2011 Fiscal Year Research-status Report
高温障害による土壌病害の激発化プロセスの究明と克服シーズの創出
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23580460
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松元 賢 九州大学, 熱帯農学研究センター, 助教 (60304771)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
土屋 健一 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40150510)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / インドシナ半島 / ベトナム / ミャンマー |
Research Abstract |
本研究は、高温気象による転換畑作物の被害の激発化および蔓延化激の要因を究明し、環境に優しい熱帯性土壌病害の克服技術を創生することを目的としている。平成23年度に実施した研究は以下の通りである。【課題1】熱帯アジア土壌病害調査ベトナム北部紅河流域の転換畑作物(ダイズおよびトウモロコシ)の苗腐敗症(フザリウム属菌)と苗立枯病(リゾクトニア属菌)について、原因菌の発生分布・頻度、発病度調査および気象観測を行い、熱帯地区をモデルとした土壌病害発生シミュレーション解析に不可欠な基礎データの収集に成功した。 【課題2】高温障害の植物根圏に及ぼす影響解析 水田リゾクトニア属菌による苗立枯症,根腐症,幼苗腐敗症の病害モニタリングを行うために、九州大学ファイトトロン(人工気象装置)において擬似的な熱帯環境を構築し、リゾクトニア属菌汚染土壌へのイネの試験栽培を行った。原因菌のリゾクトニア属菌を接種した後,発生する試験作物の病害発生の様相について病気の初期感染からイネ幼病の腐敗・枯死、病気の蔓延・拡大に至るまでを詳細に観察した。また、原因菌の生育測定、病班伸長の測定、植物根圏土壌微生物のDNA構造解析などについてデータ化し、病害発生モデリングの基礎データを構築するとともに、蛍光顕微鏡による植物根圏部分の土壌微生物のモニタリングに成功した。【課題3】植物由来の生物的防除資材の探索 香草植物や薬用植物の抗菌・殺菌成分を素抽出し、土壌燻蒸(フーミゲーション)による土壌病害の生物的防除への利用可能性について検討した。その結果、ワームウッドおよびチョウジから極めて殺菌・抗菌作用の高い植物成分(製油)の抽出に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度に設定した3つの課題について、各課題の進捗状況については以下のとおりである。【課題1】熱帯アジア土壌病害調査 平成23年度の予定では、ベトナム国に調査旅費を計上していたが、ハノイ大学農学部Ha Viet Cuong博士とインターネットメール等を通じて、調査研究の打ち合わせをスムーズにはかることができた結果、ハノイ大学農学部教員および学生が中心となって、ベトナム北部紅河流域で発生するダイズ苗腐敗症(フザリウム属菌)や苗立枯病(リゾクトニア属菌)の病害調査を実施することができた。病害調査の基礎データに基づいて、熱帯地区をモデルとした土壌病害発生シミュレーション解析が可能であると判断した。 【課題2】高温障害の植物根圏に及ぼす影響解析 外国人特別研究員Seint San Aye博士と共同で、ベトナム産リゾクトニア属菌およびベトナムイネ品種を用いて、九州大学ファイトトロン(人工気象装置)において擬似的な熱帯環境を構築し、リゾクトニア属菌汚染土壌へのイネの試験栽培を行った。リゾクトニア属菌をイネ幼病へ接種を行った後,病気の初期感染からイネ幼病の腐敗・枯死、病気の蔓延・拡大に至るまでを詳細に観察し、気象条件が満たされれば我が国でも土壌病害の激発化および蔓延化の可能性があることを示唆するデータが得られた。【課題3】植物由来の生物的防除資材の探索 我が国では香草植物や薬用植物は近年の園芸ブームにより比較的入手しやすい環境にあり、これらの植物の抗菌・殺菌成分を利用した植物農薬の可能性について研究が進みつつある。しかしながら、薬用植物や香草植物の土壌燻蒸(フーミゲーション)への利用に関する研究は少なく未知な部分が多い。そのなかでも、ワームウッドおよびチョウジから極めて殺菌・抗菌作用の高い植物成分(製油)の抽出に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策については、以下のような課題を設定して実験研究を進める予定である。【課題1】熱帯アジア土壌病害調査 ミャンマー国イラワジ河中流域を調査対象地区として研究を進める。蔬菜類および花卉類に発生する病害について、原因菌の分類・同定、植物根圏の被害病斑の調査および病害伝搬経路の解明を行う。ミャンマーにおける調査研究は、イエジン大学農学部の教員と研究で行う。これらの調査データは、ベトナム国で発生する病害データと比較解析を行うための基礎データとするとともに、熱帯病害発生のシミュレーション解析のための基礎資料とする。 【課題2】熱帯病害モデリング解析 我が国で高温障害の影響により発生する可能性がある熱帯性土壌病害のうち,難防除土壌病害の蔬菜類青枯病細菌、リゾクトニア属菌、フザリウム属菌およびファイトフトラ病害について病害モニタリングを行う。病気を引き起こす3要因(素因、誘因、および主因)についてそれぞれパラメーターを設定し、各パラメーターが熱帯土壌環境条件に最も符合する条件をインプットした場合、予想される熱帯土壌病害の発生と激発化および蔓延化の可能性について検討するとともに、発生予察に利用するための病害発生シミュレーションへの利用を目的としたシステムの開発を行う。【課題3】植物由来の生物的防除資材の探索 抗菌・殺菌成分を実際の被害発生圃場に適用し、難防除土壌病害の防除への有効性について検証する。トラップ植物,共生植物および対抗植物を利用した耕種的防除法にて熱帯・亜熱帯地域で適応可能かどうかについて検討する。植物由来の抗菌・殺菌成分および微生物の分解作用により産生される成分を解析するとともに、根圏土壌微生物の群集構造解析による動態把握を試み、有効成分が土壌病害の防除効果に作用する機構を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度への研究費の生じた状況として、平成23年度は、ベトナムの病害調査はヒアリングと実際の調査研究はベトナム側で行ったため、海外調査および病害調査研究に関する費用の繰り越しが発生した。そこで、次年度以降はインドシナ半島(ミャンマーおよびバングラデシュ)を調査地区として拡大するために海外調査を計画する。また、ヒアリングによる病害調査については次年度以降も継続する。さらに、新規植物農薬の創世と被害予測モデリングの確立に特化した基礎研究基盤の構築をはかる。次年度以降の具体的な研究課題については、以下の通りである。【課題1】熱帯アジア土壌病害調査 平成24年度では、ベトナム国、ミャンマー国およびバングラデシュ国への調査研究を行うための旅費を計上する。ベトナム国ではハノイ大学農学部Ha Viet Cuong博士との研究打合せ、ミャンマー国イエジン大学農学部Seint San Aye博士との研究打合せおよび病害調査、およびバングラデシュ農業大学アビアラフマン博士との研究打合せおよび病害調査を予定している。【課題2】熱帯病害のモデリング解析 平成24年度では、モデリング解析に必要なコンピュータおよび解析用ソフトウェアを計上する。また、佐賀大学染谷研究室を訪問し、土壌微生物の観察のための技術指導を受けるための研究調査旅費を経費を計上する。付随して土壌微生物の集積モニタリングを観察するための蛍光顕微鏡装置の購入費用を計上する。【課題3】植物由来の生物的防除資材の探索 植物からの抗菌・殺菌成分の抽出のための分析試薬および物質精製のための装置消耗品類を予算に計上する。また、植物材料の調達費、抗菌試験のための微生物培養試薬類についても予算に計上する。
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Research Products
(8 results)