2012 Fiscal Year Research-status Report
海産生物における記憶喪失性貝毒の生産・動態に関する研究
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23580285
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
小瀧 裕一 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (30113278)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小檜山 篤志 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (60337988)
安元 剛 北里大学, 海洋生命科学部, 講師 (00448200)
寺田 竜太 鹿児島大学, 水産学部, 准教授 (70336329)
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Keywords | 記憶喪失性貝毒 / ドウモイ酸 / イソドウモイ酸 / Nitzschia / navis-varingica / Pseudo-nitzschia / 珪藻 / 細菌 |
Research Abstract |
Nitzschia navis-varingicaの記憶喪失性貝毒(ASP毒)生産に及ぼす諸要因について検討した。光照射に関しては、ドウモイ酸(DA)- イソドウモイ酸B(IB)を生産するタイプの株を用いて増殖と毒生産との関係を調べた。増殖も単位細胞当たりの最高毒含量も各照度間で大差ない株と、照度が高い方の増殖速度が速く単位細胞当たりの最高毒含量も高い株が存在したことから、さらに検討が必要と考えられた。また、同株を使って行った塩分濃度別の増殖と毒生産は塩分濃度14-28‰で高く、同種が汽水域に特異的に分布する事実と符合したが、塩分濃度の変化に対応してASP毒が生産されるか否かについては更なる検討が必要と思われた。 毒組成がDA-IBおよびIBのみタイプの株を用いて、無菌培養株の作製を試み毒組成を調べたところ、DAが減少しIAが現れることが再確認された。細菌がごく少数存在する不完全無菌培養株についても毒組成を調べたところ、割合は少ないがDAが減少しIAが現れることが確認された。また、それに有菌親株の細菌を含む培地画分を戻したところ毒組成は有菌親株の組成に戻った。 わが国のN. navis-varingicaの分布調査の結果、昨年の福岡・長崎に続き津軽暖流側の山口県長門市と静岡県下田市から同種が分離された。東南アジアにおける同種の分布と幅広い増殖特性を考慮すると、同種は黒潮に乗ってわが国各地にその分布を拡大した仮説を導くことができた。 紅藻ハナヤナギに関しては、胞子からの単種培養株の確立を目指したが、不調であったため、採集細胞から生長してきた枝細胞を培養し抗生物質添加による無菌化を試みた。ほぼ無菌化に成功した生細胞について、その毒性を親株のそれと比較したところ、数分の一に減少したが、毒生産に及ぼす細菌の影響は、P. multiseriesより少ないと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ASP毒生産珪藻2種(P. multiseriesおよびN. navis-varingica)のうち後者に関しては、増殖と毒生産に及ぼす光照射、塩分濃度の影響について検討し、塩分濃度の方が毒生産への影響が大きいことや増殖・毒生産は汽水条件で高いことを確認した。同種のASP毒生産の生態学的意義を考える上で、重要である。P. multiseriesに関しては、新たに分離を試みたが、単藻培養培養株の確立には至らず、ASP毒生産機構における細菌の役割に関して、検討を深めるには至らなかった。N. navis-varingicaに関して、新たに無菌培養株を作製し毒生産に及ぼす細菌の影響を調べ直した結果、細菌の存在がDAとIAの存否に大きく影響することが確認された。今回は不完全無菌株についても検討し、細菌が少し残っている場合影響の度合いは少ないが、同様の影響があることを確認した。国内のN. navis-varingicaの分布調査を実施し、津軽暖流域の山口県長門市および黒潮域の静岡県下田市でその分布を確認したことから、同種が黒潮に乗って東南アジアからその分布を拡大してきた仮説を導くに至った。同種のrDNAの塩基配列比較の結果もそれを裏付けていた。 紅藻ハナヤナギの培養藻体から新たに生長してきた枝細胞を用いて無菌化を試み、ASP毒生産に及ぼす細菌の影響を調べた結果、その影響はP. multiseriesよりは少ないことが示唆された。また、同海藻からASP毒を抽出・精製し少量ではあるが、DA、IA、IB、5’-epi-DAの完全精製物を得た。 傭船の困難さなどからP. multiseriesの培養株を確立できなかった点でやや遅れているが、その他の課題に関しては当初の予定通り進んでおり、総合的に見た本研究の現在までの達成度は、おおむね順調と自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
記憶喪失性貝毒生産珪藻2種および紅藻ハナヤナギを用いてその毒生産機構や動態および毒生産の生態学的役割を解明することが最終目的であるが、珪藻2種に関しては、おもに毒生産と細菌の関わりから追及する。P. multiseriesに関しては、無菌培養するとその毒生産能が大きく低下し、それにある種の細菌を添加すると毒生産能が大きく復活することが確認されているが、珪藻と細菌の関わり方については、不明である。本研究では、両者の間に何らかの化合物が関与して毒生産が増大するか否かを明らかにすることを目指す。そのために最終年度はP. multiseriesの分離を早めに行い培養実験を行うこととする。 N. navis-varingicaに関しては、DA、IA、IBを主成分とする毒生産能と毒組成を制御する物理的因子の検討を継続するとともに、細菌の影響もさらに深く検討する。すなわち無菌化によって増加するIAの培養液中での動態をDAのそれと比較しながら、同種の毒生産機構を考察する。 紅藻ハナヤナギに関しては、胞子からの単藻培養株を確立して毒生産と細菌との関わりをさらに明らかにしていく。ハナヤナギから抽出した異性体を含むASP毒はその精製物を十分量確保し、それらをスタンダードとして用いて各種検討に使用する。 ASP毒生産珪藻2種に加えてハナヤナギの毒生産機構における細菌の影響と毒生産を制御する諸因子を総合的に考察することにより、海産藻類におけるASP毒生産の生態学的意義を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(6 results)