2011 Fiscal Year Research-status Report
植物の分泌物質がヒメハナカメムシ類の繁殖や生存に及ぼす効果
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23580078
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
大野 和朗 宮崎大学, 農学部, 准教授 (10203879)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 保全的生物的防除 |
Research Abstract |
室内実験:オクラほ場を設置し、オクラの芽から分泌される真珠体を採集し、タイリクヒメハナカメムシ幼虫および成虫に供試し、発育や生存率を実験室内で調査し、スジコナ卵やアザミウマ幼虫供試区と比較した。その結果、これらの真珠体のみでの幼虫発育は不可能であり、成虫では生存が可能であるが、産卵数の上昇には直結しなかった。しかし、タイリクヒメハナカメムシは極めて餌密度(アザミウマ幼虫補食数)が低く、生存がほとんど不可能な場合に、真珠体を摂取することで寿命が大きく述べること、またオクラの芽と真珠体の組合せで、生存や繁殖が大きく改善されることを明らかにした。これらの結果から、オクラおよびその分泌物である真珠体の存在はタイリクヒメハナカメムシにとり安定した繁殖場所として有効であること、つまり天敵温存植物として有用と考えられた。成虫の繁殖能力向上には不適であることから、野外ではオクラから他の作物への成虫の分散が促進されている可能性が示唆された。 野外実験:ナスを5月に定植し、実験ほ場を設けた。ほ場でのマーキング試験に先立ち、実験室内で大豆蛋白または卵白を希釈した水溶液を用いて散布濃度やマーク率に関する基礎データを得た。このあと、3時期に3回タイリクヒメハナカメムシを放飼した後、100倍に希釈した卵白水溶液を散布し、タイリクヒメハナカメムシに対する蛋白によるマーキング効果を検討した。マーキング率は約50~70%とふれが大きく、野外でのタイリクヒメハナカメムシの推定を行うためには、散布濃度や散布方法の検討がさらに必要と考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オクラから分泌される真珠体の効果は、単純な実験では一見ネガティブな結果であった。しかし、各種植物質餌や動物質餌との組合せという新たなアイデアに基づく実験を展開させることで、真珠体のタイリクヒメハナカメムシの生存や繁殖、生活史を考える上で重要な役割を解明することができた。 野外での天敵のマーキングによる移動の解明という、これまでほんとど手をつけられていないブラックボックスのような生態的側面について、1年目の室内実験および野外実験からおおよその方法(プロトコール)を確立するに至った。2年目にさらに、これらの結果を踏まえ、天敵の移動解明による有効利用技術確立への方向性が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究開始時に想定した「オクラがタイリクヒメハナカメムシの安定した餌資源として有効」という仮説はほぼ証明できた。今後二つの方向で検討を進める。第1は植物餌資源を利用することでタイリク個体群がどれくらいの安定性を得ているのかを、野外および室内実験から証明する。第2は農家ほ場レベルでの保全的生物的防除技術を展開させる上で重要と考えられる、天敵温存植物と対象作物間での天敵の移動分散パターンの解明を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画どおり、1)露地ナスほ場に隣接して植えたオクラ(申請書では作物Cと表現)土着のヒメハナカメムシ類の定着および繁殖の経過を成幼虫密度から追跡する。2)周辺の雑草や天敵温存植物と対象作物ナスへの移動をタンパク質マーキングで解明する。但し、室内実験および網室実験などで、最終的なマーキングの影響やマーキングの持続性を確認する。3)土着ヒメハナカメムシ(タイリクヒメハナカメムシが優占)が発生しやすいほ場を作り、野外で採集した個体を室内に持ち帰り、その後の繁殖や生存率をみることで、本研究の申請時に提案した、植物質餌の意義解明のための実験を進める。
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Research Products
(3 results)