2011 Fiscal Year Research-status Report
制度派農業組織経営学によるキリマンジャロ・コーヒーのフェア・トレードの評価
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23580301
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
辻村 英之 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50303251)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 農業経営 / 現代制度派経済学 / タンザニア / キリマンジャロ / 最大化 / 社会制度 / 混成性人間モデル / ホジソン |
Research Abstract |
キリマンジャロ農村を念頭に置くと、私経済に近い層から拡大家族経済、農村経済、地域経済、国民経済、グローバル経済に区分できる。それぞれの場における基本的な目標や価値観は異質である。 経営純収益最大化をはじめとする農業経営(および農家効用最大化をはじめとする農家経済)の私経済的目標は、これらの多様な社会経済的目標に制約されながらも、一定範囲で自律する。複数の私経済的目標・社会経済的目標の間のバランスやコンフリクトの調整(優先順位付けなど)は、経営者の重要な役割であり、その価値観(経営理念)に規定される。すなわち農業経営の目標(それに沿った行動)は、経営理念や社会経済(あるいは外部環境)によって制約・規定される多元的なものである。 この農家経済経営体の把握を、「混成性農業経営体モデル」と呼称したい。現代制度派経済学と呼ばれるホジソンの議論は、制度を「集団や大規模な集合で相互作用する人々が共通に保有する、定型化され耐久的な性質をもった行動パターンや思考習慣」と定義した上で、人間は熟慮の上で効用最大化の選択を行うが、合理的計算能力・情報量の制約がゆえに、その主観的・自律的な行動は部分的なものであり、社会制度に依拠した低意識の行動をとることが多いとする。 著者はこの混成性人間モデルを、農家経済経営体に適用する。すなわち上記の、自律する収益・効用最大化の私経済的目標・行動に、「熟慮の上での効用最大化」を当てはめ、社会経済によって制約・規定される目標・行動に、「社会制度に依拠した低意識の行動」を当てはめる。ただし社会制度依拠の目標であっても、私経済的目標とのバランスが考慮される場合、一定の熟慮(限定的な最大化計算)をした上で、社会経済的目標を優先することがある。「収益・効用最大化の熟慮」と「低意識での社会制度依拠」を両極として、それらの中間に「一定の熟慮の上での社会制度依拠」を残す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度(1年目)の研究の目標(1)は、「研究実績の概要」で説明した「混成性経営体モデル」の確立と、コンヴァンシオン理論の「6つの規範的秩序原理」の整理である。 実績概要として挙げた前者については、学会での口頭報告・論文投稿を終え、計画以上の進展となっている。後者についても、「研究発表」に記載した共著『食の経済』において、「コーヒーのフェアトレードの現実:「生産者支援できる」食品の可能性」を議論する過程で、その整理を行っている。ただし両者をどう絡めるかについては、現在、検討中である。 研究目標(2)「キリマンジャロ・コーヒーの生産から消費までの各流通段階における価格形成時の品質評価についての聞き取り調査」についても、2回の産地・タンザニア(主にキリマンジャロ山中のルカニ村)における調査と、複数回の消費地・日本での調査、およびコーヒー専門家からの情報提供を実施し、十分なデータを収集できている。
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Strategy for Future Research Activity |
約44万円の残額は、他の科研費の補助を得た共同研究(フェアトレードによる貧困削減と徳の経済の構築に向けた理論的・実証的研究:近畿大学・池上甲一代表)でのルカニ村調査の影響で、本研究でのルカニ村調査の日数が制約されてしまったことが主因である(ただし上記のように、本研究に必要なデータは十分に収集できている)。 本研究にとっては幸いなことに、平成25年度(3年目)前半に、半年間の研究重点期間をもらえることになったため、当初予定していた10日間程度のルカニ村調査を大幅に拡張し、単著の出版に向けた研究成果のとりまとめについても、足りないデータをフォローアップ調査で補いながら、できる限りルカニ村で行いたい。その調査・研究旅費の増額分に、この44万円を充てたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度(2年目)の研究については、まずアマルティア・センの「ケイパビリティ」(達成可能な機能の集合)の概念を導入し、コーヒー生産者にとって望ましい機能・状態が実現することを「フェア」ととらえたい。そのための文献収集は既に終え、現在、院生たちと議論しながら、輪読している段階にある。 その「フェア」の評価指標と上記の経営体モデルの下で、フェア・トレードが実践されているルカニ村において、聞き取り調査はもちろん、ルカニ村民の行動を規定する価値観・倫理観、さらには互酬性(相互扶助システム)などについて幅広く理解するために、3週間程度の参与観察を行う。さらには、1年目のルカニ村と日本における聞き取り調査のフォローアップをも行う。
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