2012 Fiscal Year Research-status Report
酢酸菌が行う酢酸発酵における残された課題:アセトアルデヒド酸化に関する研究
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23580115
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
藥師 寿治 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30324388)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松下 一信 山口大学, 農学部, 教授 (50107736)
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Keywords | 酢酸発酵 / アセトアルデヒド / アルデヒド脱水素酵素 / パラログ / ユビキノン / 遺伝子破壊 / 酵素精製 / 膜タンパク質 |
Research Abstract |
酢酸発酵は,酢酸菌の細胞質膜の外側に存在するアルコール脱水素酵素(ADH)とアルデヒド脱水素酵素(ALDH)が,エタノールからアセトアルデヒドへの酸化とアセトアルデヒドから酢酸への酸化をそれぞれ担うにことよって進行する。両酵素は基質の酸化反応に共役して膜中に存在するユビキノンを還元し,その還元型ユビキノンは末端酸化酵素によって再酸化される。酢酸発酵の分子機構は以上のように記述されるが,アセトアルデヒド酸化を担う酵素,ALDHは十分に解析されていない。 平成24年度は,遺伝学的な解析と生化学的な解析をすすめた。酢酸菌Acetobacter pasteurianusには,カノニカルALDH遺伝子とパラログALDH遺伝子が認められる。パラログALDHをコードするaldSLC遺伝子をプラスミドによって過剰発現させたところ,親株と比較して約4倍のALDH活性の上昇が確認できた。同時に,カノニカルALDHとパラログALDH遺伝子の両方で大腸菌での発現を試みたところ,機能的な発現には成功しなかった。 生化学的解析としてALDHの精製を試みた。ALDHの人工電子受容体として,より生理学的であると考えられるUbiquinone-1(Q1)を使用した。また、ADHは主要な膜タンパク質であることから、ADH活性のないdelta-adhS::KmR株を用いた。界面活性剤ドデシルマルトシド(DM)で膜から可溶化し,イオン交換樹脂SP-Sepharose,Q-Sepharose,ヒドロキシルアパタイトを組み合わせたカラムクロマトグラフィーで精製を試みた。 純度の上昇が認められたものの,収率と比活性に問題があり,十分な精製が達成できたとは言い難い。また,delta-adhS::KmR株では,2種のALDHが混在している可能性があるため,それぞれのALDHだけを持つような変異株の作製に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,従来ALDHとされていた酵素が,酢酸発酵にどれだけ貢献しているのかを問いただすものであった。すでに報告のあったALDH遺伝子産物に相同性の高いALDHに着目して逆遺伝学的解析を行ったところ,酢酸発酵に必須の酵素,つまりカノニカルALDHであることがわかった。ここで,最も大きな疑問は解消されたことになる。また,当初研究代表者が想定していた,複数のALDHの存在を実験的に証明することができた。つまり,酢酸発酵できないカノニカルALDHの破壊株であっても,ALDH活性をもっていた。このことは,本菌のゲノムにあるパラログALDH遺伝子産物に由来するものと考えられるが,何らかの方法で証明する必要があった。 平成24年度の成果として,パラログ遺伝子の過剰発現によって確かにALDH活性が上昇した。これまでに報告のない遺伝子産物が活性を持つことを初めて示すことができた。ここで,本菌のゲノムに存在する2つのALDH遺伝子がいずれも機能的であることがわかったので,これから生化学的な解析へと進むことができる。また,平成24年度には酵素の精製を試みた。まだ不十分ではあるものの,実現可能性は高いと感じている。しかし,潜在的に2つのALDHが混在する可能性が高いので,ALDH変異株の作製を優先すべきであると判断した。 今後,2つのALDHの生化学的解析を進めるにあたって,それぞれのALDH遺伝子だけを持つような変異株を用いることができれば,相互の混入を排除することができるため有利である。この変異株の作製を行っているため,生化学的解析への着手が若干遅れている。このような状況であるので,当初計画に対する達成度としては慎重な判断をしている。
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Strategy for Future Research Activity |
遺伝学的解析として,カノニカルALDHの役割は明確にできたと考えているので,今後は,パラログALDHの機能を逆遺伝学的に明らかにしようと考えている。パラログALDH遺伝子(aldSLC)の破壊を野生株とdelta-aldH株に施し,delta-aldSLC株ならびにdelta-aldH delta-aldSLC二重破壊株を作製し,酢酸発酵能と酵素活性の有無を明らかにする。また,野生株と変異株におけるそれぞれの遺伝子発現解析も開始したいと考えており,「なぜ2つのALDH遺伝子を持つのか?」という疑問にアプローチしたい。 生化学的解析としては,カノニカルALDHとパラログALDHの精製を行う。可能な限り早急にそれぞれ一方だけをつくる変異株を作製し,ALDHを精製し,酵素化学的解析,タンパク質化学的解析を進める。これまでのALDH研究には,生理学的な電子受容体であるユビキノンの還元活性に関する報告がないので,特にユビキノン還元活性に注目して解析を進める。ALDHが精製できれば,末端酸化酵素を組み合わせて,アセトアルデヒドと酸素から酢酸を生成する生体内アセトアルデヒド酸化反応を再現するような,試験管内人工膜再構成実験を行いたい。 さらに,ALDHの反応機構,あるいは酵素化学的な理解を深めるために,EPRを用いた分子内電子伝達反応の解析(山口大学,右田たい子先生との共同研究)や,X線結晶構造解析(東邦大学,後藤勝先生との共同研究)へと展開したい。この酵素の特徴として,モリブデン補因子,ヘム,ならびに[Fe-S]クラスターを補欠分子族に持つことが推測されている。反応機構におけるこれら補因子の役割や必要性などを明らかにしたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度には備品として,日常的に使用するサーマルサイクラー(PCR装置)を計上していたが,本研究の進捗状況や研究代表者の研究室事情から,購入の必要がなかった。平成25年度は,本研究が生化学的解析にシフトすることなどから,計上を見合わせた。 平成25年度には,国内の学会・研究集会への旅費,国内での研究打ち合わせのための旅費を計上した。 恒常的に使用するガラス消耗品,プラスチック消耗品,試薬や遺伝子工学系の酵素・試薬,合成DNAの購入費,塩基配列決定業務委託経費などを計上した。研究成果を発表するための論文掲載料,英文校閲料を計上した。 以上のような研究費の使用計画に沿って,上述した研究計画を実施する予定である。
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