2012 Fiscal Year Research-status Report
水量・水質の再現性を両立させるための流出負荷量モデルの多目的最適化に関する研究
Project/Area Number |
23580334
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
田中丸 治哉 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80171809)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
多田 明夫 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00263400)
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Keywords | 流出負荷量モデル / 多目的最適化 / 妥協計画法 / 長短期流出両用モデル / LQ式 / 水質観測 |
Research Abstract |
奈良県・五條山林小流域において,雨量観測及び三角堰による流量観測を継続するとともに,フローインジェクションポテンショメトリー(FIP)オンサイト水質観測システムによる高頻度・長期水質観測データの収集を実施して,今後の解析に用いるデータを蓄積した.同観測システムによって,ナトリウムイオン,カリウムイオン,塩化物イオンが15分間隔で連続的に観測された. さらに,長短期流出両用モデルに流出成分別のべき乗型LQ式を組み合わせた流出負荷量モデルを用いて,五條山林小流域におけるナトリウムイオンの流出負荷量を推定した.決定すべきパラメータは,流出モデルが14個,LQ式については4つの流出成分に対して2個ずつの8個である.これら22個のパラメータは,SCE-UA法を用いて,河川流量及び流出負荷量の再現誤差(RMSE)が小さくなるように決定した.パラメータの同定手順には,次の3通りを検討した.①河川流量の再現誤差を最小化して流出モデルのパラメータ14個を決定した後,流出負荷量の再現誤差を最小化してLQ式のパラメータ8個を同定する.②流出負荷量の再現誤差を最小化して,全パラメータ22個を同定する.③河川流量と流出負荷量の再現誤差を両立させる解を妥協計画法で同定する. 各手順で得られたモデルによる河川流量,流出負荷量の再現性を比較したところ,次のような結果を得た.RMSEの値でみると,①は河川流量の再現性が良いが,流出負荷量の再現性が悪く,②は逆に河川流量の再現性が悪いが,流出負荷量の再現性は良い.妥協計画法による③は,河川流量の再現性は①よりやや劣る程度,流出負荷量の再現性は②よりやや劣る程度となっており,③によれば両者の再現性のバランスが取れたモデルが得られることが分かった.すなわち,妥協計画法によれば,河川流量と流出負荷量の再現性を両立させたモデルが得られることが示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究実施計画では,奈良県・五條吉野山林小流域における雨量・流量観測とオンサイト水質観測システムによる渓流水質データの収集,流出負荷量を推定するための水質タンクモデルを作成し,妥協計画法などの多目的最適化によって水量と水質の再現性を両立させるためのパラメータを決定することが予定されていた. 研究実績の概要で述べた通り,平成24年度は,長短期流出両用モデルに流出成分別LQ式を組み合わせた流出負荷量モデルを用いて,五條山林小流域におけるナトリウムイオンの流出負荷量を推定した.その際,合計22個のパラメータを同定する手法として,河川流量と流出負荷量の再現誤差を最小化する3通りの手順が検討され,多目的最適化手法の一つである妥協計画法によれば,河川流量と流出負荷量の再現性を両立させたモデルが得られることが示された.なお,流出負荷量モデルについては,水質成分の流出・蓄積過程を組み込んだ中曽根・中村(1991)の水質タンクモデルも検討することになっていたが,これについては検討に至っていない.しかしながら,本研究の主目的は,流出負荷量モデルの構造に関する検討よりも,水量と水質の再現性を両立させるためのパラメータの多目的最適化にあり,その点から見れば,平成24年度は大きな進捗があったことから,「おおむね順調に進展している」と評価した. なお,平成23年度の研究では,直列4段タンクモデルを対象として,妥協計画法による高水と低水の再現性を両立させた多目的最適化を実施し,妥協計画法の適応性を明らかにすることに力点が置かれていたため,平成24年度の研究発表は,平成23年度の研究成果が主体であって,流出負荷量の推定に関するものが含まれていない.河川流量と流出負荷量の再現性を両立させたモデルに関する研究成果については,平成25年9月の農業農村工学会大会講演会などで発表する予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度も雨量・流量観測と渓流水質観測を継続的に実施し,できるだけ長期間かつ欠測の少ない連続的なデータを収集する. 長短期流出両用モデルに流出成分別LQ式を組み合わせた流出負荷量モデルについては,以下の点について検討する.①ナトリウムイオンだけでなく,カリウムイオン,塩化物イオンについても流出負荷量の推定を実施する,②観測流量と観測負荷量からLQ式をあらかじめ決定しておき,これを流出モデルに組み込んだ場合の再現性と,本研究で提案しているモデルの再現性を対比する.③平成24年度の解析では,10分単位の河川流量と流出負荷量データが使用されていたが,流出負荷量のデータが1時間単位,1日単位でしか得られないケースを想定した解析を実施して,パラメータの同定に用いる流出負荷量データの観測頻度が流出負荷量の再現性に及ぼす影響を明らかにする. 一方,LQ式に代えて,水質濃度と河川流量の関係を表すCQ式を用いることで,水質濃度の時間変動を再現する解析を実施し,河川流量と水質濃度の再現性をできるだけ両立させるパラメータが得られるかどうかについても検討する.さらに,長短期流出両用モデルだけでなく,TOPMODELの計算プログラムも作成していることから,流出モデルをTOPMODELに代えた場合の同様の検討も実施する予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費(直接経費)は,1,000千円である.平成25年度はこの1,000千円のうち,物品費に300千円,謝金に50千円,国内旅費に130千円,外国旅費に400千円,その他に120千円を割り当てる予定である.数値計算に必要なPCやソフトウェアについては,平成23年度に購入済みであるため,物品費は観測に必要な消耗品の購入に使用する.謝金は現地観測のための調査謝金である.国内旅費の多くと外国旅費の全ては成果発表旅費として使用する.その他の経費は,論文投稿料として使用する.
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