2011 Fiscal Year Research-status Report
年輪解析によるウダイカンバ衰退パターンの抽出と衰退の発生に及ぼす食葉性昆虫の影響
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23580214
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Research Institution | Hokkaido Research Organization |
Principal Investigator |
大野 泰之 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 森林研究本部林業試験場森林資源部, 主査 (30414246)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邊 陽子 北海道大学, 学内共同利用施設等, その他 (30532452)
松木 佐和子 岩手大学, 農学部, 講師 (40443981)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ウダイカンバ / 衰退 / 食葉性昆虫 / 二次展葉 / 光合成能力 |
Research Abstract |
ウダイカンバが衰退に至るパターンとプロセスを理解するため、樹齢約100年のウダイカンバ46個体(胸高直径(DBH):20~46cm)を対象に、食葉性昆虫(大型の蛾であるクスサンの幼虫)による食害状況と枯死状況を2006~2011年にかけて観察した。クスサンの大発生と激しい食害は2006~2008年、2011年のそれぞれ7月中~下旬に認められた。各個体の失葉率とDBHとの間には有意な相関は認められなかった。失葉率が70%以上の個体の多くは、食害から約1月後に二次展葉しており、食害の程度によってその後の枝葉の応答が異なっていた。 観察木の死亡は2009年から確認され, 2011年6月までの累積枯死率は23.9%に達した。死亡率はDBHによって大きく異なり、2011年までに死亡した個体はすべてDBHが36cm未満のものであった。DBHが28cm未満の階級,およびDBHが28-36cmの階級では,2009~2011年にかけて累積枯死率がそれぞれ7.1%から42.9%,8.7%から21.7%に増加した。2011年における個体の死亡率(確率)に及ぼす二次展葉の有無(食害程度の指標)と個体のDBHを解析した結果、観察期間に二次展葉した回数が多い個体ほど、また、DBHが小さい個体ほど死亡率が高くなることが明らかとなった。 二次展葉により形成された葉(二次葉、展葉後約3週目の葉を測定)と食べ残された葉(一次葉)との間で個葉の光合成能力を比較した結果、二次葉のVcmax(最大カルボキシル化速度)、Jmax(光飽和時の最大電子伝達速度)は一次葉に比べて小さく、二次葉の光合成能力は一次葉に比べて低いことが示された。このように、激しい食害とその後の二次展葉は葉の生物季節だけでなく、個葉の光合成能力にも影響を与えていた
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では、植食者に対する応答を個体レベル、個葉レベルで調査し、ウダイカンバが衰退(死亡)に至るパターンとプロセスを理解し、ウダイカンバの衰退を回避・軽減するための施業技術」を立案することを目的としている。今年度は、継続観察しているウダイカンバの食害履歴と死亡時期が特定できただけでなく、個体の死亡率に関与する要因を抽出できた。この結果は衰退に至るパターンの一端を示していると同時に、衰退を回避・軽減するための施業技術の立案においても有益な情報である。また、激しい食害がその後の二次展葉を誘発することを明らかにするとともに、二次展葉により形成された葉と食べ残された葉(一次葉)との間で光合成能力を比較し、二次葉の光合成能力が一次葉に比べて低いことを示した。この結果は、衰退プロセスの解明に繋がるものであり、個葉の生理特性と樹木の死亡との関連性について方向性を見いだすことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ウダイカンバの食害・枯死状況について継続的に観察を行っていくとともに、生存木については、樹冠部における枝枯れの程度(衰退の程度)を個体ごとに評価し、衰退の程度と食害履歴、観察木の個体サイズとの関係について解析を行う予定である。また、観察木を対象に年輪解析を行い、健全なウダイカンバが衰退・枯死に至るまでの過程を抽出する予定である。そして、食害を受ける以前のウダイカンバの直径成長と食害後の衰退・枯死との関係性について解析する予定である。食害後のウダイカンバの生理特性については、光合成能力の季節変化など、より詳細な測定を行っていく予定である。継続調査を行っている試験地で、食葉性昆虫(クスサン)の大発生が起こらない場合が想定される。しかし、北海道における今年度のクスサンの発生状況を把握しており、次年度以降、クスサンの大発生が見込まれる場所を抽出している。そのため、継続試験地でクスサンの大発生が起こらない場合は、他の場所において食害後のウダイカンバの生理特性等について調査を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は旅費と消耗品費の購入、人件費・謝金に使用する計画である。旅費は、定期的に行っている観察個体の衰退程度、食害強度、および食害後の樹木の応答(二次展葉の有無)などの現地調査のほか、年輪解析を行うための円板の採取(伐採)や食害後の生理特性を評価するための枝葉のサンプル採取のために使用する。また、研究分担者との打ち合わせ、および各種学会発表に使用する。消耗品は年輪解析や光合成能力等を行うためのサンプル採取、分析に必要な機材、薬品類の購入に使用する。人件費・謝金は年輪解析を実施する際に使用する計画である。
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