2011 Fiscal Year Research-status Report
心房細動モデルを用いた心房筋におけるチャネル分子背景の加齢性変化の解析
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23580421
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 公一 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (50330874)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 心房細動 / イオンチャネル / 加齢 |
Research Abstract |
心房細動は加齢に伴って発生率が上がる代表的な不整脈であり心不全のみならず脳梗塞等の様々な病態のリスク要因となり得る。しかしながらその発症機序の詳細は不明である。本研究は実験動物として広く普及するラットを用いて心房細動を誘導し、その際に加齢性に発現量に変化が見られるチャネル分子を中心にその分布と心電図との対応関係を解析することによって不整脈の発症機序を分子レベルで理解することを目的としている。本年度は経食道電極カテーテルを用いて頻回刺激を行うことによって心房細動モデルラットを作製しこの心房細動の性質を検討した。この結果、老齢ラットは若齢ラットに比べ心房細動の誘発率が高くその持続時間も有意に長かった。またアミオダロンによって心房細動の誘発は濃度依存的に抑制された。これらの結果から経食道カテーテル刺激法によって引き起こされる心房細動はヒトの心房細動と共通する発症メカニズムを持っており老齢動物において心房細動が起きやすい器質があることが示唆された。次に不整脈発生の大きな要因である活動電位再分極過程の延長に関与すると考えられる各種のカリウムチャネルの発現量解析を行った。この結果、IKr、IKs、Itoチャネルに関しては老齢ラットと若齢ラットとの間で有意な差が観察されなかった。また心房に特異的に発現するIKurも老齢ラットと若齢ラットにおける差は見られず、他の遅延整流性カリウムチャネルと比較して発現量がわずかにしか見られなかったことから、ラット心房の活動電位再分極相において寄与が少ないことが示唆された。これに対してIKAChは老齢ラット右心房では増加し、老齢ラット左心房では減少していたことから、心房細動を始めとする加齢性の不整脈発症に関与していることが示唆された。モデル動物の有用性と加齢に伴う特徴を明らかにしたこれらの成果は心房細動の機序解明のための大きな一歩になると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究は予定をおおむね達成したと考えられる。この理由として申請時の本年度研究計画として、(1)ラットにおいて誘発される心房細動の詳細な検討、(2)加齢に伴う不整脈基盤の検討、(3)薬理学的方法論を用いた心房細動の制御を目標としたが、(1)、(2)に関しては経食道カテーテル法によって誘発された心房細動の性質、及び活動電位再分極過程に関与する各種カリウムチャネル、特に心房内に特異的に発現するIKur、IKAChを中心としてその発現量を解析したことによってほぼ達成されたことによる。(3)に関しても現在進行形の形で行っており、主に(2)で変化の見られたIKAChの阻害薬であるテルチアピンや心房のみに発現するIKurの阻害薬であるDPO-1等を用いて心房細動誘導における影響を検討している最中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策として、現在行っている研究すなわち23年度の結果から得られたIKACh及びIKurチャネルの加齢に伴う発現量変化を元に、各チャネルを薬理学的に遮断又は作動させることにより心房細動がどう影響されるかを検討し、さらにはその発症を制御することが可能かどうかを検討することを継続していく予定である。さらにギャップ結合の関与を検討するためヒトでは加齢とともに減少することが知られるconnexin43の脱リン酸化阻害等によって心房細動の発症頻度の変化について検討を行う。その後、疾患モデル動物やストレス負荷ラットを用いて、基礎疾患の心房細動に与える影響の解析を行いたいと考えている。具体的には、心房細動の基礎疾患として高血圧、糖尿病、虚血性心疾患等が挙げられるが、これらの疾患モデル動物を用いて心房細動の発症に与える影響について検討したい。これらの検討が進めば心房細動の機序解明のための基礎研究でなく、臨床治療への応用や創薬において非常に重要な情報を提供することになると考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は900,000円の研究費の内定を受けているが、本年度の研究は薬理学的方法論が主体となるためその薬品の購入及び実験動物の購入に大半を充てたいと考えている。また研究内容をまとめて発表する予定であるため、学会発表の旅費や論文投稿における費用も確保する予定である。
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