として岐阜県恵那市の坂折棚田を事例に、水田と関わりの深い生物群である両生爬虫類の空間利用実態を明らかにした。その結果、棚田法面のみならず水路や棚田石積等の緑地要素も、特に爬虫類の生息に関与していることを示し得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
耕作者および土地改良組合長の協力を得て、表土移植による畦畔植生復元試験を実際に作付されている水田で実施しており、そのモニタリングを継続している。また、表土移植手法の検討や圃場整備後の植生変化についても調査は終了しており、今後、結果をまとめる段階に来ている。農的管理による在来野草類の反応については、水田周囲の土手等に普通なカンゾウ類を例に、表土攪乱・草刈管理に対し、その耐性が大きく異なることを明らかにした。ガイド種の選定においては、畦畔植生の調査経験の豊富な研究者の知見を統合する形で得点化し、住民が認識しやすい種で適正な管理作業指針を導きだすのに効果的な植物種の抽出を試行している。半自然草地を利用する小動物として、両生爬虫類の石積棚田における空間利用も明らかにしつつある。このように、半自然草地の生態的修復に向けた実証的な成果が順調に得られつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、継続している表土移植による畦畔植生復元試験のモニタリングにより、移植表土から種の拡散がどの程度生じるのかを明らかにする。これは大学内の圃場にある棚田状の水田の法面で、草刈り頻度を変えての反応も見ており、そのモニタリングも継続する。これらを踏まえて、表土移植による畦畔植生修復の効果検証を行う。 第二に、畦畔のみならず、農村地域に広く分布する多様な半自然草地の状態と立地・管理利用圧との関係から、植生の種構成を検討する。これは半自然草地がススキクラスのみならず、隣接してヨシクラス(湿生草地)、オオバコクラス(路傍雑草)等の種も交えて構成されるためで、事例調査地(栃木県市貝町を予定)におけるその種構成の特性を明らかにするものである。 第三に、半自然草地の管理継続のインセンティブを得る事例として、経済性を有する木本類の土手等の水田周囲の余白地あるいは休耕地での育成の実態を調査・考察する。すなわち、粗放的な管理による栽培~半栽培の経済作物樹木として、オオシマザクラ(葉)、ウルシ(樹液)に着目し、それぞれ静岡の伊豆西部、栃木・茨城の八溝山地での育成管理と半自然草地維持の関係について事例研究を行う。 第四に、小動物生息における半自然草地の意義として、都市近郊域でまとまった個体群サイズを維持しているトウキョウダルマガエルを例に、畦畔等の緑地要素の量・状態との対応を検討する。 そして助成最終年度であるため、得られた成果を体系的に取りまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現地調査を中心とする研究のため、備品の購入はなく、その分で調査旅費等を十分に確保する。また、これまでの調査データ蓄積に対する入力・解析のための調査補助の謝金も比較的多く確保する。最終年度なので、学会等への論文投稿・成果発表の費用等である。
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